Liquid Trio Experiment「Spontaneous Combustion」: まさに破水の時…命の誕生の裏で演奏されたスーパーインストグループのギターレス版パッション!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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LTEの新譜がいよいよリリースということで、本日はLiquid Trio Experimentのアルバムをご紹介します。

Spontaneous Combustion / Liquid Trio Experiment


Spontaneous Combustion

Liquid Trio Experiment(リキッド・トリオ・エクスペリメント)はアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。

来歴


アメリカの大手Magna Carta Labelのヴァイス・プレジデントであるMike Varneyの提案により、当時Dream Theaterのドラマーに在籍していたMike Portnoyを中心に結成されたプログレッシブ・メタルのスーパーグループ、Liquid Tension Experiment(以下:LTE)。

ベースには第4期King Crimsonで独特のファンク・グルーヴの風をバンドになびかせたTony Levin、キーボードには当時ポートノイが共演したいと熱望していたJordan Rudess、そしてDTで足並みを共にするJohn Petrucciがギタリストに選ばれ、話題性しかないスーパー・インスト・グループとして1998年にデビューを飾ります。

デビューアルバム『1』では、DTのような超絶的なテーマを随所に配しながら、曲全体の流れはジャム・セッションに委ねるという試みがなされ、フレーズの緻密さと緊張感を欠かさない曲展開の数々に、リスナーはとにかく夢中になりました。収録された「Paradigm Shift」や「Universal Mind」などは、その後のDTのライブでも度々披露されています。

翌’99年には2ndアルバム『2』をリリース。より構築的なプログレッションも試され、特に「Acid Rain」や「When the Water Breaks」といった超絶的なナンバーはこちらに収録されています。

その後、LTEで共演したルーデスがDTに加入。3/4がDTメンバーとなったことでこれ以上LTEの活動は不要という判断に至り、夢のようなこのバンドは2枚のアルバムをもって活動を凍結することとなりました。

Liquid “Trio” Experiment


さて、2007年にリリースされた本作『Spontaneous Combustion』は、名義もLiquid “Trio” Experimentということで何やらただごとではない感じがいたします。

時は1998年10月まで遡ります。

LTEは『1』の好評を受け、2ndアルバム制作のためニューヨークのスタジオでセッションを始めていました。しかしその数日後、ペトルーシの奥さんが陣痛を起こし、彼が出産に立ち会うことになるという急な事態に。お子さんは無事産まれるのですが、先述した「When the Water Breaks」はまさに「破水の時」というタイトルで、実に生々しい体験の音源として残っていますね。

さて、ペトルーシが立ち会いのためスタジオにはポートノイ、レヴィン、ルーデスの3人が残ることとなりました。そこで3人は2日間、ひたすらジャムをしまくります!

ポートノイ曰く「作曲をしたり、何かを書いたりということはせず、ジャムを行い即興し自由な精神を楽しんだ。事前にアイデアやリフや方向性を語ることもせず、何があるかもわからない音楽の海に、セーフティー・ネットなしで飛び込んだ」

そのとき録音された音源のいくつかは『2』にも生かされているのですが、録音されたまま忘れ去られていたセッションの様子を収録したのが、本作ということになります。

バンドの華でもあるペトルーシの不在、そして誰に向けたわけでもないジャムセッションの数々に、アルバムとしての評価は決して高くありませんが、この音源が流れているまさにその裏で一つの命が誕生しようとしていると考えるとまた違って聴こえてくる趣があります

なおタイトルの『Spontaneous Combustion』は自然発火を意味します。

アルバム参加メンバー


  • Jordan Rudess –  Keyboards
  • Tony Levin – Bass, Chapman stick, Electric upright bass
  • Mike Portnoy – Drums

楽曲紹介


  1. Chris & Kevin’s Bogus Journey
  2. Hot Rod
  3. RPP
  4. Hawaiian Funk
  5. Cappucino
  6. Jazz Odyssey
  7. Fire Dance
  8. The Rubberband Man
  9. Holes
  10. Tony’s Nightmare
  11. Boom Boom
  12. Return of the Rubberband Man
  13. Disneyland Symphony

ジャムセッションをぶっ通しで録音しただけの作品ですので、特例として楽曲を深くは解説いたしませんが、全編を通し非常にアンビエントな音楽がひたすらに流れる1時間の指針として読んでいただければと思います。

#1「Chris & Kevin’s Bogus Journey」はシンセ・ビートをきっかけにリズム隊が乗って行くシーン。サウンドのイメージとしては『2』でも聴かれるので期待を込めながら聴くことができると思います。しかし、あくまでジャムなので期待通りにはいかず、中盤からポートノイが手数を増やし煽るもルーデスもレヴィンも一向に乗ってこないという始末笑。しかしその生々しさこそが本作の醍醐味と言えるでしょう。

なお「Chris & Kevin’s」をタイトルに持つシリーズは他に『1』と『3』にも収録。

続く#2「Hot Rod」はポートノイの細かな技巧に、サスティナブルなシンセサウンドが響くアトモスフィア。とにかくドラムが加速していき#1以上に煽っていきます。よくポートノイのドラムはメロディアスと評価されますが、テーマのが設けられていない本作品で彼のドラムはメロディとしても機能しています。

#3「RPP」はKeith Emersonを意識したようなキーボードに追従するかのようなマニアックなドラミングが印象的。後半のフリーなドラムはKing Crimson的ですね。

タンバリンからJaco Pastorius風なレヴィンのベース、高速のドラムにキーボードのうねりが絡む#4「Hawaiian Funk」。「ハワイアン」でも「ファンク」でもないと一部では言われていますが笑、タイトルと曲とのミスマッチ具合にどう感じるかリスナーによって感想が別れるところです。

#5「Cappucino」、#6「Jazz Odyssey」、#7「Fire Dance」はジャズやブルース、EL&P風フレージングなどを散りばめた長めのジャム・パート。特に#7の後半で聴かれるピアノではルーデスらしい美しいメロディ・ワークが光ります。

#8「The Rubberband Man」では弾力のあるタムの回しが「Rubber」なのか、変化していくリズム・パターンにシンセやベースが泡沫に現れては消えていきます。テンポアップした#12「Return of the Rubberband Man」から、共通点を見つけてみてはいかがでしょうか。

いくつかEL&Pを例に出してしまう本作ですがこの#9「Holes」もその一つ。HIP HOPのようなトラックにメロディアスなシンセサイザーが役割多しと活躍しています。

#10「Tony’s Nightmare」はレヴィンのチェロのようなベース・ワークが独特の揺れを生み出しているナンバー。そのまま、変則ドラムとチョップマンな#11「Boom Boom」へと流れ込んでいきます。この曲の雰囲気は、『2』における「Chewbacca」へと変換されていく気配がします。

ラストはディズニーランドをその名に持つ#13「Disneyland Symphony」。どんなメルヘンかなと思い聴いてみてもいつものLTEですが、これまでに比べて荘厳な雰囲気は聴きようによってはファンタジーとも捉えられます。チョップマンスティックのTAPとブラスシンセとの絡みを披露して、静かにアルバムを締めています。

最後に


非常にファンアイテムとしての印象が強い本作品。この中から後の『2』や最新作『LTE3』に通ずるインスピレーションを感じ取れたら、きっとそれは気付きを得た人だけの宝物となるでしょう。

逆に、「自分ならこのシーンでどう演じるか」というプレイヤー目線での聴き方も存在するので、与えられた一方向だけじゃない、趣向を凝らした高度な楽しみ方も模索できます。本作はそんな「なんとか楽しもうと前向きになれる人」のための贅沢品だと思います。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 プログレッシブロック/メタルの大ファン。自身が企画するプログレッシブ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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