Dream Theater「Lost Not Forgotten Archives: Old Bridge, New Jersey (1996)」: 今すぐ逃げ出せ!超絶バンドDream Theaterがスタジオ作業を中断し行ったライヴが音源化!この内容は鳥肌すぎる!
by 関口竜太 · 2022-11-07
こんにちは、ギタリスト・音楽ライターの関口です。
本日はDream Theater、Lost Not Forgotten Archivesシリーズより、第15弾となる『Old Bridge, New Jersey (1996)』のお話をしていきます。
Lost Not Forgotten Archives: Old Bridge, New Jersey (1996) / Dream Theater
Lost Not Forgotten Archives: Old Bridge, New Jersey
こちらは1996年にたった5公演しか行なわれなかった“Escape from the Studio”というライヴから、その1公演を切り取った公式ブートレグ音源になります。このブートレグはかつてにも、Ytse Jamレコーズよりリリースされている内容ではあるので、知っている方は知ってるし、知らない方は是非この機会に手にとっていただけたらと思います。
この記事には動画版があります。内容は概ね同じですが、動画ならではの解説もありますので併せてご覧ください!
動画はこちら▼
概要
それではこの『Old Bridge, New Jersey』がどんな作品なのか、概要を見ていきながら当時の時系列を整理しましょう。
Lost Not Forgotten Archivesについて
まずこの公式ブートレグ「Lost Not Forgotten Archives」というシリーズについてですね。これは過去にYtse Jamレコーズからリリースされていた公式の海賊版シリーズを、リマスターし月1枚ペースで発表するというもので、デモ音源やライヴ・コレクション、カバーソングなどDream Theaterの貴重な音源が詰まっているシリーズになります。
なお、私はよく動画でForgottenをフォーゴトゥンと伸ばして言ってしまうのですが、正しい発音はフォガトゥンだそうです(日本盤の表記はフォゴトゥン)。今回、動画の視聴者さんからそのようにご指摘を受けましたのでこちらでお詫びします。今後気をつけて発音します…笑
さて、その第15弾が今回ご紹介している『Old Bridge, New Jersey』です。これは冒頭でお話した”Escape from the Studio”と題した、たった5回のライヴのうち、1996年12月14日ニュージャージーでの公演を録音した音源になります。
そもそもなぜ5回しか行われていないかというと、早い話が、このライヴ・ツアー自体、元々予定されていたものではないからですね。
“Escape from the Studio”の意図について
1996年ということでDream Theaterは4thアルバム『Falling Into Infinity』というアルバムの制作に取り掛かっていました。このアルバムは翌’97年の9月にリリースされるのですが、ご存知の通り、このアルバムを制作するに当たってバンドとレーベルがだいぶ揉めたんですよ。
改めて簡単に説明すると、Dream Theaterは元々この作品を2枚組16曲入りという大ボリュームのアルバムにするつもりだったんですね。
それもそのはずで、1995年に『A Change Of Seasons』っていうミニアルバムを出すんですけど、この中に入ってる表題曲は’92年の『Images And Words』のころから存在していたナンバーなんですよ。つまりバンドは1994年の『Awake』を出してツアーに明け暮れる日々を送り、以来2,3年ぶりとなる新作発表だったわけです。ライヴを通じてプログレファン・メタルファン共に支持者も集まってきて、おそらくマイク・ポートノイ(Mike Portnoy)的にはここいらで大作アルバムを出す手筈は整ったみたいな心持ちだったはずです。
そしてしっかり16曲分のデモまで用意して、いざレーベルに打診したら「ダメだよ」って言われちゃうわけですね。これはかなり悔しかったと思います。
自分たちの思い通りにできないどころか、レーベルの指示に従って外部からヒットメーカーまで呼んで、思い入れの強い曲たちがどんどん捻じ曲げられていく様はポートノイ的には耐えられなかったはずです。
そんな悶々とした空気を一度リセットするために、スタジオ作業を一時中断して行なわれたスペシャル・ギグがこの”Escape from the Studio”なんですね。ライヴ・タイトルで「スタジオから逃げてきた」って言っちゃってるわけです。そしてその時の演奏を収めたのが、この『Old Bridge, New Jersey』になります。
アルバム参加メンバー
- James Labrie – Vocals
- John Petrucci – Guitars
- Mike Portnoy – Drums
- John Myung – Bass
- Derek Sherinian – Keyboards
収録曲
続いて、この『Old Bridge, New Jersey』の収録曲を見ていきます。
Disc1
- A Change of Seasons, Pt. I
- A Change of Seasons, Pt. II
- The Mirror
- Lie
- Burning My Soul
- Another Hand/The Killing Hand
- Just Let Me Breathe
- Caught in a Web
- Peruvian Skies
- Pull Me Under
Disc2
- Lines in the Sand
- Take Away My Pain
- A Change of Seasons, Pt. IV
- Ytse Jam
- Learning to Live
- A Change of Season, Pt. VII
- Metropolis
面白いのは、後に完成版がアルバムに収録されることとなる「Burning My Soul」「Peruvian Skies」「Lines in the Sand」「Just Let Me Breathe」といった新曲が早くも披露されている点ですね。これらは最初にバンドが持ち込んだ初期バージョンでスタジオ・テイクとは異なるので、これをライブでやったというのはそれだけで貴重です。さらに既存曲の「Caught in a Web」も新曲であった「New Millennium」のバッキング上で歌われているんですが、これは後に『Live Scenes from New York』の「Caught in a New Millennium」に繋がってきます。
そして、23分の大作「A Change of Seasons」から4楽章をピックアップし、セットリストに分けて配置しているのも面白いんですが、このやり方って98年の『Once in a Livetime』と同じなんですよね。むしろ『Once in a Livetime』がこの時のセットリストを参考にしていると言ってもいいくらいです。
比べてみるとこんな感じ。
「Puppies On Acid」は「The Mirror」のイントロのみという曲ですが、それを含めると『Old Bridge, New Jersey』に収録された17曲中、「Once In A Livetime」では15曲が被ってるという具合です。特にライヴの頭とケツはほぼ同じだし、「A Change Of Seasons」のパート4から「Ytse Jam」へ繋ぐところなんかは、2004年の『Live At Budokan』収録の「Instrumedley」にそのまま引用されていたりします。
つまり、このライヴはその後3つのライヴ作品に影響を与えていると言っても過言じゃない内容なんですよね。そして、Dream Theaterの初期〜中期におけるライヴ構成の基礎みたいなものがここで確立しているんですが、それを確認できることこそ、本作で得られる最上の収穫と言えると思います。
パフォーマンスについて
最後に、肝心なライヴ本編でのパフォーマンスについてお話していこうと思います。
まず演奏チームのボルテージがとにかく高くて、特にポートノイは顕著なんですけど、スタジオ作業における鬱憤をここに晴らしにきてるっていう生々しさが伝わると思います。
Dream Theaterってあまり聴いたことない人とか、イメージで語る人からするとすごく機械的でピロピロばっかりして、サウンドものっぺりしたメタルみたいに捉えられがちなんですけど、この人たち生粋のライヴバンドなんですよ。
難易度の高い曲とかプログレのエッセンスを取り入れるマニアックな嗜好、センス、スタンスといっ たものは確かにあります。でもそれとは別に、とにかくライヴが好きで場数を踏みまくってきた人たちなのでイメージより遥かに人間味に溢れていて、むしろ周りの環境に左右されやすい特質の持ち主なんですよね。
そういう彼らだからこそ、極限まで高めた表現への姿勢とプログレッシブ・ロックへの敬意を『Falling Into Infinity』に詰め込みたかったはずなんですけど、そこに縛りが生じてしまったという苦悩があって、それを受けたことによる本ライヴなんです。
個人的には「Another Hand/The Killing Hand」がマジで劇的で素晴らしいのでこれだけでも聴く価値があると思います。
最後に
Lost Not Forgotten Archivesについてのお話は当ブログでもあまりしないのですが、今回はかなり「当たり」の一枚なので高めの熱意でお届けしました。
そして本当に、『Falling Into Infinity』のころの話は尽きません。今回の内容と関連づいた過去の記事や動画もいくつかあるので、併せて見ていただくとよりCDを聴いただけではわからないこの面白さにハマっていくと思います。
今日ご紹介した『Old Bridge, New Jersey』は概要欄にリンクを貼っておきますので気になったかたはチェックしてみてくださいね。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDerek SherinianDream TheaterJames LaBrieJohn MyungJohn PetrucciMike Portnoy
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。