Dream Theater「Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory」: 20世紀のミステリー・ロック・アルバムの決定版!苦境からの大逆転を果たした米プログレメタルバンド、改心の5th作!(動画あり)
こんにちは、ギタリストの関口です。
Dream Theaterが、1999年にリリースした5thアルバム『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』をご紹介していきます。
どのような作品か一言で言うと、ズバリ、ストーリー仕立てのコンセプト・アルバムになります。同様にDream Theaterのストーリー仕立てのコンセプト作として、『The Astonishing』という作品もありますが、あちらが未来のディストピアを描いたファンタジーだったのに対し、こちらは輪廻転生をテーマに、前世の記憶をたどって謎に迫るサイコ・ミステリーとなっています。
こちらの記事は2019年に一度書いたものなのですが、この度(2023年)、YouTubeの方で正式に解説動画を作ったことで内容を大幅にアップデートさせていただきます。
単に「ストーリー仕立てのコンセプト・アルバムの体をしたプログレメタル作品」というだけではない、濃い解説ができたらと思います。動画の文字起こしをベースとしていますので、下記リンクの動画を見ていただくのもオススメです!
それでは参りましょう。
動画はこちら▼
Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory / Dream Theater
Dream Theater(ドリーム・シアター)は、アメリカのプログレッシブ・メタル・バンド。
大前提「Metropolis Pt.1」
まず、本作のタイトルには「Pt.2(パート2)」というナンバリングがされています。すなわち、本作『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』を語る大前提として欠かせない、「MetropolisのPt.1(パート1)」が存在します。
その「Metropolis Pt.1」ですが、こちらは1992年の2ndアルバム『Images And Words』に収録された9分半の楽曲です。
この曲について深く解説してしまうと、長くなってしまいますので詳しくは割愛しますが……アルバムはこれ一枚でワールド・ツアーを二度も行うに至った歴史的名盤で、その評価は「プログレッシブ・メタルの金字塔」とされています。冒頭でDream Theaterの最高傑作について少し触れましたがこれら2枚、すなわち『Images And Words』か『Metropolis Pt.2』かといった2択が半数を占めると思っていただいて間違いないと思います。
ご興味ある方はまずこちらから聴いてみてください。
この曲には「The Miracle And The Sleeper」と副題がついています。その歌詞では、主人公が夢の中でとある人物に様々なことを語り掛けられているという状況が歌われています。
あるときは「奇跡」と「愛」の重要性を説かれつつも、また別の場面では「死は永遠のダンス」という真逆のスタンスも提示され、最終的に両者をイコールで結んで「愛は永遠の踊り」という結論に至っています。先に言っておくと、この歌詞の中で登場する「The Dance Of Eternity」とか「Scenes From A Memory」といったセンテンスが「Pt.2」に生かされていくこととなります。
一見哲学的とも取れるこの歌詞なんですが、ギタリストのジョン・ペトルーシ(John Petrucci)からすると、実際はジョークを交えたナンセンスな内容です。楽曲の複雑さと歩調を合わせる形で単純明快なメッセージを避けた結果というのが実際のところなんです。
え、ちょっと待ってよ!じゃあタイトルの「Pt.1」ってなんなの?それがあるから「Pt.2」に繋がったわけだし、まさかこれもなんとなく付けたわけじゃないでしょ?と疑問に思われた方もいると思います。
ズバリお答えしますと、これもなんとなく付けたんです!
誤解がないようにもう少しお話しすると、この曲を作るにあたって、ペトルーシが考えたのは、自分が尊敬するRushの名曲のように長く愛される曲になってほしいという願いでした。そこでRushの中でも長編でプログレッシブな名曲、「Cygnus X」のように、「Pt.1」とか「Pt.2」っていうナンバリングをして”みたい”と思ったんですよね。
だから特に続編とかも考えてないし曲が複雑だったから歌詞も複雑にして、極め付けに自分の趣味として「Pt.1」を付けたわけです。
しかし、そんな歌詞とタイトルに対し、曲が極めて緻密で洗練されていることから、裏ではこの曲に関する考察をするファンが後を絶たないという事態に発展します。
そして「Metropolis Pt.1: The Miracle And The Sleeper」は発表から7年後に、その内容を拡張し明確なストーリーを提示するアルバム『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』へと進化していきます。
Jordan Rudessという“変化”
では続いて、実際どのような経緯を経てアルバムが完成したのか、そこを探っていきましょう。
前作のアルバム『Falling Into Infinity』は、レーベルからの指示を受けて自分たちの欲求を押し殺し、ヒットメーカーとの共同作業を強いられ制作されたのですが、蓋を開けてみれば、そんなレーベルの目論見に反して思ったようなセールスをあげられませんでした。
そこでペトルーシと、ドラムのマイク・ポートノイ(Mike Portnoy)は再度、レーベルに「好きにさせてくれ」という打診をします。この要求をレーベル側が飲んだことで、彼らはようやく縛られていた鎖から解放されるわけです。
一方、98年99年とポートノイ・ペトルーシの両名は、サイド・プロジェクトLiquid Tension Experimentで共演したキーボーディストのジョーダン・ルーデス(Jordan Rudess)に改めて感銘し、彼とDream Theaterの音楽との相性の良さを実感していました。
ルーデスには過去に一度断わられていたものの再度オファーをして、今回はルーデスも了承することとなります。
ルーデスに代わる形でバンドを脱退させられた前職のキーボーディスト、デレク・シェリニアン(Derek Sherinian)なのですが、さすがにいきなりクビを宣告され戸惑ったようです。それに対しポートノイのインタビューがあるのでご紹介します。
「彼にとってはショッキングだったかもしれない。でもそれはビジネス上の決断であって、個人的にどうのこうのということではないんだ。色々な要素が絡んではいるけど、バンドを次の世紀に進めるために一番良い方法だと思った。変化が必要だったんだ。」
こう語った上で、ポートノイは実は直前までバンドの活動を続ける意味を問う段階まで、話し合いが来ていたことを明かします。ポートノイ自身ももうDream Theaterを続けたくないと思った時期がありました。それでも続けていくと決断するために何か一つ変化が欲しかった、それをLTEでルーデスから感じ取ったし、彼ならバンドを次のレベルに引き上げられると確信したわけです。
ここであえてデレクへのフォローをするのなら、もう次のアルバムが転けたらバンドはそこで解散という局面まで来ていたわけです。
コンセプト・アルバムへの挑戦
そして、新たな編成となったDream Theaterは1999年、バンドの存続を賭けた起死回生のアルバム制作へと乗り出します。その目的地はLTEのアルバム制作の合間、すでにポートノイとペトルーシによって話し合われていました。
「Dream Theaterとしてのコンセプト・アルバムを作りたい」
「“Metropolis Pt.2”を完璧な形で仕上げたい」
この2点です。
ここでいきなり「Metropolis Pt.2」の名前が出てきておや?と感じた方に説明すると、実は『Falling Into Infinity』のデモ段階で「Metropolis Pt.2」というタイトルの大作曲が存在したのです。バンドはそれを収録する予定だったのですが、先のレーベルからの意向により見送っていたという事実があります。
この「Metropolis Pt.2」を完璧な形で仕上げたコンセプト・アルバム!これこそがDream Theater起死回生の一打となる名盤の座標だったわけです。
アルバムを作るに当たり、いくつか念頭に置かれた作品があります。Pink Floydの『The Wall』やThe Whoの『Tommy』、Marillionの『Misplaced Childhood』などがそれに当たります。さらには、Queensrÿcheの『Operation: Mindcrime』やGenesisの『The Lamb Lies Down On Broadway』の名前も挙がっています。
加えて、ストーリーの輪郭はケネス・ブネラー主演の映画「愛と死の間で」が参考にされました。
“秘密”の大作戦
もう一つ、リリースに際して、バンドにはある作戦がありました。
それは新譜の音源は元より、情報も含め、内容の一切をどこにも公表しなかったのです。レコード会社でさえも発売日にようやく聴けるほど、このアルバムはトップシークレットになっていたのです。
なぜそのような厳重な扱いにしたのか、それには前作の失敗がありました。
前作『Falling Into Infinity』では、インターネットやファンジンに対し、バンドが曲のタイトルや長さといった情報を全て公開していました。それによってアルバムが出る前にファンの間で、これらの情報への推測が飛び交い、アルバムが出た時にはもうそこに彼らが驚くような新鮮さが無くなってしまっていました。ポートノイはそこに危惧を覚え、どこからも情報が漏れないよう、本人たちだけトップシークレットにしたのです。
実際、この徹底した試みは功を奏し、アルバムは発売と同時に各音楽メディアに衝撃と絶賛をもたらす結果となったのです。そして推察好きなファンの度肝を抜いたことは想像に難くありません。
アルバム参加メンバー
- James LaBrie – Vocals
- John Petrucci – Guitars
- John Myung – Bass
- Mike Portnoy – Drums
- Jordan Rudess – Keyboards
楽曲紹介
- Regression
- Overture 1928
- Strange Deja Vu
- Through My Words
- Fatal Tragedy
- Beyond This Life
- Through Her Eyes
- Home
- The Dance of Eternity
- One Last Time
- The Spirit Carries On
- Finally Free
それではそんな魅惑の音楽ミステリー、Dream Theater『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』の物語へ入っていきたいところですが、大変長くなりますのでストーリー解説については是非動画をご覧になってください。こちらの記事では主に楽曲についての音楽的な解説をしていきます。
ストーリーの解説の動画はこちら▼
アルバムは全12曲ですが、大きく「Act1」と「Act2」に分かれ、さらに細かく9つのシーン(場)に章分けがされています。それでいて、楽曲同士は曲の繋ぎ目がないシームレスな構成になっているため、まるで映画を見ているような感覚で曲を楽しみ、物語を追うことができるのが、この作品最大の特徴ですね。
#1「Regression」はストーリーの導入部分。アコースティック・ギターとジェイムズ・ラブリエ(James LaBrie)の静かなボーカルで幕を開けます。メロディは「The Spirit Carries On」のものです。
第2場、#2「Overture 1928」と#3「Strange Deja Vu」では、アルバムを通して主要なテーマが演奏されるほか、夢の世界へいざなわれた主人公の状況説明がされます。#2の1:50付近では「One Last Time」のソロ、2:25では「Finally Free」のフレーズがテンポ違いで登場しています。この曲で演奏される多くはデモ段階の「Metorpolis Pt.2」ですでに構想されていたものです。
穏やかなピアノから不穏な事件の臭いが漂う第3場#4「Through My Words」と#5「Fatal Tragedy」。#5の後半インストパートでは加速していくリフと怒涛のソロ掛け合い、そしてAC/DC、Rushを思わせる高速ユニゾン。ここの息もつかせぬ展開はDream Theaterのベストアクトの一つだと個人的に思います。
#6「Beyond This Life」ではハードな5/4のメインリフ、RadioheadやPink Floydといった先人のオマージュを取り込みドラマティックで緩急ある展開がされます。一方で#7「Through Her Eyes」はゲストのテレサ・トマソン(Theresa Thomason)のクアイアによりDream Theater風ゴスペルが誕生。ライヴではペトルーシのギターと掛け合う見事なパフォーマンスを見せ、感動の第一幕終了となります。
Act2第6場の#8「Home」は「Metropolis Pt.1」の明確な続編として機能する重要な一曲です。「Pt.1」のリフが再登場したりストーリーにおける時系列が最も古いことから、「Pt.1」と「Pt.2」を繋ぐ架け橋的ナンバーになっています。ドロップDを生かしたヘヴィな音作り、アタックに合わせワウペダルが唸る印象的なリフや、ルーデスの功績と言えるシタールを用いたインド風な変拍子リックなど長尺の中に聴きどころも十分です。
プログレッシブ・メタル・インストとして歴史に名を刻む#9「The Dance of Eternity」。これまでの楽曲のフレーズをリフレインしたり複雑な変拍子によって構成されたハイテクニカルな展開に加え、各メンバーのソロ・パートまで設けた至極の一曲です。ここでもルーデスはラグタイム風ピアノで視聴者の意外性を誘い、ジョン・マイヤング(John Myung)のベース・ソロは「Pt.1」を上回る怒涛ぶり。メタリックなユニゾンリフあり、ポートノイが得意とする数学的な変拍子パートもここぞとばかりに登場します。冷静に聴けばかなりカオスな楽曲なのですが、それが一切の曇りなく理路整然と並べられているのには驚愕の一言です。
第8場は物語も佳境、#10「One Last Time」#11「The Spirit Carries On」という美しい2曲のバラードが登場します。前者はルーデスの繊細なピアノが織りなすバラードで緊張感も含みます。後者はDream Theaterのベスト・バラードと名高い名曲。序盤ラブリエの語るような優しい歌声とか、ペトルーシの泣きのギター、そして「Through Her Eyes」同様、テレサのクアイアも絶品です。
そして衝撃の真実とラストが語られる#12「Finally Free」。この曲のために用意された序盤のアルペジオやサビのメロディで感動をもう一入。ドラマティックな語り口と無駄なテクニックは晒さないバンドの実力の高さを再確認できる一曲です。演奏で特筆するなら、アウトロのポートノイ。Rushのニール・パート(Neil Peart)の影響をもろに感じる叩きまくりのドラミングです。
CDの帯に「注意:長時間録音」と書かれるのも納得の、でもまた聴き返したくなる極上の79分コンセプト・アルバムがここに降臨です。
最後に
本作は、先述した通りこれ一枚で一つの作品とする、典型的なコンセプト作なんですが、各曲の出来が本当にすばらしくて、音楽作品でありながら前後する時系列や伏線まで用意するという作曲技術の高さに目改め、耳が奪われます。加えて登場人物のジュリアン、エドワーズ、ニコラスの3人を情景ごと歌い分けるラブリエのヴォーカルが秀逸です。
ギターに関していうと超絶ソロとか、この辺から顕著になるキーボードとのユニゾンもありますが、バッキング・ギターもずっとソロを弾いてるみたいに繊細で歌の節に添ったメロディを提示したり、カウンター的にフィルを入れたりこの辺りもうまいですね。
キーボードはこのアルバムを作る上でルーデスだからできたという要素が満載で、新キーボーディストJordan Rudessという存在をいきなり知らしめた結果になったと思います。
リズム隊もベースソロ、ドラムソロとあったりして上物だけじゃない、全員の見せ場があるというみちみちの情報量に脱帽してしまいます。
今回動画を作るに当たって再度ストーリーを確認したり、構成の緻密さ、そして制作に至るまでの過程を勉強しなおしましたが、おかげでかなり濃密な情報量をここに記すことができたと思います。動画ではストーリーの解説も行っていますので是非そちらもチェックしていただければ幸いです。