James LaBrie「Beautiful Shade Of Grey」: 米国トップ・ボーカリストの8年ぶりソロ作が登場!全編アコースティック仕様が豊かな表現力を最大限押し上げる!
by 関口竜太 · 2022-06-07
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はJames LaBrieの2022年最新ソロ作をご紹介します。
Beautiful Shade Of Grey / James LaBrie
James LaBrie(ジェイムズ・ラブリエ)はカナダのミュージシャン。ボーカリスト。
来歴
1963年生まれでカナダのオンタリオ州出身。
本名はKevin James LaBrie。幼少期からシンガーであった父親の影響でドラムを叩き始めます。
その後1984年にはボーカリストへ転向し、カナダを中心に様々なバンドで活動していきます。1991年、ボーカルを探していたDream Theaterにデモテープを送り、オーディションの末に合格。当時、バンドにはキーボーディストにKevin Mooreがいたためケヴィンを名乗れずミドルネームのジェイムズを名乗ることとなります。
Dream Theater以外の活動では1998年、自身のソロプロジェクトとしてMullmuzzlerを結成。アルバムを2枚出すと共に、この頃レコーディングミュージシャンとして参加したドラマー、Mike Manginiとも旧知の仲となります。
Mullmuzzlerでアルバム2枚、その後当人名義のソロ・アルバムも4枚リリースしているほか、Fates Warning、Shadow Gallary、Ayreonなど多くのバンド・プロジェクトにもゲスト参加。Rush、Queen、EL&Pのトリビュート作品でも才能溢れるその声を披露し、プログレッシブ・メタルというジャンルに固執することなく活躍します。
今年4月にはバンドが念願のグラミー賞も獲得し、名実共にシーンのトップ・ボーカリストとして君臨しています。
アルバム参加メンバー
- James Labrie – Vocals
- Paul Logue – Acoustic guitars, Bass
- Chance Labrie – Drums, Percussion
- Marco Sfogli – Lead acoustic & electric guitars
- Christian Pulkkinen – Keyboards
楽曲紹介
- Devil In Drag
- SuperNova Girl
- Give And Take
- Sunset Ruin
- Hit Me Like A Brick
- Wildflower
- Conscience Calling
- What I Missed
- Am I Right
- Ramble On
- Devil In Drag (Electric Version)
さて本作『Beautiful Shade Of Grey』はラブリエ8年ぶりのソロ・アルバム。幅の広い歌声とは裏腹に、Dream Theaterに引っ張られ、ソロ作品もメタルが中心となったものが多いです。
そんな中、本作は全編アコースティック仕様のフォーク作として注目を集めています。アコースティック・ギターを奏でるのはイタリアのギタリストMarco Sfogli(マルコ・スフォーリ)。彼はラブリエの過去作にも参加していて特に絆の深いメンバーです。
ベーシストはインターナショナル系メタルバンド、Eden’s CurseのPaul Logue(ポール・ローグ)。マルコを先に紹介してしまいましたがこのポールとのコラボレーションというのがアルバムの一つテーマとなっています。彼はスコットランド人でアルバムでは数曲アコギも弾いているのですが、2011年に先のEden’s Curseの楽曲「No Holy Man」においてラブリエがゲスト参加したことが出会いのきっかけ。それからも交流があった二人はさらに空港でバッタリ再会したことで、本作のプロジェクトが現実味を帯びてきました。
キーボードのChristian Pulkkinen(クリスチャン・プルキネン)はフィンランド出身のプレイヤー。TRVE CVLT CLVB、Epicrenel、Adamantra、Simulacrumといったプログ&メタルのさまざまなバンドやプロジェクトに参加しています。
そして忘れてはいけないのがドラムのChance LaBrie!ラブリエの息子である彼はFalsetというカナダのエクストリーム・バンドを牽引していて、ここでついに親子共演です!
本作のリード・ソングであり先行シングルとしてMVも公開された#1「Devil In Drag」。全編アコースティック・アレンジとは言えそのリフはロックフルなものであり、アコギの持つパーカッシブな特徴がよりグルーヴ感を引き立てています。メロディ・ラインも実にラブリエらしい組み立てで、特にサビのカウンター・メロディはMullmuzzler時代を思い出しました。
なおボーナストラックには本曲のロック・アレンジとなるエレクトリック・ヴァージョンが収録されています。
#2「SuperNova Girl」は緩やかなミディアム・ナンバー。爽やかなアコースティック・サウンドは全編通してのことですが、インターヴァルでマルコが甘いエレキ・リードを響かせています。
哀愁漂うイントロが特徴的な先行シングル#3「Give And Take」。ブレスの繊細な息遣いが聞こえてくる、そんなミドル・ナンバーです。ギターと同じくらい印象に残るのはプルキネンのオルガンで、そこはかとなくプログレッシブ・ロックの匂いを漂わせてくれます。
バラード曲#4「Sunset Ruin」はラブリエの優しい歌声をとにかく堪能できるナンバー。Mullmuzzlerからバラード曲に定評のあるラブリエ・ソロですが、本作でも最低限のアンサンブルに香りを添えるストリングスが贅沢なそんなバラードが収録されました。
#5「Hit Me Like A Brick」は力強いボーカルとカウンターするメロディックなピアノの対比が美しいナンバー。アコースティックで魅せるロートーンもまたセクシーですね。流れるようなギターソロにも注目。
#6「Wildflower」は引き続きバラードですが、温かみのあるコーラスをここで聞かせてくれます。この曲では息子のチャンスに注目してみましょう。ハードなメタルバンドのドラマーであるチャンスですが、この度のアコースティック・アルバムにしっかりと対応している巧さはさすがです。
見事な多重コーラスから始まる#7「Conscience Calling」。ラブリエがこの手の歌を歌うのは珍しいなと思いつつ、ネイティブ・アメリカンの讃歌である「Hold On Just a Little While Longer」のような、気品に溢れるゴスペルを感じます。
そこから繋がって#8「What I Missed」。序盤の淡々とした曲展開をカバーするように、チャンスのボキャブラリーの多さを窺わせるドラム。中盤以降はギター・ソロも含め最終的にドラマティックに仕上げている安定のクオリティです。#7と繋げて大作チックに聴かせている点もいいですね。
リリース直前で公開された#9「Am I Right」はイントロのフィンガー・アルペジオが特徴的。ラブリエの声はもちろんですが、それ以上にコード進行やシンコペーションがもたらすパーカッシブなアタックに耳を傾けてしまいます。最近のDream Theaterではこういったアコースティックなバラードは少なくなってしまったので、これを聴いているだけで90年代へタイムスリップしたようですね。
ラスト・ナンバー#10「Ramble On」はLed Zeppelinのカヴァー。本家もアコースティックに仕上げている楽曲でアルバムとも自然にマッチ。アコースティック作品最後にしてメタル・ボーカリストJames LaBrieのシャウトを生かした締めとなっています。
最後に
Dream Theaterのラブリエももちろん大好きなのですが、本来のポテンシャルを存分に発揮させている点で本作は名盤と呼んで遜色ない出来です。
「Devil in Drag」のエレクトリック・バージョンも含め50分弱という聴きやすい内容なので、是非ご自身の胸にストレートなラブリエ節を響かせてください。
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タグ: Dream TheaterJames LaBrie加プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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