永久凍結だったはずのリキッド・テンション・エクスペリメントはどうして復活を果たせたのか!?みんなが知らない超絶インスト集団の真実!(動画あり)

こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。

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本日はLiquid Tension Experiment(LTE)についてお話ししていきます。

Dream Theater好きだったら、このバンドは同時にチェックしていると言っても過言ではないくらい、同バンドのファミリー的扱いで長らく親しまれている彼らですが、実は事の運び次第では今みなさんが認識しているものと全く違っていたであろう可能性もありました。

今日はそんなインスト版Dream Theaterと呼んで差し支えないLTEについていろいろ語っていこうと思います。

そしてこのバンド、’99年に一度活動を凍結しているのですが、2021年に復活をしてファン待望の新作までリリースしました。その経緯も実にDream Theaterファミリーらしい運命のいたずらなのでお話ししていこうと思います。

この記事について、読まなくてもわかる動画解説があります▼

Liquid Tension Experimentについて


まずはこのLTE、バンドの成り立ちから説明していきます。

結成は1997年ですね。アメリカの音楽プロデューサーにマイク・ヴァーニー(Mike Varney)という人がいました。彼は速弾きを主体にしたヘヴィメタル専門レーベル、シュラプネル・レコーズ(Shrapnel Records)の創設者だったんですが、そんな彼がプログレッシブ・ロックを専門としたマグナ・カルタ・レコーズ(Magna Carta Records)というレコードレーベルを立ち上げます。

ヴァーニーは考えました。

せっかくプログレ専門レーベルを立ち上げたし、これまでになかったようなバンドを所属させたいな。例えばプログレッシブ・メタルのインストゥルメンタルバンドというのはどうだろう。それも若手じゃなくて中堅かベテラン勢によるスーパーグループだ。

ということで、インスト・プログレ・メタルのスーパーグループというヴァーニーのアイディアを打診されたのが、もはやお馴染みマイク・ポートノイ(Mike Portnoy)です。

ワーカーホリックだったポートノイはヴァーニーの提案を快く受けて、インスト・プログレ・メタルのスーパーグループという夢のような企画に向けメンバーを探し出します。

ポートノイが真っ先に声をかけたのがキーボーディストのジョーダン・ルーデス(Jordan Rudess)です。

以前の動画でも言いましたが、Dream Theaterは過去にルーデスを誘うものの断られてしまった経緯があって、ポートノイは諦めがつかなかったんですよね。そのとき断られた理由がDixie Dregsのツアーにルーデスが同行してしまったというものだったので、再度スカウトをして、今度は無事引き込むことに成功します。

お次はベーシスト。ベース/チョップマン・スティックには、第4期King Crimsonで独特のファンク・グルーヴの風をなびかせたトニー・レヴィン(Tony Levin)が抜擢されます。

オーケストラでコントラバスを演奏していたキャリアもあって、プレイスタイルはベースの王道を行くものになっています。ちなみにKing Crimsonはイギリスのバンドなんですが、レヴィンはアメリカ人なんですよね。そんなわけで’80年代以降のイギリスとアメリカが混ざったKing CrimsonをKing Crimsonと認めない人も一時期いたようですね。

そして最後のギタリスト枠として、当初はダイムバック・ダレル(Dimebag Darrell – Pantera, Damage Plan)やスティーヴ・モーズ(Steve Morse – Deep Purple)、ジム・マテオス(Jim Matheos – Fates Warning)などが候補に上がりましたが、いずれもスケジュールが合わなかったため、最終的にDTで足並みを共にするジョン・ペトルーシ(John Petrucci)がギタリストに選ばれます。そしてこの話題性しかないスーパー・インスト・グループは1998年にデビューを飾るわけです。

LTEは1998年に『1』、翌’99年には『2』というアルバムをリリース。そして『2』のリリース後に、LTEは活動を凍結します。これについては後述しますね。

作品解説


アルバムはタイトルがわかりやすく『1』『2』『3』と3枚出ていて、加えLiquid Trio Experiment名義による『Spontaneous Combustion』が番外編としてあります。

『3』と”Trio”のアルバムは後述するとして、先に『1』と『2』を軽く解説していきます。

まずは『1』です。

LTEは曲に対して大きなテーマを設けてはいるんですが、中盤パートに入るとインプロビゼーションになるという、ジャム・セッション・バンドとしての側面も持ち合わせています。

そんな中で、「Paradigm Shift」「Universal Mind」と言った後世に残る名曲が早くも生まれていますね。この2曲はDream Theaterのライブでも演奏されていたので、半DTナンバーみたいな位置づけをしている人もいるのではないでしょうか。この2曲につい目が行きがちですが、「Kindred Spirits」「Freedom of Speech」はルーデスのピアノと親和性の高い、美しいメロディを持った隠れ名曲ですね。

アルバムは全13曲なんですが、実は本編は8曲までで、9~13曲目は「Three Minute Warning」 という5パート28分半に渡るジャムセッション曲で、LTEのある種実験的な試みとなっています。

注意:「Three Minute Warning」は音楽的に気が弱かったり、せっかちだったり、極端に自己耽溺(じこ・たんでき)の強い評論家のための曲ではありません。これらに該当する人はCDをトラック8で停止してください。

ということで、これは「バンドは曲を作る」という固執した概念に意義を唱えるレヴィンのアイディアで、フュージョンでもありメタルでもありとひたすらにライブ感を求める人のための楽曲となっていますね。

続いて『2』についてです。

基本的には『1』で生きたものをそのまま引き継ぎつつも、より決めごとが増えたアンサンブルが特徴的です。

「Acid Rain」「Another Dimension」「When The Water Breaks」などプログレメタルな曲が多数生まれています。決めごとが増えたと言いましたが、個人的にはその中でも『1』よりのびのびやってる感じがして、バンドとして余裕を感じられるのがかっこいいです。

あとお気に入りは「Chewbacca」ですかね。Robert Frippが関わってるんじゃないかと思えるくらいKing Crimson的側面が出ています。エコーでトリッキーなギターからはPink Floydも彷彿とさせます。タイトルはスターウォーズから引用されているのかな。途中ジャムから徐々にクレッシェンドしていってソロに持ち込むところなんか「Starless」にも近いアプローチでこのバンドの醍醐味を感じられますよね。

「Biaxident」は後の「Six Degrees Of Inner Turbulence」を想起させますし、ジョンのアダルトなソロとピアノソロとの掛け合いとで肩の力を抜いた4人の実力を味わうことができる一曲ですね。シンセフィーチャーの「Liquid Dream」とアコースティックな「Hourglass」という2曲のバラードもおすすめです。

Liquid “Trio” Experiment


さて、今紹介したこの2枚で、LTEのことは7割がたOKという感じなんですが、ここで、Liquid Trio Experimentについて触れておきます。

時期は1998年10月ですね。『1』と『2』の間のできごとです。

『1』の好評を受け、2ndアルバム制作のためニューヨークのスタジオでセッションを始めていたLTEなんですが、その数日後、ペトルーシの奥さんが陣痛を起こし、彼が出産に立ち会うため現場から抜けるんですね。お子さんは無事産まれてめでたしめでたしなんですが、このペトルーシ不在時に残った3人は2日間、ひたすらジャムをしまくります!

このセッションによって録音された音源のいくつかは『2』にも生かされているのですが、録音されたまま忘れ去られていたテイクっていうのももちろんあって、それを収録したアルバムが『Spontaneous Combustion』、ペトルーシがいないので名義がLiquid Trio Experimentになっているというわけですね。

アルバムタイトルは自然発火を意味していて、ポートノイは

作曲をしたり、何かを書いたりということはせず、ジャムを行い即興し自由な精神を楽しんだ。事前にアイデアやリフや方向性を語ることもせず、何があるかもわからない音楽の海に、セーフティー・ネットなしで飛び込んだ。

とインタビューで話しています。

ちなみにTrioでのセッションからアイディアが持ち込まれたかは不明ですが、『2』に収録されている「When the Water Breaks」は、和訳すると「破水の時」というタイトルで、まさにこのとき起きた生々しい体験をインスピレーションに音源が生まれています。

無期限の活動凍結


さてそんなこんなで、結成前はDream Theater加入前のジョーダンを誘っていたり、ペトルーシではない別のギタリストを入れる計画があったりしたわけですが……結果’99年にジョーダンがDTに加入し、ギタリスト枠もペトルーシで固まり、3/4がDream Theaterメンバーということになるわけですね。

そして、これ以上ないくらい似たマテリアルのバンドが2つ存在する意味はないとして、ポートノイはLTEを無期限の活動凍結すると宣言します。

代わりにDTのライブでLTEの楽曲を演奏したり、2008年には結成10周年のツアーをしたり。大々的な活動は制限しつつも、存在は消し去っていない珍しいポジションに位置することとなります。

そんな折、2010年にDream Theaterからポートノイが脱退、バンドには代わりにマイク・マンジーニ(Mike Mangini)が加入します。

これについて、詳しくは過去の動画で解説していますのでそちらをどうぞ▼

かいつまんでお話しすると、これはサイドプロジェクトで忙しかったポートノイとバンドとの活動のリズムが食い違ったことによる脱退で、のちにサイドプロジェクトが落ち着いてからポートノイはバンド復帰を願い出るんですが代理人によって断られているんですね。

代理人を立てられている時点で、ここではDream Theaterとポートノイの間に結構な確執があったと推察され、この一連の事件の後バンドがポートノイを悪く言ったとか、ポートノイがDream Theaterメンバーを悪く言ったとか、あることないこと書いたゴシップな見出しも散見されました。

しかし実際は、溝はありつつもお互い触れないという形で少しずつ関係は改善してきたんですよ。

さらにポートノイがDTを脱退した後は、事あるごとに「LTEの再始動はないのか」というインタビューが各メンバーにされていました。それに対する受け答えは総じて「全員のタイミングが合えば」といったもので、ファンからしてみればある意味お茶を濁されてきたのですが、実際ポートノイがDTを離れたことで言わば「似たようなマテリアル」という凍結理由も解除されていたと解釈できるわけですよ。

22年ぶりの大復活〜LTE3


事態が変わったのは2019年。

プログレッシブ・ロックの音楽祭Cruise To The Edgeにて、ポートノイとルーデスが同じステージにて共演します。そこでDTのインストナンバーやLTEの楽曲を組み合わせた「Instrumedley」を披露しました。

このInstrumedleyは『Live At Budokan』で演奏されたメドレーで、かなり話題になっただけに海外でも人気のメドレーです。

なおこの時、ギタリストはThe Neal Morse Bandのエリック・ジレット(Eric Gillette)、ベーシストはHakenのコナー・グリーン(Conner Green)です。

このことはポートノイとDTとの関係性が以前より好転していることをファンに示しました。

さらに2020年6月。ここでなんとルーデスがLTEの再結成を仄めかすんですよね。

「Cruise To The Edge」をきっかけに、この良好な関係をもっとファンが見るにはライブをして、ツアーを行うしか方法はないという話がされたそうで、それについてルーデスが一言が「It looks very good.」と発言したことが日本のファンの間でも話題となりました。

さらに同時期、ペトルーシが15年ぶりのソロ・アルバムを発表します。そのアルバムでペトルーシはポートノイとも共演して、LTE再結成という流れが一層の信憑性を帯びてきます。

そして同年12月。にわかに噂となっていたLTEが再結成を発表し、3枚目となる『LTE3』のリリースにて復活することとなりました!この背景には皮肉にも新型コロナウイルスの世界的パンデミックがあり、超多忙な4人の「タイミング」が自粛によって得られたということですね。

発表された22年ぶりの最新作は、ブランクをまったく感じさせないエネルギッシュな出来になっています。

リードソングの「Hypersonic」、Rush意識の「Beating the Odds」、そしてGeorge Gershwinのカヴァー「Rhapsody In Blue」など、どこを切り取ってもLTEなので未聴の方は是非一度聴いてみてください!

この記事について、読まなくてもわかる動画解説があります。よろしければGOODボタン、チャンネル登録もしていただけると嬉しいです。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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