2022年ベスト・プログレッシブ・ロック・アルバムTOP10
by 関口竜太 · 2022-12-31
こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。
本日は2022年のベスト・プログレッシブ・ロック・アルバムを発表していきます。
毎年恒例となりましたが、今年2022年も名盤と呼べる作品が多数誕生し、無事発表できるということでよかったなと思います。ランキングは昨年に引き続き、プログレッシブ・ロックとプログレッシブ・メタルとで記事を分けさせていただきました。
今年のランキングは、事前にTwitter、YouTubeを使い投票型のアンケートをまとめています。概要につきましては動画をご覧になっていただければと思います。
それではお楽しみください!
動画はこちら▼
10位 Muse – Will of the People
第10位はイギリスのロックバンド、Museの最新作『Will of the People』。
Museはプログレバンドかと言われると微妙なラインではありつつ、プログレと呼べるラインも十分に超えてくる幅広い音楽で、今回多くの票を集めたバンドですね。
EDMやダンスミュージック、もろQueenをオマージュした多重コーラス曲、そしてバンド史上初デスボイスを使用したヘヴィ&テクニカルな楽曲など、とにかくバラエティに富んでいます。その上アルバムのトータル時間は38分という、お手軽にお腹いっぱいになれちゃうアルバムだと思います。
9位 James LaBrie – Beautiful Shade of Grey
第9位はDream Theaterのボーカル、James LaBrieの8年ぶりソロ最新作。彼の名義だと基本はヘヴィメタルな作品になることが常なのですが、本作は純然たるアコースティック仕様のフォーク作となっています。
ラブリエとは馴染みの付き合いであるイタリアのギタリストマルコ・スフォーリ(Marco Sfogli)やドラムには自身のご子息に当たるチャンス・ラブリエ(Chance LaBrie)も参加し念願の親子共演を果たしています。その特徴的なサウンド・コンセプトを生かしてゴスペル風ソングであったりバラードであるものの力強さを感じるナンバーであったりとラブリエの新たな魅力を再発見させられた作品になっていますね。
8位 Envy Of None – Envy of None
8位はEnvy of Noneのデビュー作になります。
Envy of NoneはRushのギタリスト、アレックス・ライフソン(Alex Lifeson)が新たに立ち上げたバンドですね。
同じくカナダのバンド、Coney Hatchの創設者でベーシストのアンディ・カラン(Andy Curran)、プロデューサー兼エンジニア のアルフィオ・アンニバリーニ(Alfio Annibalini)、女性シンガーソングライターの マライア・ウィン(Maiah Wynne)といった顔ぶれが参加しています。
Rushの名前に引っ張られてプログレを期待しがちなんですが、そこは全く当てはまらなくて、オルタナ・ロック、エクスペリメンタル ロック、シンセ、エレクトロ・ロックなどさまざまな色合いを有した音楽性ですね。現代的なポップさとダークなメロディーのクロスオーバーで、バックグラウンドの異なる各メンバーとのケミストリーを堪能できる一枚です。
7位 The Tangent – Songs from the Hard Shoulder
第7位はイギリスのキーボーディスト、アンディ・ティルソン(Andy Tillison)が2002年に自身のソロプロジェクトとして立ち上げたThe Tangentの最新作『Songs from the Hard Shoulder』。
このバンド、早い話がフュージョン系プログレなんですが、大作志向かつジャズロックを基盤としたカンタベリーロックのフレーバーも有しており、牧歌的で、いわゆるプログレの色んな展開を含んだ演奏とか、変拍子やソロが行き来する複雑な曲展開に特化したバンドですね。
今作は5曲中4曲が16分を超える大作のオンパレードになってまして、先述したような要素をもれなくふんだんに取り入れた大作ロック作品になっています。ミックス上若干控えめではありますが、参加しているルーク・マッチンっていうギタリストが思い切りテクニカルなギターも披露しているのでギター好きにもおすすめですね。
6位 Tears For Fears – The Tipping Point
第6位はイングランドにて、1981年から続く2人組のニューウェーブ、サイケデリック・ロック・バンドTears For Fearsの9年ぶり最新作となる『The Tipping Point』です。
Tears For Fearsは’80年代のニューウェーブ・ブームに乗ってシンセサイザーを取り入れたエレクトロ・ポップ・バンドとしてデビューしますが、徐々にギタリストのローランド・オーザバル(Roland Orzabal)のサウンドが前に出たブリティッシュ・ロックへと変化していきます。
最新作はオープニングからアコースティックな雰囲気全開だったり、R&Bとか、エレクトロポップとはまた一味違ったデジタルポップを聞かせてくれるハイセンスな出来で、個人的にも一年を通してかなり聴いた作品ですね。
5位 The Flower Kings – By Royal Decree
第5位はスウェーデンのプログレッシブ・ロック・バンドThe Flower Kingsの新作『By Royal Decree』。
TFKは2020年の前作『Islands』でコロナ禍における新しい制作手法を実践したところなんですが、本作は従来の方法に戻って、安定感のある上質なネオプログレを展開しています。その“新しい制作手法”っていうのがいわゆるリモートだったんですけど、、スウェーデンのバンドだけどアメリカ在住のメンバーもいるので。どうしても物理的に試せないところとかあったのを、今回は完全に払拭している点は大きいですね。
リリース時期が早かったのもあって、このチャンネルのリスナーさんは元よりツイッターでもすごくハマったっていう人をよく見かけました。
サウンド的には「フォーク、シンフォニック、エレクトロニック、ジャズ、ブルース、ファンク、70 年代プログレ」っていういつものTFKのサウンドにしっかりと収まっていますが、ここ数年はプログレの複雑さというよりもメロディにウェイトが置かれている印象です。
4位 Lalu – Paint the Sky
第4位のLaluはですね、フランスのキーボーディスト・ソングライターであるヴィヴィアン・ラルー(Vivien Lalu)という人が立ち上げたバンドで本作が3枚目のアルバムですね。そして記念すべき日本盤デビューになります。
サウンドとしてはプログレとハードロックが基盤となっていて、パワフルな演奏とメロディアスなコーラスワークが強みなのかなという感じ。ボーカルはアリーナやスレッショルドのDamian Wilsonですね。
本作はゲストがめちゃくちゃ豪華で、Stratovariusのイェンス・ヨハンソン(Jens Johansson)、Kansasのスティーヴ・ウォルシュ(Steve Walsh)、マルコ・スフォーリ、Dream Theaterのジョーダン・ルーデス(Jordan Rudess)、DGMのシモーネ・ムラローニ(Simone Mularoni)、そしてSimon Phillipsなど。
これだけのゲストを呼んでいながら全然名前負けしていない見事な出来栄えですのでおすすめしたいです。
3位 Big Big Train – Welcome to the Planet
第3位はイギリスのBig Big Trainの『Welcome to the Planet』ですね。
昨年、ボーカリストのデイヴィッド・ロングドン(David Longdon)を不慮の事故で失って、本作が彼のBBTとしてのラストアルバムですね。別でロングドンのソロ作も今年発表になっていて、そちらが遺作です。
そういうちょっと悲しい先入観がありつつも、サウンドは非常にキャッチーで暗い気持ちを吹き飛ばしてくれる、いつもの明るく柔らかいBBTサウンドになっていますね。リカルド・ソーブロムのオールマイティにこなすギターとか、ピアノ、ヴァイオリンを務めるクレア・リンドリーのボーカルがロングドンと対比にあったり、あとタイトル曲を歌うカーリーブライアントのボーカルも終始癒されますね。
ジャケットは前作『Common Ground』のモチーフを引用していて、これは作品を2、3作で完結させるBBTならではの手法ですね。ジャケットを通じてアルバムごとが繋がっていくっていうのがこのバンドの特徴でもあるので、悲しい出来事はありましたがこれからもロングドンの意思を継いで繋がっていってほしいですね。
2位 Marillion – An Hour Before It’s Dark
第2位はMarillionの『An Hour Before It’s Dark』です。
イギリスで80年代から活動しているネオプログレ・ロックの総本山なMarillionですが、オリジナルアルバムとしては2016年の『FEAR』以来6年ぶりとなります。
トラック自体は18曲になっているが、実際は4つの組曲を含む全7曲収録で、パンデミック、地球環境の危機、介護、医療、死といった現代社会の今日、誰もが抱える課題にフォーカスした楽曲ですね。
テーマは結構シリアスなんですが、ただ楽曲のサウンド自体はトータルで見た時に明るめで、Braveのころみたいな重厚な印象はなく、優しいサウンドだったり軽快なリズムだったりが後味として残る作品ですね。
1位 Porcupine Tree – Closure / Continuation
そして第1位はPorcupine Treeの『Closure / Continuation』になりました。
こちらも最新作は13年ぶりというご無沙汰な一枚ですが、とりあえず言っておきたいのは今回の投票でダントツ1位だった点ですね。
去年プログレロックランキングでスティーヴン・ウィルソン(Steven Wilson)の『The Future Bites』が1位になってて今年こうやってオープンな投票をしても余裕でトップに立てるっていうのは、音楽性だけじゃなくてスティーブンのもつカリスマ的オーラとか、ギャヴィン・ハリソン(Gavin Harrison)、リチャード・バルビエリ(Richard Barbieri)といった他のメンバーの人気というのもあると、個人的に思います。実際UKアルバムチャートでも2位になってますしね。イギリスとはいえ2022年でプログレが2位に入るんですよ。えらいことですよね。
最新作なんですが、タイトルから「閉鎖と継続」と言われているように復活作でありながら今後も続くかは時の運というか、流れに任せるというのが作品の意図になります。
曲も以前のような長々した内容ではなく、凝縮されて基本3人だけで作られた生々しいバンドサウンドになっていて、しかも従来のPTらしさは失わずに、この10年あまりで培ったエレクトロやアンビエントなデザインのサウンド、もちろんプログもしっかり行われていて、かなりのアップデートが見られるわけです。
これを聞くと、本当に単に長いだけのプログレって2010年代で終わったのかもしれないと感じんですが、とにかくPorcupine Treeこそ2022年のプログレ・シーンを象徴していたのではないかなと思います。
最後に
自己分析になりますが、私のコンテンツ(ブログ・YouTube)をご覧のリスナー層から考えると、ランキング結果は案外予想通りではありました。
面白い作品も見受けられる一方で、個人的におすすめだったPure Reason Revlolutionなどの作品をご紹介できなかったことは残念に思います。投票のよるランキングは非常に民意的でよかったのですが、そうした発信者側のお勧め…しいては我の部分も反映させてもよかったかもしれません。
投票にご協力くださったみなさん、リスト作成にご協力くださった大先輩ライターの方々、本当にありがとうございました!
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タグ: Big Big TrainEnvy of NoneJames LaBrieLaluMarillionMusePorcupine TreeTears For FearsThe Flower KingsThe Tangent
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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