Haken「Fauna」: プログレと動物の相性良すぎ説。メジャーの貫禄漂う英国産最新プログレメタル待望の7th作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はHakenの2023年リリース作『Fauna』をご紹介します。

Fauna / Haken


Fauna 

Haken(ヘイケン)はイギリスのプログレッシブ・メタル・バンド。

来歴


2007年にロンドンで結成されたプログレッシブ・メタル・バンド。デビューは2010年。

Pink Floyd、Yesなど’70年代UKの伝統的なプログレのエッセンスと、Dream TheaterやMetallicaといったヘヴィメタル・サウンドを併せ持つスタイルで、卓越したセンスとメタルバンドの域を超えた様々なシーンに対応しうる演奏力を武器としています。

2018年には5thアルバム『Vector』と、それと対になる形で2020年に『Virus』というアルバムを発表します。この2枚は、ジャケットの色からケチャップとマスタードの関係と言われており、3rdアルバム『The Mountain』収録の「Cockroach King」というバンドの代表曲を主人公に、ウィルスとそれが繁殖するための媒体といったテーマに着手。同時に2020年には新型コロナのパンデミック、ロックダウンが始まり、Hakenがまるで時代を先読みしていたかのようなそのテーマの2作品を出したこと、それも衝撃的でした。ちなみに『Vector』は頭文字がV、『Virus』はVIなのでこれが5枚目、6枚目のアルバムであるという裏ギミック付きです。

その後のニュースでは、ボーカルのロス・ジェニングス(Ross Jennings)がソロ・アルバムを発表、D’Virgilio, Morse & Jenningsでシンガー・ソング・ライターとしての一面を覗かせ、アコースティック・シーンでの活躍も見せます。

一方で、2008年よりキーボードを務めたディエゴ・テヘイダ(Diego Tejeida)が2021年11月に突如バンド脱退を発表するなど、ファンの心を揺るがす事態もありました。バンドには、学業で脱退していたオリジナルメンバーのピーター・ジョーンズ(Peter Jones)が復帰。話題を集めました。

バンドは『Virus』をリリースした2020年の終わりからスタジオ作業を開始し、パンデミックやロックダウンの異常事態の中、楽曲を制作。昨年4月に先行シングル第1弾となる「Nightingale」を発表すると、さらに年末からリリース直前に先がけて3曲のMVを公開しています。

アルバム参加メンバー


  • Ross Jennings – Vocals
  • Richard Henshall – Guitars, Keyboards
  • Charlie Griffiths – Guitars
  • Peter Jones – Keyboards
  • Conner Green – Bass
  • Ray Hearne – Drums

楽曲紹介


  1. Taurus
  2. Nightingale
  3. The Alphabet Of Me
  4. Sempiternal Beings
  5. Beneath The White Rainbows
  6. Island In The Clouds
  7. Lovebite
  8. Elephants Never Forget
  9. Eyes Of Ebony

バンド通算7枚目となる本作『Fauna』はまず、リッチな佇まいの猿や象などの動物が描かれたカラフルなジャケットが目を引きます。そもそも“Fauna(ファウナ)”とは動物相という意味で、特定の地域・時間においてそこに生息している動物の組織組成を表します。

これに関してロスは、「俺たちが曲を書き始めたとき、曲ごとに動物を一匹割り当てることを前提にした」と語っています。

ということで、本作は各曲の歌詞に少しずつ動物的な要素が組み込まれ、そこにメッセージも含ませたインテリジェントな内容になっているという前提を押さえておきたいです。このアルバムは言ってしまえばコンセプト・アルバムなのですが、あえてそこをゴリ押ししてこない姿勢もまた、このアルバムに対して聴き疲れを起こさず長く付き合っていける魅力と言えるでしょう。

では一体どのように曲が描かれているのでしょうか。例えば1曲目の#1「Taurus」。先行でMVが公開されたうちの1曲で、アルバムのオープニングに相応しく非常にヘヴィで攻撃的なサウンドが持ち味の楽曲です。前のめりなヴァースから広がるサビと、難解な曲をナチュラルに歌い上げるロスのボーカルこそHakenの魅力です。

タウルスというのは牡牛座のことを指します。厳密には、ここで描かれているのはヌーの大移動についてなんですが、ヌーって群れで出産を行うために春になるとアフリカの地を何ヶ月も掛けて大移動するんですね。それが色んな群れが途中からどんどん合流していくので最終的に数10万頭っていう規模の大移動になります。「Taurus」ではそれを、ロシアに侵攻されウクライナから避難をする人々に喩えています。そうした歌詞の背景を知った上で聞くと、攻撃的なリフは非常に破壊的に聞こえるし、伸びやかなサビもどことなく切なさを帯びているように聞こえるわけです。

続いてアルバムの中ではリスナーへの公開が最も早かった#2「Nightingale」。サヨナキドリという、ウグイスに近い鳥がモチーフで、ナイチンゲールのタイトルはそのままその鳥の英語名です。名前の通り夜に鳴く鳥なのですが、MVでは夜の街とか森を鳥目線で進んでいくという映像になっています。この曲はまさに『The Mountain』のスタイルに近いHakenナンバーで、複雑なリズムパターンだったり、Queen風のコーラスが一瞬顔を覗かせたりとアルバムの顔とも言えますね。

#3「The Alphabet Of Me」Hakenらしいサビやクアイアが特徴。ちょっとエレクトロなキーボードだったり、ライブを強烈に意識させるシンガロンだったりと、よく聞くと色んなジャンルが混在してるナンバーです。比較的ジェンティでエモーショナルな本作においてメロディが印象に残りやすい貴重なナンバーだと思います。

#4「Sempiternal Beings」は乾いたドラムと幽玄なアルペジオの空気感。曲のスロー感や盛り上げ方がここまで似通っていることが若干気になりつつも、DT的な刻みと攻撃的なギターソロ、そして波のように押し寄せてくるコーラスが退屈を攫ってくれます。

ミドルテンポながらヘヴィでスピード感も感じられるリフが特徴の#5「Beneath The White Rainbows」。中盤におけるピアノとドラムのキメ+Djentな刻みも◎。6:45という長さに無駄のない展開や、各メンバーの見せ場を作り、プログレッシブな一つの曲として聴かせるところにレベルの高さを感じます。

シンセベースが印象的な#6「Island In The Clouds」。徐々にヘヴィに展開していく、アルバムの特性をこの曲も踏襲。7弦を含む多彩なギターサウンドが聴きどころd瀬、1:10〜のソロについては’90s初期を思わせ、かつトリッキーという引き出しの多さに脱帽してしまいます。

最後に公開されたシングルである#7「Lovebite」。メタリックなサウンドと悍ましいMVに目をふさいでしまいそうになりますが、メロディは非常にポップなナンバー(あくまでHaken基準で)に仕上がっていると思います。しかしその実、曲の題材となったクロゴケグモは交尾後にメスがオスを捕食するという驚異の生態。破綻した男女関係をこの曲に見出す、恐るべきセンスです。

そういったこれまでのHakenを踏襲しながらサウンドが進化している『Fauna』、これ以外にも聴くべき曲が2つあります。

まずは8曲目の#8「Elephants Never Forget」。これは11分を超えるこのアルバム最大のエピックですが、曲全体から感じるユーモラスな雰囲気はスウェーデンのA.C.TやQueenにも近いです。目まぐるしい展開にロスの表現力が最大限試されているという曲で、まさにHakenが誇る「Cockroach King」スタイルのナンバーですね。

もう一つは、本編ラストとなる9曲目の#9「Eyes Of Ebony」。ここで取り上げられるのは2018年に死亡し、現在絶滅危惧種とされているオスのキタシロサイです。生物はその個体がゼロになってしまったらもうどうやっても増やしたり復活させることはできません。そうした残酷な心理にリチャード・ヘンシャル(Richard Henshall)が重ね合わせたのが、昨年亡くなった父親でした。

悲痛ながら切ないカタルシスたっぷりのナンバーはアルバムのラストらしく、しっとりとした雰囲気、それとは別にDjentなサウンドのギターで刻むサビや中盤のインストパートが特徴的でした。

日本盤ボーナストラックにはアンビエントなインスト曲#10「The Last Lullaby」を収録。本編の荘厳な雰囲気を壊さないよう丁寧に仕上げられたフロイド的ナンバーで、エンディングテーマとしてアルバムに大きな余韻を残しています。

最後に


プログレと動物との相性は昔から良くて、Pink Floydの『Animals』ですとか『Atom Heart Mother(原始心母)』、King Crimsonの「Elephant Talk」、それらを踏襲し近年ではXOXO EXTREMEの『Le carnaval des animaux -動物学的大幻想曲-』という作品も誕生しています。変化球としてはEL&P の『Tarkus』およびマンティコア…挙げればキリがないですが、今回のHaken『Fauna』も要するにそこへ名前を連ねていく作品だということです。

また、そういう意味では山を登る過程を障害を乗り越えることに見立てて、そこから人の生活と結びつけた『The Mountain』にテーマが近いです。全く同じとは言い切れませんが、そこに生じる差分はHakenの音楽的成長と見て間違いありません。

もっと勢いのあるアルバムを聴きたい方は前作までをよりオススメしますが、今回プログレの深みという意味ではかなり上質に、濃厚に仕上げられていて、既存のファンのみでなくより広い世界へアウトリーチしていく、それだけ多様なアルバムになっているということはここで言及しておきます。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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