「雇われボーカル」は禁句です!世界に愛されるメタル界のトップ・シンガー、彼の半生はみんなの人生!James LaBrieのすべて!
by 関口竜太 · 2022-06-06
こんにちは、ギタリスト/音楽ライターの関口です。
本日はDream Theaterのボーカル、James LaBrieについて、お話をしていきます。
今やプログレッシブ・メタルだけでなくメタル全体でもシーンを代表するボーカリストですが、2022年に8年ぶりの新作を出しました。これが非常によかったので、ラブリエの来歴からディスコグラフィから振り返って、最新作の紹介もできたらと思います。
それと、楽器陣の活躍が目立ちがちなDream Theaterというバンドにおいて、ラブリエはどういう立場であるのか、色々疑問も解消しつつ進められたらと思いますのでよろしくお願いいたします。
動画はこちら▼
James LaBrieの基本情報
本名はケヴィン・ジェイムズ・ラブリエ(Kevin James LaBrie)。1963年5月5日生まれでカナダのオンタリオ州ペネッタンギシェン出身です。
オンタリオ州っていうのは、カナダの3分の1を占めている、カナダの政治経済の中心に当たる州ですね。その中でペネッタンギシェンは州の南側、もっと南に行くとトロントがあったりしますが……オンタリオ湖とかトロント湾など水域に面している地域にてラブリエは生まれ育ちます。
ちなみに東にはケベック州があり、ここはフランス語圏になります。なのであまり影響ないかもしれませんが、ラブリエは実はフランス系のカナダ人という見方もできますね。
幼少期からシンガーであった父親の影響でドラムを叩き始めたラブリエは、その後17歳の時にボーカルへ転向して81年にはトロントへ引っ越し音楽活動を始めます。
1986年にColney Hatchというバンドのボーカルになりますが、数回のセッションの後、数ヶ月で解雇されてしまいます。その後すぐに加入したのがカナダのグラム・メタル・バンド、Winter Rose。ラブリエが入る前の前任ボーカルは、Skid Rowのセバスチャン・バック(Sebastian Bach)でした。Winter Roseを脱退したセバスチャンはその後、Skid Rowに加入するわけですね。
結局、Winter Roseは1stアルバムを出しただけで解散してしまうのですが、この時出会ったリチャード・チッキ(Richard Chycki)というギタリストがいます。彼はその後スタジオ・エンジニアとなってRushなどの大物とも仕事をして、後にDream Theaterとは『A Dramatic Turn Of Events』から『Distance Over Time』までミックスやボーカル・エンジニアとして一緒に仕事することになります。
ここで一つ言っておくと、ラブリエは自身の活動からその後の重要人物と巡り合う才覚・センスの持ち主で、彼の人脈でDream Theaterが好転することも多いのです。
Dream Theaterとの出会い
Winter Rose解散後の1991年。ラブリエはボーカルを探していたDream Theaterにデモテープを送り、オーディションの末に合格。当時、バンドにはキーボーディストにケヴィン・ムーア(Kevin Moore)がいたためケヴィンを名乗れずミドルネームのジェイムズを名乗ることとなります。
そして発表されたのが1992年の名盤『Images And Words』。
ここでは前任のチャーリー・ドミニシ(Charlie Dominici)がカバーできなかった音域までラブリエはカバーしていて、見事なハイトーンを聞かせています。
それだけでなく、バンドも1stでの失敗をバネに、ストイックなリハーサルと作曲活動を繰り返していたのでそのフラストレーションを最大限解放したアルバムとなったわけです。
このように歌唱力の高さを評価されているラブリエですが、一時期喉を痛めていたときがありました。それが1994年『Awake』のレコーディング終了後、キューバでの休暇時のことです。
ここで食べた貝によって深刻な食中毒を起こしてしまい、ラブリエは激しい嘔吐を繰り返します。そのことで喉を痛め、医者とかボイストレーナーからドクターストップがかかるほどの事態に発展してしまうんですね。
しかし直後に『Awake』のワールドツアーがあったためキャンセルや休養を取るということもできず強行。以前Dream Theaterが大阪公演で阪神淡路大震災を経験した話をしましたが、あの時はまさにこの食中毒事件の直後であったわけです。
この喉の不調は結構長引きます。本人曰く、2002年くらいまで喉に違和感を抱えたまま、一時は脱退も本気で考えたそう。しかしバンドメンバーからも励まされ、喉のケアやトレーニングも積極的に行って今日まで回復しています。
ラブリエは「雇われボーカル」か
ラブリエについて’90年代〜’00年代までしばしば言われていたのが「ラブリエが雇われボーカルなのか」というお話。
これは音楽誌「BURRN!」のインタビューで、当時編集長の広瀬和生さんが加入してまもないラブリエに対し「貴方は雇われヴォーカリストであるという見方もある」と発言した事実が発端となります。
広瀬氏:ドリーム・シアターというバンドは、ケヴィン・ムーアが脱退した今、ジョン・ペトルーシ、ジョン・マイヤング、マイク・ポートノイの3人だけがパーマネント・メンバーで、まだあなたは“雇われシンガー”の状態に近いのではないかと言われていますが……。




完全にガチギレです。
これについてはラブリエ相当怒ったらしく、他の誌面のインタビューで「ヒロセはasshole」だという発言もして物議をかもします。
そもそもこの広瀬さんはご自身が本当に好意的に思うミュージシャン以外には、かなり踏み込んだインタビューする人で、Mr.Bigのビリー・シーン(Billy Sheehan)、Queensrÿcheのジェフ・テイト(Geoff Tate)、Storatovariusのティモ・トルキ(Timo Tolkki)も気分を害したという強者。
新しいジャンルやメタルの派生にも冷ややかで、一時LOUDNESSですら批判的な意見をしていました。
ただ日本ではこういうゴシップは一人歩きするのですが、本当にラブリエはメンバーから信頼されていて、まずリーダーのポートノイが彼をクビにしなかった時点でそれは明確です。ポートノイがDream Theaterを辞めたあとで、ラブリエが「今は愚痴愚痴言われなくなったよ笑」と冗談半分に話していたエピソードもあって、実は二人は不仲じゃないかという噂も絶えないのですが…信頼はあると思っています。
喉を壊したときでも自ら辞めようとしたラブリエを励まし、バンドに居続けさせたのは他でもないDream Theaterメンバーなので、彼は本当に愛されてる存在ですね。
ラブリエの課外活動
Dream Theater以外の活動では1998年、自身のソロプロジェクトとしてMullmuzzlerを結成。
ここではDream Theaterほどメタルしてないのですが、プログレッシブな方面に舵を切ってなおかつボーカル・フィーチャーなアルバムを2枚出しています。なお、名義は1stではMullmuzzler、2ndではJames LaBrie’s Mullmuzzlerとしています。
この頃レコーディングミュージシャンとして参加したドラマーが、現在Dream Theaterのマイク・マンジーニ(Mike Mangini)。ここでラブリエとマンジーニは旧知の仲となるのです。
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Mullmuzzlerでアルバム2枚、その後当人名義のソロ・アルバムを4枚リリースしています。
- 2005年『Elements Of Persuasion』
- 2012年『Static Impulse』
- 2013年『Impermanent Resonance』
- 2014年『I Will Not Break(EP)』
本人名義のソロはいずれもメタル作品で、メタル・ボーカリスト・James LaBrieとしての側面を堪能できますね。
ほか、Fates Warning、Shadow Gallary、Ayreonなど、多くのバンド・プロジェクトにゲスト参加したり、Rush、Queen、EL&Pのトリビュート作品でも才能溢れるその声を披露し、プログレッシブ・メタルというジャンルに固執することなく活躍。
そして今年4月にはバンドが念願のグラミー賞も獲得し、名実共にシーンのトップ・ボーカリストとして君臨しています。
ニューアルバム『Beautiful Shade Of Grey』について
そしてこの2022年にリリースされたソロ・アルバム『Beautiful Shade Of Grey』はラブリエ8年ぶりのソロ・アルバム。先ほども言ったのですが、幅の広い歌声とは裏腹に、Dream Theaterやソロ作品ではメタルが中心となったものが多いです。
そんな中、本作は全編アコースティック仕様のフォーク・アルバムとして注目を集めています。アコースティック・ギターを奏でるのはイタリアのギタリスト、マルコ・スフォーリ(Marco Sfogli)。彼はラブリエの過去作にも参加していて特に絆の深いメンバーです。
ベーシストはインターナショナル系メタルバンド、Eden’s Curseのポール・ローグ(Paul Logue)。マルコを先に紹介してしまいましたが、このポールとのコラボレーションというのがアルバムの一つテーマとなっています。彼はスコットランド人でアルバムでは数曲アコギも弾いているのですが、2011年に先のEden’s Curseの楽曲「No Holy Man」という曲において、ラブリエがゲスト参加したことが出会いのきっかけ。それからも交流があった二人はさらに空港でバッタリ再会したことで、本作のプロジェクトが現実味を帯びてきたというわけです。
キーボードのクリスチャン・プルキネン(Christian Pulkkinen)はフィンランド出身のプレイヤー。TRVE CVLT CLVB(トゥルー・カルト・クラブ)、Epicrenel(エピクレイニアル)、Adamantra(アダマントラ)、Simulacrum(シュミラクラム)といったプログ&メタルのさまざまなバンドやプロジェクトに参加しています。
そして忘れてはいけないのがドラムのチャンス・ラブリエ(Chance LaBrie)!何を隠そうラブリエの息子です。彼は2020年にデビューしたばかりのFalsetというカナダのエクストリーム・バンドを牽引していて、ここでついに親子共演です!
何より父親の影響でドラムを始めたというのがジェイムズと同じでぐっときますよね!
アルバムは全編アコースティック仕様のアレンジで、ここにきて繊細なラブリエのボーカルを堪能できるアルバムに仕上がっています。メロディにカウンターなんかもあってこれまでのラブリエソロというよりはMullmuzzlerの頃に近いサウンドですね。
さらにラブリエには珍しくゴスペルなコーラストラックもあるので、本当に癒されるし力強いし、演奏めちゃうまだし最高です!最近のDream Theaterではこういったアコースティックなバラードは少なくなってしまったので、これを聴いているだけで90年代へタイムスリップしたようですね。
ボーナストラックも含め50分弱という内容なので今一度ご自身の胸にストレートなラブリエ節を響かせてください。
最後に
「ラブリエは人生」。クラナドからこの言葉を生み出した人に敬意を払いつつ、改めてラブリエという愛すべき存在を認識しなおす機会となりました。
本記事に沿った動画もありますので、是非ごらんください!チャンネル登録もしていただけると嬉しいです。
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タグ: Dream TheaterJames LaBrieMike ManginiMike Portnoy
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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