なぜドリーム・シアターはカヴァー曲ばかり演奏していたのか?ディープ・パープル、メタリカ、ピンク・フロイド……有名アルバムから超レア曲まで一挙に紹介!
by 関口竜太 · 2022-06-21
こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。
本日はDream Theaterのカヴァー・ソングについて解説していこうと思います。
Dream Theaterと言えば、精密で超絶技巧なプログレッシブ・メタル!なイメージが強いと思いますが、意外にも彼らのバック・グラウンドは広く、さまざまなバンドや楽曲から影響を受けています。
そしてつい十数年ほど前までは、そんな影響を受けてきたミュージシャンの曲を彼らは自身のライブで積極的に披露してきたわけです。オリジナリティ溢れるバンドが、なお過去の名曲をリスペクトする姿勢はファンにとっても印象深いことと思うので、今日はそんなDream Theaterが行ってきたカヴァー・ソングの歴史を振り返っていこうと思います。
まとめてみると改めて彼らがどんな音楽からインスピレーションを受けていたのかがよくわかると思うので最後までお楽しみください。
動画はこちら▼
発起人はいつものあの人
まずはDream Theaterがなぜカヴァー・ソングを頻繁に行うようになったのか、その経緯を説明していきます。
これを企画したのはオリジナル・メンバーであり初代ドラマーMike Portnoyですね。彼は前身バンドThe Majestyを結成した1985年から脱退する2010年まで、実に25年に亘ってバンドの舵を取り続けたブレインだったわけですが、一方で、自身の趣向やその時々にハマっていた言わばマイブームと呼べる偏った影響をバンドにもたらすことも多かったです。
また、プロダクションやレーベルとバンドの方向性で意見が食い違うことも多々ありました。
Dream Theaterのアルバムはトータルで見ればオールドなプログレッシブ・ロックとメロディアスな楽曲をメタル・サウンドで色付けしたという印象を受けるのですが、各アルバムを細かに聴き比べると、特に初期ではサウンドやアルバムのキャラクターに一貫性がない場合が多いです。
ファンからすれば、一つのバンドでバラエティに富んだサウンドを聴き比べられる旨味もあるのですが、バンドを少し広めに説明しようとすると言葉を選んでしまうのはそういう背景もあるわけです。
そんな時に毒にも薬にもなり得たポートノイの存在ですが、彼はライブアクトを一つの思い出の場として考えていた傾向にありました。
なのでいつもお馴染みの曲を演るライブももちろん好きではあったのですが、そこに来るお客さんにサプライズしてやりたいということを常々考えていて、単に盛り上がるからいつものナンバーという選曲ではなくTPOを考慮したセットリストを考案していくわけですね。
その中で、カヴァーソングを披露するというのも彼の中では当たり前のことであったし、同時にバンドが自分達の曲ばかり演奏して、パフォーマンスがマンネリ化するのを防ぐ狙いもあったのではないかと思われます。
それではDream Theaterが行ってきたカヴァー・ソング、その歴史を見ていきましょう。
正規のスタジオアルバムだけでなく、オフィシャルブートレグからの作品も多いので、演奏当時の日時とリリース時とで時系列がバラバラになりやすいです。
今回はわかりやすく演奏された順番で紹介していきます。
カヴァー〜The Majesty
まずはThe Majesty時代から。
バークリー音楽院在学時からMetallicaやRushのカヴァーを行っていた彼らですが、その様子はオフィシャルブートレグ『The Majesty Demos 1985-1986』に収録されています。
『The Majesty Demos 1985-1986』(’03, ’22)
ここで録音されているのは以下の3曲。
- Rush – YYZ
- Talas – The Farandole
- S.O.D – Anti-Procrastination Song
Rushは彼らに最も影響を与えたカナダのプログレ・ロックバンドで、YYZはその中でも有名なインスト曲ですね。TalasはBilly Sheehanが在籍していたことで有名なハードロックバンドで、’70年代の終わりから’80年代にかけてアメリカで活動していました。S.O.Dは正式名称Stormtroopers of Death。Anthraxのメンバーが遊びで結成したスラッシュ・メタルバンドで、カヴァーとは言っていますがこの曲自体、原曲が6秒かない曲なので、かなりお遊び的なカヴァーです。
カヴァー〜Dream Theater
続いてDream Theaterから、まずは有名な
『A Change Of Seasons』(’95)
Dream Theaterのカヴァーと言えばこれを思い浮かべる人が多いんじゃないかと思います。
ここに収録されたカヴァーは1995年1月のロンドン公演から収録したものです。
収録カヴァー
- Elton John – Funeral For A Friend – Love Lies Bleeding
- Deep Purple – Perfect Strangers
- Led Zeppelin – The Rover – Achilles Last Stand – The Song Remains – The Same
- The Big Medley (Pink Floyd, Kansas, Queen, Journey, Dixie Dregs, Genesis) – In The Flesh? / Carries On Wayward Son / Bohemian Rhapsody / Lovin’, Touchin’, Squeezin / Cruise Control / Turn It on Again
バンドのルーツとなるアーティストが多く、ライブ音源の割に音質がめちゃくちゃいいのでオススメです。
『Tokyo,Japan 10/28/95』(’04)
収録カヴァー
- Led Zeppelin, Iron Maiden, Metallica, Pink Floyd, Yes – The Rover / Killers / Damage, Inc. / In The Flesh? / Heart Of The Sunrise
これは95年10月にNHKホールで行われた公演をパッケージ。その第一部にインストゥルメンタル・ミニ・メドレーとして上記のカヴァーを演奏しています。
続いてファンクラブ向けのクリスマスアルバム
『International Fan Club Christmas CD 1996』(’96)
収録カヴァー
- U2 – Red Hill Mining Town
- Rush – Tears
- Metallica – Damage, Inc.
のカヴァーを収録しています。
『Los Angeles’ California 5/18/98』(’03)
4thアルバムのツアーから98年5月のロス公演を収録したブートレグアルバムです。
収録カヴァー
- Deep Purple – Perfect Strangers
- Iron Maiden – The Trooper, Where Eagles Dare, Killers
を演奏。Iron MaidenのカヴァーではBruce Dickinsonがゲスト出演しています。
『Once In A Livetime Outtakes』(’98)
正規のライブ・タイトル『5 Years In A Livetime』と『Once In A Livetime』に未収録の音源をまとめたアルバムです。
収録カヴァー
- Pink Floyd – Hey You
- Van Halen – Mean Street
- Elton John – GoodBye Yellow Brick Road
- U2 – Bad
といった有名曲をカヴァーしています。
『Scenes From A World Tour』(’00)
Metropolis 2000 Tourで披露された音源からコンピレーション的に収録された、クリスマス・アルバム。
収録カヴァー
- Black Sabbath – Heaven And Hell
- Black Sabbath – War Pigs
- LTE – Paradigm Shift / Universal Mind
- The Scorpions – The Zoo, Led Zeppelin – Whole Lotta Love
を収録。
『Master Of Puppets』(’04, ’21)
収録カヴァー
- Metallica – Master Of Puppets
これはオフィシャル・ブートレグ・シリーズの中でも特に有名な、名盤フルカヴァー・アルバムの代表作ですね。
以前も軽く説明しましたが、改めて解説すると、『SDOIT』を伴った2002年のツアーから、同じ会場で2日連続公演がある際には、2日目に彼らがリスペクトするバンドの名盤を全曲、第2部のセットリストに組み込んでいたという経緯があります。
そんなカヴァー・ライブの初回が、この『Master Of Puppets』ですね。
画像は2021年にリリースされたリマスター版。
『The Number Of The Beast』(’05, ’22)
収録カヴァー
- Iron Maiden – The Number Of The Beast
これも2002年10月のパリ公演で演奏されたIron Maidenのアルバム、フルカヴァーになります。6月にリマスター版がリリースされたばかりで、完コピ具合もさることながら音質もいいので一度聴いてみてください。
『Uncovered 2003-2005』(’09)
こうしたカヴァー公演を積極的に行ってきた中で、2003年〜2005年の良テイクをまとめたアルバムこちら。
収録カヴァー
- Queen – Death On Two Legs
- Yes – Heart Of The Sunrise
- Black Sabbath – Heaven And Hell
- Kansas – Paradox
- Journey – Mother Father
- Yes – Machine Massiah
- Led Zeppelin – Since I’ve Been Loving You
- Ozzy Osbourne – Diary Of A Madman
- Pantera – Cemetery Gates
- The Who – Won’t Get Fooled Again
プログレ、メタル、パンクといった広いバリエーションのカヴァーソングを堪能できる一枚です。
『Dark Side Of The Moon』(’06)
続いて2005年のロンドンで行われた『Dark Side Of The Moon』。かの有名なPink Floydの『狂気(The Dark Side Of The Moon)』をフルカヴァーしたライブ音源ですね。今後、Lost Not Forgotten Archivesでのリマスターが期待されます。
収録カヴァー
- Pink Floyd – The Dark Side Of The Moon
『Made In Japan』(’07)
2006年1月のOctavarium Tourで東京と大阪公演の2日目に演奏されたDeep Purpleのライヴ盤をカヴァー。音源は大阪公演になります。
これより前のフルカヴァーはあくまで本家がスタジオアルバムだったわけですが、これに関してはライブを再現しているので、Deep Purpleに対するかなりのリスペクトとこだわり抜いた演奏が楽しめます。
収録カヴァー
- Deep Purple – Made In Japan(Live)
そしてDream Theaterカヴァーで唯一スタジオレコーディングされた作品があります。
『Black Clouds & Silver Linings』(’09)
バンドの10thアルバム。このスペシャル・エディション盤にはDisc2にRainbow、Queen、Dixie Dregs、Zebra、King Crimson、Iron Maidenのカヴァー曲を収録しています。
収録カヴァー
- Rainbow – Stargazer
- Queen – Tenement Funster / Flick of the Wrist / Lily of the Valley
- Dixie Dregs – Odyssey
- Zebra – Take Your Fingers From My Hair
- King Crimson – Larks Tongues In Aspic Pt. 2
- Iron Maiden – To Tame A Land
有名アルバムからの少しマニアックな選曲な感じがしますが、「太陽と戦慄パート2 (Larks Tongues In Aspic Pt. 2)」などはギターのトーンも若干似せてきていますね。
最後はこちら
『…And Beyond Live in Japan, 2017』(’22)
バンドでのカヴァーではないが、セットリストにJohn MyungによるJaco Pastoriusの「Portrait of Tracy」が組み込まれています。
収録カヴァー
- Jaco Pastorius – Portrait of Tracy (John Myung)
このライブでは他にも、「As I Am」にMetallicaの「Enter Sandman」のリフを挿入されているんですが、こうした遊び心は今日ご紹介した作品以外でも隠れミッキー的に演奏されているので、ブートレグシリーズを持っている人は探してみるといいですね!
Nightmare Cinemaについて
音源化しているカヴァーはこのくらいですが、最後にNightmare Cinemaについてお話します。
[画像]
メンバー
- James LaBrie (as Abdul Matahari): Vocals
- Derek Sherinian (as Nicky Lemons): Guitar
- Mike Portnoy (as Max Del Fuvio): Bass
- John Myung (as Juice Malouse): Keyboards
- John Petrucci (as Johnny James): Drums
Dream Theaterのライブのアンコールにてラブリエ以外の楽器隊メンバーを入れ替え、カヴァー曲を演奏するというコンセプトのパロディで、これは1997年に当時のキーボーディストDerek Sherinianの提案で結成されたジョーク・バンドになります。
演奏される曲は決まってDeep Purpleの「Perfect Strangers」でしたが、まれにOzzy Osbourneの「Suicide Solution」も演奏されていたみたいです。見られた人はなかなか貴重ですね。
この試みは1999年まで続けられましたが、デレクに代わってJordan Rudessがキーボーディストになったことで披露されることはなくなりました。
なお、デレクはよほどこの余興が気に入っていたのか、ソロアルバム『Black Utopia』(’03年)でNightmare Cinemaという曲を収録しています。
最後に
こんな感じでカヴァー演奏に積極的だったポートノイ時代のDream Theaterでしたが、実際のところ、ライブのメモリーやサプライズという名目とは裏腹にお客さんの反応は正直半々くらいだったと推測しています。
否定的な意見のその多くは、そもそもDream Theaterの曲が聴きたいのに2部を丸々カヴァーに当てられてしまった時のなんとも言えない反応でした。あとはどうせやるなら別のアルバムにしてほしかった、みたいなちょっと贅沢な要望も少なからずあり、ポートノイにもそんな声は届いていて、その内容を歌ったのが「Never Enough」に繋がったりします。
なんでも演奏できてしまう彼らだからこそ、カヴァーライブは貴重であり同時に惜しさも出てしまう難しい塩梅なのですが、みなさんの思い出に残っているDream Theaterカヴァーはありましたでしょうか。
当記事には動画があります。よろしければチャンネル登録もお願いいたします!
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タグ: Dream Theater
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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