定番曲のウラ事情!元々一つだったドリーム・シアターの「姉妹曲」6選解説!

こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。

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本日はDream Theaterの姉妹曲というマニアックなテーマに挑戦します。

1989年デビューから今日まで、アルバム15枚というコンスタントな活動を常に目一杯の状態で続けてきた彼らですが、1枚10曲未満のアルバムも少なくない中で、それでも多くの曲を作って、よりよい作品を届けようとしていことは事実です。

今日はその中で元は1曲だったけど、その後別の曲として発表された曲たちを姉妹曲と定義づけて、同時期同テーマの中で生まれた曲を紹介しようと思います。

同時期に同じベクトルで数曲作られるということは、どのバンドやアーティストでもよくある話ですが、スタジオ音源だけでなくデモやライブ音源も公開しているDream Theaterだからこそ、考察し確証を得ることができると思いました。

アレンジとしてはボツになったものの別々の曲として発表されたり、実は元は一つだったんじゃないかと推察される曲なんかがあったりするので、本日はそれを順番に発表していいきます。

動画はこちら▼

Pull Me Under + Erotomania


まずは2ndアルバム『Images And Words』に収録されたバンドのヒットナンバー「Pull Me Under」と、3rdアルバム『Awake』収録のインスト曲「Erotomania」ですね。

これはオフィシャルブートレグ「Lost Not Forgotten Archives」の『Images And Words Demos 1989-1991』というアルバムで確認できます。このアルバムのラストに「Oliver’s Twist」というタイトルで2曲が合体したバージョンが収録されています。

このテイクは’91年のプリプロダクション・デモということで、カラオケ状態ではありますが、演奏チームの細かなフレーズやアレンジはほぼ正規のスタジオ盤リリースと遜色ないほど固まっていて、ここから本番のレコーディングに臨み「Pull Me Under」が誕生するわけです。

しかしこのバージョン、ギターソロの代わりにケヴィン・ムーア(Kevin Moore)のキーボード・ソロになっているんですよ。そして、本来我々が知っている「Pull Me Under」ならそこからキメを合図にラスサビへ入っていくんですが、「Oliver’s Twist」ではその後に突如テンポ・チェンジをして「Erotomania」の終盤パートへ入っていくんですね。

これDream Theaterの意図はすごく良くわかって、要するに「Erotomania」のこの部分が当初ジョン・ペトルーシ(John Petrucci)のために用意されていたギター・ソロ・セクションなんですよ。アドリブ要素一切なしの決め決めのソロではありますが、91年のこの段階で5連の高速パートさえできあがっていた事実は驚きです。

そしてこのソロセクションが切り取られ「Erotomania」になるわけですが、その時には全く取ってつけた感じがしないというのがさすがとしか言いようがないですね。

マイク・ポートノイ(Mike Portnoy)は『Awake』リリース時のインタビューで

「「Erotomania」のクラシカルな感じの部分は、元々は「Pull Me Under」の真ん中に入れるつもりで書かれたんだけど、どうもしっくりこないというので、未使用だったものだ」と述べています。

Another Hand + The Killing Hand


続いて、1stアルバム『When Dream And Day Unite』に収録されている「The Killing Hand」という曲。この曲のイントロは、スタジオ版ではガットギターを使用したクラシカルなソロギターが使われているんですが、別のイントロとして存在するのが「Another Hand」

メロディアスなアルペジオから、ポップなミディアムバラードのような、メジャーな雰囲気を醸すインストパートとしてファンからの人気が高いです。

「Another Hand」は、言ってしまえばRushからの影響が非常に強く、特に冒頭のアルペジオについてはジョン・ペトルーシが、アレックス・ライフソンを参考にしたことは明らかです。しかしながら、元々はこのイントロで「The Killing Hand」が作られたものの、収録にあたり採用を見送られ、そして幻のイントロとして分離させられたのが「Another Hand」になります。

スタジオ版には収録されていないものの、初期のライブでは度々「The Killing Hand」とセットで演奏されていて、最も有名な音源は「Live At The Marquee」だと思います。さらに1993年の「Live In NYC」、1996年のライブ「Escape From The Studio」でも演奏されています。これらはオフィシャル・ブートレグ・シリーズの第8弾『Live In NYC – 1993』と第15弾『Old Bridge, New Sersey』をチェックしてみてくださいね。特に後者は「The Killing Hand」のアレンジも尖っていて個人的に大好きです。

The Mirror + Lie


続いて、『Awake』に収録された「The Mirror」「Lie」です。

これは本家スタジオ・アルバムを聴いても曲間が繋がっているし、同じ7弦ギターの曲である点や、テーマとなるリフが重複していたり共通点が多いのでイメージしやすいのではないでしょうか。

リフが重複しているという点についてもここで詳しくお話しします。

オフィシャルブートレグの『Awake Demos (1994)』では両方の曲のデモが収録されているんですが、3曲目に収録されている「The Mirror」がここでは10分を超える大作になっていて、すでに「Lie」のリズムやバッキングが内包されているんですよね。そして、「Lie」は8曲目に登場していると。これ、デモアルバムを聴いただけだとイマイチピンとこないかもしれませんが、この音源集の曲順は曲を作った順、もしくはレコーディングをした順に並んでいる可能性が高いです。

だからこの2曲ってちょっとややこしくて、

①先に10分のナンバーとして「The Mirror」を作ります。そこには後半で後に「Lie」となるヒントがインストパートとして演奏されているわけです。

②そして、その後半のインストパートを独立させて「Lie」を作ります。ここでの「Lie」はどちらかというとシングルバージョンに近いアレンジですね。

③さらにそこから、スタジオアルバムに収録する際には「Lie」のアウトロに、「The Mirror」を持ってきて2曲に関連性を持たせているという流れですね。

こうすることでコンセプトアルバムではないにも関わらずアルバム内でテーマが繰り返され、より一貫性の高い作品に仕上がっています。

ちなみに「The Mirror」は冒頭のミュートで刻むリフが、1993年にアメリカ・ミルウォーキーで行われた「Summerfest」ですでに披露されています。このときは「Puppies On Acid」というタイトルで「Take The Time」のイントロ的な役割を担っていました。

Burning My Soul + Hell’s Kitchen


次は『Falling Into Infinity』収録の「Burning My Soul」「Hell’s Kitchen」ですね。

これもアルバムでは2曲続けて収録されているのでそこまで意外に思う人はいないかもしれません。

ただこれについては以前アルバム解説の際に、制作の背景におけるバンドとレーベル、そして外部作曲家などとのいざこざがあったと説明したと思うのですが、その過程で元は1曲だった「Burning My Soul」から分裂し「Hell’s Kitchen」が生まれています。

『Falling Into Infinity』は、元の構想では二枚組16曲という大作アルバムの体を成していたんですが、それを確認できる『Falling Into Infinity Demos 1996-1997』というアルバムでは、曲のリストから「Hell’s Kitchen」のタイトルを確認することができないんですよね。

その代わり「Burning My Soul」が9分近い大作曲という扱いになっていて、その中盤、インストパートとして後の「Hell’s Kitchen」が存在しています。ただこれも、正規版で聴ける壮大なラスサビがなく、その手前でブレイクして「Burning My Soul」に戻っていくという構成なので、「曲調をガラリと変えたインストパートが聴きどころのメタル曲」というのが、Dream Theaterが本来作っていた「Burning My Soul」ということになります。

Caught In A Web + New Millennium


そしてこれは考察し甲斐のある一例なのですが、「Caught In A Web」「New Millennium」ですね。収録アルバムは別々で制作時期も被っていないように思えるのですが、2000年のライブをシューティングした『Scenes From New York』というライブアルバムの第2部において、「Caught In A New Millennium」という独自のアレンジを見せています。

これはバッキングのベースが「New Millennium」、その上で両曲の歌詞を組み合わせて歌い上げるという、Dream Theaterにしても珍しい、興味深い試みなんですよね。

それだけだと関連性を紐づけるには弱いんですが、その4年前、先ほども言った1996年のライブ「Escape From The Studio」にて「Caught In A Web」を演奏しているんですが、このとき、「New Millennium」のバッキング上で歌うという異例のパフォーマンスをしています。そしてこの2曲は共に7弦ギターを使用し、歌詞の内容も、共に自分自身の信念と、それに伴う社会の常識に従って生きることへの摩擦がテーマとなっています。96年ということで、『Falling Into Infinity』がまだデモ段階にあったころのライブなのですが、この「Escape From The Studio」では他にも同アルバムの曲を新曲として何曲か披露しているんですよね。そうした事情を踏まえた上で、この2曲は同じベクトルを向いている曲として認識していたと考えられます。

Metropolis Pt.2


そして最後は「Metropolis Pt.2」ですね。アルバムの話ではなく、『Falling Into Infinity』の初期構想で収録される予定であった20分の大作インストがこのタイトルの発信地なんです。

内容としては、Pt.1のインストパートをより大ボリュームにした、いわゆるプログレ運動会的内容なのですが、この段階ですでにOverture1928とStrange deja vuの関係性ができていたり、The Dance Of Eternity〜One Last Timeへと繋がるインターバルも片鱗が見えていたりします。他は比較的雑多に散らばったセッションという印象なのですが、「俺たちは今新しい時代を作ってるぞー!」っていう気概が前面に感じられます。曲としてのpt2はボツとなりますが、ここで生まれた様々なマテリアルをヒントに名盤5thアルバムへ昇華していくわけですね。

ここについての解説は以前『Falling Into Infinity』を解説した際にも重要なテーマとして扱っていますので是非ご覧になってみてください。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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