Kayak 「Out Of This World」: プログレと交響曲との親和性!リーダーの病気も乗り越え貫禄を示したベテラン・バンド、最新作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はKayakの2021年最新作をご紹介します。

Out Of This World / Kayak


アウト・オブ・ディス・ワールド

Kayak(カヤック)はオランダのプログレッシブ・ロックバンド。

来歴


オランダにおける「メディアの街」、ヒルフェルスムにて1972年に結成された大ベテラン・バンド。1982年に一度解散をしていますが、その後1999年に再結成。現在まで続く古参のプログレッシブ・ロック・バンドに数えられます

結成当初は作曲を主軸に置いたシンフォニック・プログレとしてスタートしますが、1977年『Starlight Dancer』のころからポップなクロスオーヴァーに着手。現在は再びシンフォニック・プログレのスタイルへ立ち返っています。

オリジナルメンバーはオランダの音楽学校に通うミュージシャンたち。しかしながら、Max Werner(マックス・ワーナー)はボーカルを担当しながらドラムを叩き、Pim Koopman(ピム・クープマン)はその両方をこなすピアニストでもありました。このとき、現在でも在籍しているTon Scherpenzeel(トン・スケルペンゼン)がキーボードを弾けたためピムは重兼任を免れますが、このようにかなり不思議で奇抜なメンバー構成であったということは周知しておきたいです。

デビュー作は1973年にリリースされた『See See the Sun』。ナイーブでありながら当時にしてメロディックなシンフォニック・サウンドを繰り広げたことで、このアルバムはプログレと交響曲との親和性を示した重要な作品となりました。

’70年代も後半に差し掛かると徐々にプログレの熱は下火になり、Kayakもこれからの進路を考える選択肢に迫られます。その中で、よりポップなヒット・ソングを生み出そうと、先述した1977年作『Starlight Dancer』をリリース。翌年には『Phantom of the Night』にて狙い通りのヒットも勝ち取りますが、その4年後には解散の憂き目にあっています。

長い間沈黙していたKayakでしたが、2000年にマックスやピム、トンなどオリジナル・メンバーが中心となって再結成。かつてのシンフォニック・サウンドを呼び起こし『Close to the Fire』や2枚組ロック・オペラ『Nostradamus – The Gate of Man』など、再び精力的な活動を開始します。

しかしながら、順調に作品をリリースする裏では少しずつメンバーが交代。さらに2009年にピムがこの世を去る不幸もあり、再び走り出したその足を止めることになってしまいます。

その後、彼に敬意を示したトリビュート・コンサートを開催してからまた少しずつ活動を再開。2019年にはリーダーのトンも心臓発作を起こしファンを心配させましたが現在は回復しています。そして、2017年ごろに刷新された現体制による2作品目が本作『Out of This World』となります。

アルバム参加メンバー


  • Ton Scherpenzeel – Keyboards, lead and backing vocals
  • Bart Schwertmann – Lead and backing vocals
  • Marcel Singor – Guitar, lead and backing vocals
  • Kristoffer Gildenlöw – Bass, lead and backing vocals
  • Hans Eijkenaar – Drums

その他参加ミュージシャン

  • Maria-Paula Majoor, Daniel Torrico Menacho and Francesco Vulcano – Violin

楽曲紹介


  1. Out Of This World
  2. Waiting
  3. Under A Scar
  4. Kaja
  5. Mystery
  6. Critical Mass
  7. As The Crow Flies
  8. The Way She Said Goodbye
  9. Traitor’s Gate
  10. Distance To Your Heart
  11. Red Rag To A Bull
  12. One By One
  13. A Writer’s Tale
  14. Cary
  15. Ship Of Theseus

曲数が多いので一部ダイジェストでのご紹介となりますが、まずは#1「Out Of This World」

冒頭から煌びやかなピアノの階段を登っていくとKayakの強みとも言える、感情を揺さぶるシンフォニックの世界が待っています。6/8のパターンやエモーショナルなリード・ギターは初期のKaipaも彷彿とさせますが、それ以上にストリングスをはじめとするオーケストレーションで彩られた楽曲は、とても6分とは思えない壮大さ。中盤に訪れる中世な雰囲気もファンタジックで思わずガッツポーズです。

一方でこちらは先行シングルとなった#2「Waiting」。非常にコンパクトでポップなロック・ソングに仕上がっておりKayakという歴史のあるバンドへ、これから入門という人にも入り口を広くして待っていてくれます。

#3「Under A Scar」は冒頭から哀愁の漂うリード・ギターのイントロとピアノと歩みを共にするかのような繊細なボーカルが特徴的。サビでの2-5進行がジャズっぽさも感じさせる一方で、1:45〜のクリシェ的に上がっていく展開では’70年代RushやKansas、Genesis辺りのシンフォニックを現代に具現化。4分すぎの大ブレイクから再び哀愁たっぷりのテーマへと戻り豪華なオーケストレーションを聴かせています。

切ないギターのインターバル#4「Kaja」を抜けると、多重コーラスが美しい#5「Mystery」へ。スウェーデンのMoon SafariやA.C.Tの作風を輸入したような一曲で、ポップな雰囲気にも親しみやすさを感じます。

 

細やかなベルの音がファンタジックさを醸す#6「Critical Mass」。多重ボーカルによるストーリー性に変拍子も絡めロック・オペラ風に仕上がった楽曲で、Neal Morse系統に数えられる優しい世界観が素敵です。

その他バラードには#7「As The Crow Flies」#8「The Way She Said Goodbye」、#10「Distance To Your Heart」、#12「One By One」、#13「A Writer’s Tale」など数多く収録。#7はアダルトな雰囲気を持つミディアム・ソング、#8はピアノとアコースティック・ギターにより、より深い哀愁を漂わすバラードになっています。繊細まで行き届いたストリングス・アレンジが光る#10も’80年代ロックの雰囲気がありますね。

#9「Traitor’s Gate」#11「Red Rag To A Bull」は系統こそ違えど、いずれもメロディアスに仕上げられています。#9はリズミカルなパターンにブラス・シンセを全面に押し出し、シリアス・テイストなロックの#11はSAW波形のシンセ・リードだったりテンションの強いソロだったりとありますが、概ねAOR的ナンバーです。

#14「Cary」はピアニカの音色とアコースティック・ギター、ボーカルが平和な空気をもたらすポップ・ナンバー。スウェーデンの若手バンドA.C.Tよりハードな灰汁を抜いたようなメルヘンでファンタジックな一曲となっています。

そしてラストとなる#15「Ship Of Theseus」は反面、非常にダークでシリアスなプログレッシブ・ロックへと仕上がりました。Marcel Singorのエモーショナルなギター・ソロ、Bart Schwertmannの豊かな表現力のなせるボーカルやそれを後押しするコーラスなど、現在のKayakが一丸となって作り上げた、ドラマティックなナンバーにて終幕しています。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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