これは偶然なのか?Dream Theaterの神セトリライブ盤『Live Scenes From New York』!ジャケット差し替え騒動に迫る!
by 関口竜太 · 2022-10-02
こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。
本日はDream Theaterのライブ・アルバム『Live Scenes From New York』についてお話していこうと思います。
2019年で20周年を迎えた、Dream Theaterの5thアルバム『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』。本作はこのアルバムを引っ提げ行われたライブ・ツアーの様子を納めたライブ・アルバムになります。
バンド数年ぶりとなるヒットアルバムの完全再現や、キーボーディストにJordan Rudessを迎えた初ツアーにもなるということで、非常に特別な気分で視聴できる作品です。
が、
実はこの作品、妙な偶然によりあるトラブルに見舞われてしまったことでも有名です。本日はそんな曰く付き物件、『Live Scenes From New York』についてお話しさせていただきます。
動画はこちら▼
『Live Scenes From New York』の基本情報
まずは今日ご紹介するライブ・アルバム『Live Scenes From New York』の基本情報からさらっていきます。
1999年に『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』をリリースしたDream Theaterは、翌2000年の1月31日から8月30日まで、そして10月には同月21日までの追加公演を含む、「Metropolis 2000」というワールド・ツアーを行っていました。
そしてその中の8月30日。ニューヨーク市にあるローズランド・ボールルームにて、本ライブ・アルバムのビデオ・シューティング及び録音を行うわけですね。
このローズランド・ボールルームという会場は、その名の通り元はボールルーム用のホールでした。キャパは3200人程度で、1922年より、移転も含め90年以上愛されたコンサート・ホールだったんですが、2014年に惜しまれながら閉鎖されています。なお、この会場で最後にライブを行ったミュージシャンはあのレディー・ガガさんだそうです。
さて、本作はそんなDream Theaterにとって通算3枚組のライブアルバムになります。
内容は2000年当時のメンバーによる『Metropolis Pt.2』の完全再現、『Awake』に含まれる組曲「A Mind Beside Itself」、そして23分の大作「A Change Of Seasons」といった全編大作傾向にあるセットリストが特徴的です。
さらに一部アレンジを加えた「The Mirror」、既存の2曲を合体させた「Caught In A New Millenium」、そして新たにJordan Rudessが加入したことで、Liquid Tension Experimentの「Acid Rain」を、「Just Let Me Breathe」のソロと繋げるという試みもされました。また、今ではお馴染みとなったルーデスのキーボード・ソロも初お披露目という、特別なツアーだと思います。
CDアルバムとDVDによる映像作品との2つの媒体でリリースされましたが、ライブ全編を収録しているのはCDアルバムのみになります。DVDの方はどちらかというと『Metropolis Pt.2』の再現にウェイトが置かれていて、DVD版のジャケットも同アルバムと同じものが採用されていますね。
個人的にJames LaBrieのボーカルが本調子じゃないのも、2部の楽曲が厳選された理由の一つと考えています。
なお、ドラマーのMike Portnoyは、このショー終了後に倒れて緊急搬送されています。公式からの声明によると、原因は過労、脱水、ストレス、栄養不足、それとレッドブルの過剰摂取と言われています。
発売日当日〜ジャケットが差し替えられた偶然の悲劇
そんな『Live Scenes From New York』ですが、CD版のジャケットはこちらになります。
しかし、実はこのアルバムが曰く付きと言われる所以がこのジャケットでして、本来はそれはこちらのデザインでした。
つまり、このライブアルバム、発売直後にデザインが差し代わっているんですよね。
結論から言ってしまうと、その理由は発売日にとある世界的大事件が起こってしまうからなんです。このアルバムが発売された日は2001年9月11日。そう、アメリカ同時多発テロのまさにその日だったんですよね。
アメリカ同時多発テロ事件
アメリカ同時多発テロは2001年9月11日火曜日の朝、アメリカの空港からカリフォルニアに向けて出発した旅客機4機が、イスラム系アルカイダのテロリスト19人にハイジャックされる事件です。
そのうち2機はマンハッタンにあるワールドトレードセンター(アメリカの貿易センタービル)に向かい、ビルに直接飛行機が突入しました。
この一連の攻撃によって日本人24人を含む2977人が死亡、25000人以上が負傷し100億ドル以上のインフラ被害・物的損害に加え、長期にわたる健康被害が発生しました。
またこのテロ事件を契機にアフガニスタン紛争が勃発して、その戦争が集結したのは2021年という、つい最近の出来事ですね。
差し替え前のジャケットに込められた意図
そして改めて、差し替えになったこちらのジャケットを見てみましょう。
差し替えた部分はまさに真ん中、燃える林檎の部分。
2ndアルバムの『Images And Words』で、有刺鉄線の巻かれた心臓が燃えるというデザインがあったと思います。これはイエス・キリストの聖心をモチーフにしたもので、初期のDream Theaterを特に象徴するアイコンですよね。
一方、ニューヨークは昔からThe Big Appleと呼ばれている歴史があります。
これはジャズのプレイヤーが都市のことをアップルと呼んでいて、中でも最も大きな都市としてニューヨークをThe Big Appleと名付けたことに由来しています。なので、赤いリンゴっていうのはニューヨークの象徴なんですね。
そこで①ニューヨークで行われたライブ、②Dream Theaterの心臓、③The Big Appleの林檎を掛けて、このようなデザインになったわけなのですが、林檎の後ろには自由の女神とか、テロで破壊された貿易センタービルもあったりして、完全にニューヨークが火に包まれているように見えてしまいますよね。
ジャケットはすぐに差し替えとなったものの、すでに各CDショップに並んだ後だったため、発売と同時に結構な枚数が売られてしまっていました。
アメリカでは9月11日の0時からレコード店にCDが並びそこで買い求める人も。事件後アルバムの一斉回収が行われ、そのときに買いにきたお客さんには「アルバムの印刷が遅れてるため在庫がない」といった説明がレコード店からされたそうです。
当時を振り返るポートノイのツイートもご紹介します。
Sept 11th 2001 of course is one of the darkest days in American history #neverforget but it’s still absolutely incredible that it was also that EXACT day 21 years ago, that we released our live album with this (since changed) artwork. The coincidence is still unbelievable… pic.twitter.com/9KdBhIXOWw
— Mike Portnoy 🤘 (@MikePortnoy) September 11, 2022
MP「2001年9月11日は、アメリカの歴史の中で最も暗く決して忘れてはいけない日(ハッシュタグ)の一つだが、21年前のこの日、このアートワークでライブアルバムをリリースしたことは今でも信じられないことだ。偶然とは思えない…」
なお、アメリカや日本では差し替え前のジャケットが出回る事態になりましたが、イタリアを始めヨーロッパのいくつかの国では発売日が新ジャケットに刷られた後だったので、ジャケットが差し替えになった事実すら知らない人が多いです。
911事件について、Dream Theaterは当時「Ground Zero」という曲を製作中でしたが、後にタイトルを「The Great Debate」に変更して次の「Six Degrees Of Inner Turbulence」に収録しています。他、「In the Name of God」や「Sacrificed Sons」と言った曲ではこのテロ事件への想いをバンドなりに反映していますね。
最後に
今回の例だけでなく、同時多発テロ事件については偶然にも予言みたいな形になってしまった事象がいくつかありますよね。
私はジョジョの奇妙な冒険が好きなのですが、話の中でボインゴという近い未来を予言できる能力を持った敵が現れます。予言は本に描き込まれる形で具現化します。
物語ではこの後乗る予定のバスが事故に遭うから一本遅らせようという流れなのですが、直前に出会った旅行者がそのバスに乗って、案の定彼が事故で死んでしまうんですね。ただ、事故に遭った旅行者のTシャツに911の文字が描かれていたり、彼が電柱に突き刺さって死んでいる予言のページには他に飛行機ですとか、イスラム教のシンボルである月が描かれたりしています。
この話が描かれたのは同時多発テロよりも10年も前ですし、もちろん作者の荒木飛呂彦先生もそんなことになるとは想像もしていなくて驚いていたのをYouTubeで見たことがあります。
もっともジョジョにせよDream Theaterにせよ、実際これが予言だったのかどうかなんてのは解明しようがない話ではありますが、こういった偶然と一緒に生まれた作品には特別なものを感じますよね。
是非曲と一緒に当時の雰囲気を味わってみてはいかがでしょうか。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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