Leprous「Aphelion」: 驚異的なダイナミクスを誇るプログ・メタル界のガルフピッゲン!高度な技術と内省をパッケージした2021年作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はLeprousの2021年リリース7thアルバムをご紹介します。

Aphelion / Leprous


Aphelion アフィリオン

Leprous(レプラス)はノルウェーのプログレッシブ・メタルバンド。

来歴


ノルウェー西部の町ノトデンで2001年、キーボード・ボーカルであるEinar Solberg(アイナール・スールベルグ)と、ギタリストTor Oddmund Suhrke(トル・オッドマンド・シュルケ)によって結成されたプログレッシブ・メタルバンド……という説明をするのも野暮なくらい、このバンドはここ数年ですっかり世界的な存在へと成長しました。

2009年に1stアルバム『Tall Poppy Syndrome』でデビューを果たすまでにバンドの個性を固めていきますが、一方で、同じくノルウェーのブラックメタルバンドEmperorのフロントマンで知られるIhsahn(イーサーン)がアイナールの義理の弟ということもあり、そのEmperorのバック・バンドに参加する形でLeprousの名は知れ渡っていくこととなります。

2011年にプログレ・レーベルの名門InsideOut Musicへ移籍してから、よりその人気に拍車をかけ、ヨーロッパ、アメリカの関連フェスにも多数出演。2019年リリースの6thアルバム『Pitfalls』はメタル/プログレの両業界で注目され、現在同ジャンルのファンからも一目置かれる厚い支持を得ています。

バンドは2020年より、スウェーデンのGhost Ward Studios、ノルウェーのOcean Sound Recordings、ノルウェーのCederbergStudiosという3つのスタジオに入り、そこでレコーディングを行います。その過程で2020年12月にシングル「Castaway Angels」を発表。そのときはこれがアルバム用のシングルだと言及されなかったのですが、やはり期待は裏切らず、本作にもしっかり収録してきました。

ミックスにはPlaceboBiffy ClyroNothing But Thievesといったイギリスやスコットランドのオルタナ・バンドを数多く手がけるAdam Noble、マスタリングには同じくPlaceboThe 1975の作品で知られるRobin Schmidtが担当し、写真家Øystein Aspelundによる作品をElena Sigidaがデザイン。アート・ワークに採用されています。

アイナールは今作について、

『Aphelion』は直感的かつ自発的で、これまでと全く違う感触を持つアルバムだ。僕たちはこの音楽を書くためにたくさんの異なる方法を試し模索してきたけど、誇張された完璧主義や慎重に計画された曲といった(プログレの流派にありがちな)脳をフル回転させる要素は、このアルバムにはない。でもそれがこのアルバムの強みの一つだと思うよ。計算だけでは出くわすことがない、”生”と”自由”を感じてくれ。

と述べています。

この発言が示す真意とはなんなのでしょうか。現代のプログ・シーンを牽引するモンスター・バンド、Leprousの2021年作を通じ一緒に探っていくことにしましょう!

アルバム参加メンバー


  • Einar Solberg – Lead Vocal, Synthesizer
  • Tor Oddmund Suhrke – Guitars
  • Robin Ognedal – Guitars
  • Baard Kolstad – Drums
  • Simen Daniel Børven – Bass

その他参加ミュージシャン

  • Raphael Weinroth-Browne – Cello
  • Henriette Lindstad Børven – Violin
  • Ellen Fjærvoll Samdal – Violin
  • Karen Suhrke – Cello
  • Pål Gunnar Fiksdal – Trumpet
  • Stig Espen Hundsnes – Trumpet
  • Jørgen Lund Karlsen – Saxophone
  • Sigurd Evensen – Trombone

楽曲紹介


  1. Running Low
  2. Out Of Here
  3. Silhouette
  4. All The Moments
  5. Have You Ever?
  6. The Silent Revelation
  7. The Shadow Side
  8. On Hold
  9. Castaway Angels
  10. Nighttime Disguise

オープニング・ナンバー#1「Running Low」は、先行シングルともなった最安定の一曲。

Leprousといえばボーカルのアイナールの存在感が全てを物語っていますが、一方でリリカルな楽曲や静と動、緩急のジェットコースターでリスナーを一気に引き込む圧倒的説得力も魅力となっているわけです。その中でこの曲はなかなか趣深いところがあり、過去作で顕著に見られるヘヴィなバンド像というものは控えめ。

アイナールはこの新曲について「常に新しい領域を探求したい」「新旧双方のファンに届き、両者を結びつける曲になると信じてるよ」とコメントしていて、より芸術的かつオーケストレーション中心の本作においてはそのアイコンとなっていますね。

スローテンポの#2「Out Of Here」は近年のLeprousを象徴とするような、コーラスとエレクトロ・パルスによる内省的ナンバー。曲の半分以上を静かでアンニュイな空気が占めますが、後半は強烈なファルセットと重たいビートで攻めています。

ブリブリとしたシンセサイザーやパルスのイントロが特徴的な#3「Silhouette」。このイントロだけでかなりモダンな匂いを醸していますが、ヴァースに入るなり、まるでアイナールがリズムを仕切っているかのような引き込み方に思わず息を飲んでしまいます。

#4「All The Moments」のアーミング・プレイで表情豊かに色付けされたイントロはなかなか珍しいかも。北欧の自然豊かな大地を感じさせるサビのメロディなど、壮大に作られたメジャーの風が爽やかに吹き抜ける一曲です。

#5「Have You Ever?」は#2をより深い内省に発展させたかのようなナンバー。煮え切らない気持ちをオーケストレーションにより仰々しく仕立てた雰囲気もありシンプルに聞こえるようで複雑でもある不思議なナンバー。

そして、当アルバムでも並外れた完成度故、段違いな扱いとなるのが#6「The Silent Revelation」。オーケストラやドラマ性の高いアレンジに傾倒していたLeprousから、久しぶりにストレートなバンド・サウンドを聴くことができます。

冒頭のタイトなカッティングから「おお、これは!?」と思わせてくれたし、ヴァースとサビでの緩急、アイナールのずば抜けた表現力の高さからきちんとバンドをやってもLeprousはLeprousなんだなと思わせてくれます。このタイプのサウンドは目下Pain Of Salvationがその代表と言えますが、Leprousも今回の新曲およびニューアルバムで一気にその地位まで登ってきそうです。

ノルウェーの映像制作会社South Coast CreativeのプロデューサーTobias Hole AasgaardenによるMVは、コロナ禍に関わらずメンバーが揃ってパフォーマンスをしている正統派な映像となっています。シンプルですがバンドらしさを感じられるしストイックな楽曲にもマッチしていますよね!

#7「The Shadow Side」は再びBillie Eilish的なミディアム・テンポに落ち着いてしまいますが、ここでの注目はギター・ソロ!弾いてるのは2017年加入のロビンです。いわゆる深い歪みによるメタル・ギターではなくストラトキャスターに始まるシングル・コイルやチューブ・ドライブ・ペダルで得られるような、タッチのニュアンスが繊細に反映されるサウンドです。Leprousは「ギター・ソロ・バンド」ではないのでソロが一つあるだけでも印象に残りやすいのですが、ブルースを根底に感じられるエモーショナルなこのソロは特に名演ですね!

8分近い長尺となった#8「On Hold」。抒情的なハイライトからエンディングに向かう、その過程に配置されたこの曲では、再びボーカルのアイナールに焦点が当たります。抑え目なヴァースから、咆哮するサビに差し掛かった時の鳥肌は、これを聴いた人としか共有できません。終始張りつめた展開に中盤ではタッピング・ギターもあったりして、8分という時間をたっぷり使いひたすらに増大し続けるテンションはクラシックのボレロにも近いかもしれません。

そして来歴でも記した、実質的1stシングル#9「Castaway Angels」。開始1:40ほどまでアコースティックギターとボーカルを軸に置いた静かな導入ですが、ピアノ、エレキ、ドラム、ベースと順に入っていくと徐々に曲が盛り上がっていき、最終的に壮大な大バラードへと展開しています。

曲の最初と最後ではまるでボレロのようなボリュームの変化にただただ圧倒されますし、Leprousの強みであるアイナールのハイトーン・ボーカルをここでも生かす、新たな名曲が誕生した瞬間です。

ラスト・ナンバーとなる#10「Nighttime Disguise」はこれまでの壮大な世界観にヘヴィなバンドの特性、そしてLeprousの魅力を余すところなく詰め込んだ文句なしのエンド・テーマです。アルバムを象徴するダイナミクスかつタイトな演奏技術、アイナールの唯一無二のハイトーン。プログレッシブの大いなる流れを踏襲したドラマティック溢れる曲展開など注目すべきポイントはいっぱいあります。が、ラストにおけるデス・メタルのようなシャウトで、このアルバムをどこか綺麗に飲み込み消化しようとしていた思惑は崩れ、感情に委ね没頭するのが正しい楽しみ方だと悟ります

そして余韻に浸る暇もなくループへと突入するのです……

最後に


アイナールが言っていたように、このアルバムは感覚で捉える作品となっています。

レビューをしていて身も蓋もないことを言うようですが、ここはこうなっているとか、これにはこういう意図があるといった考察は端的に言えば不要です。1時間弱、とにかく音の波と世界観、内省的な歌詞に揺られLeprousの音楽に没入できます。

逆に#7、#8のようなギター的な見せ場は、そうした作品において極上のスパイスとしか言えません。めちゃくちゃに巧いのにそればかりを駆使した表面上の完璧主義的な、もっと簡単に言えばドヤれるような、そういう浅い音楽をLeprousはやりません。

理論で語れるところももちろんたくさんありますが、それ以上に感情を丸裸にして、雑念を取り払ったまっさらな心で聴くのが、このアルバムの最大の楽しみ方と言えるでしょう。それだけに、変に斜に構えたりしない、素直に音楽を受け入れられる初心者のような人ほどこのアルバムは刺さるのかもしれません(この作品が入門編かどうかは別として)。

最後に、アルバムの発売は夏でしたがそこを理解するまでに延々リピートして、だいぶ時間がかかってしまいました。ここにお詫びすると共に、この感動を共有しながらまた別の正解を持つ人と出会える機会を楽しみにしています。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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1件の返信

  1. 関口竜太 より:

    2021/11/25 メンバー情報、楽曲紹介での一部不確定情報を訂正いたしました。

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