Liquid Tension Experiment「LTE3」: 実に22年ぶりの邂逅!米国スーパー・プレイヤー4人が織りなす、孤高のプログレ・メタル・シンボル!
by 関口竜太 · 2021-04-16
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は話題の最新作『LTE3』をご紹介します。
LTE3 / Liquid Tension Experiment
Liquid Tension Experiment(リキッド・テンション・エクスペリメント)はアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
アメリカの大手Magna Carta Labelのヴァイス・プレジデントであるMike Varneyの提案により、当時Dream Theater(以下:DT)に在籍していたドラマーのMike Portnoyを中心として、1997年に結成されたプログレッシブ・メタルのスーパー・グループ、Liquid Tension Experiment(以下:LTE)。
ベースには第4期King Crimsonで独特のファンク・グルーヴの風をなびかせたTony Levin、キーボードには当時ポートノイが共演したいと熱望していたJordan Rudess、そして最後のギタリスト枠として、当初はDimebag Darrell(Pantera, Damage Plan)やSteve Morse(Deep Purple)、Jim Matheos(Fates Warning)などが候補に上がりましたが、いずれもスケジュールが合わなかったため、最終的にDTで足並みを共にするJohn Petrucciがギタリストに選ばれ、この話題性しかないスーパー・インスト・グループは1998年にデビューを飾ります。
アルバムは1998年に『1』、翌’99年には『2』をリリース。この後、ルーデスがDTに加入したことで、似たようなマテリアルのバンドが2つ存在してしまうとしたLTEは活動を凍結します。
番外編としては2007年。『2』の制作途中にペトルーシの奥さんが陣痛を起こし、彼が出産に立ち会うことになるという経緯から、スタジオに残された3人が2日間ぶっ通しで行なったスタジオ・セッションの様子を収めた『Spontaneous Combustion』をリリース。こちらはLiquid Trio Experiment(以下:Trio)名義となっており、タイトルからは、一切決め事をせず出たままの発想から演奏していく「自然発火」の意が込められています。
復活の経緯
ポートノイがDTを脱退した後は、事あるごとに「LTEの再始動はないのか」というインタビューが各メンバーにされていました。それに対する受け答えは総じて「全員のタイミングが合えば」といったもので、ファンからしてみればある意味お茶を濁されてきたのですが、実際ポートノイがDTを離れたことで言わば「似たようなマテリアル」という凍結理由も解除されていたと解釈できます。
そして事態が変わったのは2019年。
プログレッシブ・ロックの音楽祭Cruise To The Edgeにて、ポートノイとルーデスが同じステージにて共演。そこでDTのインストナンバーやLTEの楽曲を組み合わせた「Instrumedley」を披露しました。
このことは話題性と共に一夜の夢として流れていったのですが、ポートノイとDTとの関係性が以前より好転していることをファンに示しました。実際、関係の修復にはいくばくか時間を要したみたいですが、現在はかなり良好だとのこと。
2020年6月。アメリカのHR/HM情報やレビューを発信しているサイト、Blabbermouth.netがここで最新情報を発信し世間がざわつきます。なんとルーデスがLTEの再結成を仄めかしたというのです。
「Cruise To The Edge」をきっかけに、この良好な関係をもっとファンが見るにはライブをし、ツアーを行うしか方法はないという話がされたそうで、それについてルーデスが一言が「It looks very good.」と発言したことが日本のファンの間でも話題となりました。
さらに同時期、ペトルーシが15年ぶりのソロ・アルバムを発表。そこでドラムにポートノイとの共演も発表され、LTE再結成という流れが一層の信憑性を帯びてきます。
そして2020年12月。にわかに噂となっていたLTEが再結成を発表、本作『LTE3』のリリースにて復活することとなりました!この背景には皮肉にも新型コロナウイルスの世界的パンデミックがあり、超多忙な4人の「タイミング」が自粛によって得られたということですね。逆に本来の目的であったライブ・ツアーは難しい現状となってしまいましたが。
当初は3月に発売される予定だったこのアルバムでしたが、印刷工場のミスにより4月16日(日本盤は14日)に延期。その日が正式なリリース日となり、噂のリークより実に10ヶ月を経て、22年ぶりの最新作がいよいよ流れ込んできます。
アルバム参加メンバー
- John Petrucci – Guitar
- Mike Portnoy – Drums
- Tony Levin – Bass, Chopmanstick
- Jordan Rudess – Keyboard
楽曲紹介
- Hypersonic
- Beating The Odds
- Liquid Evolution
- The Passage Of Time
- Chris & Kevin’s Amazing Odyssey
- Rhapsody In Blue
- Shades Of Hope
- Key To The Imagination
パンデミック、そしてロックダウンの現状から、各メンバー2週間の隔離生活をした後、PCR検査にて陰性を証明。クリーンな状態で3週間ほどスタジオを共にし作り上げた、渾身のプログレ・メタル作品です。
#1「Hypersonic」の冒頭から、30秒に渡るロング・スパンのColorado Bulldog!!
過去の「Paradigm Shift」や「Acid Rain」に倣う、アルバムのオープナーらしいエネルギッシュな超絶インストです。バンド全体で繰り広げるノンストップのキメもさることながら、3:15〜におけるペトルーシの叙情的なソロだったり、4:29〜のKing Crimson的フリーキーさだったりと、表情豊かな展開があってもそこに連続性を感じられる貫禄の造りです。ポートノイ曰く「とにかく絶え間なく、隙間のない猛攻」。
続く#2「Beating The Odds」もファンを全く裏切らない会心のキラー・チューン。
曲の雰囲気はRushを強く意識しつつ、気持ちのいい7拍子ベースに常にシンコペーションしていくような、前のめりでアップテンポなロック・ナンバー。メイン・リフはペトルーシによるアイデアですが、オープニングの不思議な拍子にメンバーからは「どういうつもり?」と返されたようです。曲はルーデスのキーボード・ワークやペトルーシのエモーショナルなソロなど、聴きごたえ十分です。
#3「Liquid Evolution」は本編において、唯一インプロヴィゼーションによって作られたナンバー。少々話は逸れますが、本作は先の『1』『2』に比べ、より堅牢な曲展開とキメが多いように感じます。セッションやレコーディングに入る準備だけで一苦労な情勢を見るに、そこからインプロであれやこれやと悠長に試している時間はなかった背景を感じ取れます。
しかし、アドリブあってこそのLTE。ルーデスのパーカッシブなシンセサイザーが打ち込む、自然とファンタジーな世界観にうっとりしつつ、後半ではサスティナブルなギターの、甘美なメロディも用意されています。
#4「The Passage Of Time」はアルバムの発表から数日後に公開されたシングルの第一弾。今回、22年前までと比べて音像がスッキリした印象を受けるのですが、難易度とは別にごちゃごちゃした贅肉を削ぎ落としシンプルにまとめてある感じがします。各ソロパートは相変わらず超絶技巧そのものですが、後半にはストリングスによる大きなテーマが設けられているなど、タイトな演奏とカタルシスの解放によるコントラストが見事ですね。
なお、先行公開されたMVは、TransatlanticやBig Big Trainなども手がけるChristian Riosによるもの。
お次は#5「Chris & Kevin’s Amazing Odyssey」。ペトルーシを控えめに、Trioを意識したLTEらしいナンバー。「Chris & Kevin’s」を冠するタイトルは、『1』やTrioでもその音を聴ける言わばシリーズ的な扱い。このクリスとケヴィンはそれぞれポートノイとレヴィンを指しており、『1』の宣材写真撮影の際、カメラマンが二人の名前をそれぞれ「クリス」と「ケヴィン」に言い間違えたことが元ネタとなっています。
#6「Rhapsody In Blue」はかの有名なGeorge Gershwinのカヴァーとなりますが、違った意味でこのアルバムを聴く最大の特典。壮大なクラシックをベースにメタルやプログレの要素をふんだんに詰め込んだアレンジのおもちゃ箱で、ひたすらに楽しい13分となっています。
ポートノイが兼ねてよりカヴァーしたかった曲の一つらしく、過去にLTEによってライブで披露されてはいたものの、それを聴いた人間はかなり限られることから、今回初の音源化に至りました。まずはポートノイがライブの録音を聴きながらドラムを叩き、それに各メンバーが音を重ねていくという手法が取られており、ラスト7秒くらいのところでポートノイの叫びが聴こえるのは流していたライブ音源をマイクが拾ったためとなります。
#7「Shades Of Hope」はペトルーシとルーデスによるデュエット・ソング。ルーデスのピアノはシンプルなグランドというより、少し揺れも足したライトな仕上がりに。その上で伸びやかに弾かれるペトルーシのリードに癒されます。
そしてラスト・ナンバー#8「Key To The Imagination」。今回のアルバムで#1、#2、#4、そしてこの#8の4曲は、4人で仕上げたナンバーとなり、かつてのDream Theater、そしてレヴィンも加えたLTEというバンドのケミストリーをこれでもかというくらい堪能できる曲です。
13分に及ぶ壮大な曲の中には「Home」や「In the Name of God」、「Octavarium」といったDTの代表曲のエッセンスが感じられます。個人的にはカヴァーの#6からも中盤「The Count of Tuscany」がリンクしました。
最後に
さて、聴き終えてみて大満足といった具合のベストな出来です。
少々インプロ成分が少なく感じたものの、それは情勢的にそう変化しないといけない部分でもありますし、ここまで完成度が高い上にエキサイトできる作品を作ってくれたことを非常に嬉しく思います。何よりポートノイ&ペトルーシ&ルーデスのケミストリーをまた感じられて感無量です。もちろん、74歳とは思えないほどエネルギッシュなプレイしているレヴィンも無視できません。
そしてDelux Editionにはボーナスディスクが付随。Trioのアルバムのようにひたすらセッションしていく、概念的5曲が収録されているので、テクニカルに貪欲な人でもよりお腹を満たしてくれると思います。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレJohn PetrucciJordan RudessLiquid Tension ExperimentMike PortnoyTony Levin
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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