Turbulence「Frontal」: 聴いた人から打ち震える!DTスタイルを継承するレバノンのプログレッシブ・メタルバンド、堂々の2ndアルバム!
by 関口竜太 · 2021-04-13
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はTurbulenceの2021年最新作をご紹介します。
Frontal / Turbulence
フロンタル[日本国内盤CD限定ボーナストラック付き/日本語解説付き]
Turbulence(タービュランス)はレバノンのプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
中東レバノンの首都ベイルートにて2013年に結成された、新世代のプログレッシブ・メタルバンド。
レバノンといえば、地中海に面しながら、北と東ではシリア、南にはイスラエルとの国境に接し、宗教的、民族的にも多様性を持つアラブの国の一つ。特にベイルートは1975年から15年続く「レバノン内戦」より前は観光、農業、商業、銀行業を含む多様な経済を享受し、「中東のパリ」と呼ばれるほど多くの観光客に恵まれた都市でもあります。
現在は紛争からの経済復興、国家インフラから回復の途上にあり、決して豊かで安心な国とは言えないものの、一人当たりのGDPはペルシャ湾の石油国を除くアラブ世界で最も高く、国際色も豊かに、比較的先進的な国として知られています。
そのレバノンでギタリストAlain Ibrahim、キーボーディストMahmoud Yasineを中心に結成されたTurbulenceは、Dream Theater、Fates Warning、Symphony Xといったプログレッシブ・メタルの潮流を取り入れた音楽性から精力的に活動。
ボーカルにOmar El Hageを迎え2015年にデビューアルバム『Discalance』をリリースすると、その後ベースにAnthony Atwe、ドラムにSayed Gereigeが加入し現在の形となります。
その演奏力の高さから、自国では「Dream Theater Night」と銘打ったライブ・イベントを4度開催し、同じくDTフォロワーであるメタルバンドたちの中でも頭一つ抜けた存在として現在大注目株となっています。
各メンバーはそれぞれに別の活動も持ち、イブラハムは女性ボーカルプログ・メタル・バンドOsturaやソロでも活動。ヤシンはTurbulence結成前にレバノンのミュージシャンAmadeus Awadの作品にも参加している実力派です。
一方で、ドラムのセイドはバンドの他、精神科医としても兼業しており、ライブや作品の作曲・アレンジに参加できたものの本作においてはレコーディングでの参加は不十分となってしまいました。
ですが、本作『Frontal』は5年の制作スパンを経て、満を持してのリリース。大手Frontiers Recordとの契約も獲得し、日本盤も発売された、2021年屈指のプログレ・メタルアルバムとなることでしょう。
アルバム参加メンバー
- Alain Ibrahim – Guitars
- Mahmoud Yasine – Keyboards
- Omar El Hage – Vocals
- Sayed Gereige – Drums
- Anthony Atwe – Bass
楽曲紹介
#1「Inside The Gage」は早速11分に及ぶ長尺曲ですが、’00年代ごろのオールド・スクールなプログレッシブ・メタルに、近年のモダン・アプローチを加えたハイブリッド・スタイルが心地よいです。ヘヴィながらメロディックなギター・リフにシンセリードも被せることでキャッチーさはさらに加速しています。
6:47〜はイブラハムのギター・ソロ。叙情的な曲展開にしっかりマッチした歪み量、アーミングを繊細に操るスタイルはJohn PetrucciやSteve Vaiなど技巧と表現力を併せ持つ巨匠たちへのリスペクトが感じられます。
デジタライズなリフから激しく畳み掛ける#2「Madness Unforeseen」。複雑な変拍子を交えたシンセサイザー・フィーチャーな楽曲はCircus MaximusやSpheric Universe Experienceも想起させます。
MVが作られたシングル曲故に、コンパクトなサイズの楽曲や歌メロ、トリッキーなソロに至るまでアレンジに余念がありません。ボーカルのオマールはFates WarningやRedemptionのRay Alderのようですね。
#3「Dreamless」は2分程度のブリッジ的小曲。続く#4「Ignite」ではメタルコア・バンドTriviumを思わせるフライなデスボイスとクリーンとの切り替えに思わずうっとりしてしまいます。イントロではアグレッシブに、歌は甘美に聴かせてくれるのがTurbulenceの良さであり、彼らなりの「DT的」解釈だと思います。
#5「A Place I Go To Hide」はそれまでに増して重たいアンサンブルとプログレらしいメランコリックな旋律、そしてドラマ性溢れる展開が魅力的。すでに登場させていますが、この曲などはまさにRedemptionの風格があります。Jordan Rudessを彷彿とさせるシーケンスのテンション感、サスティナブルなギターソロも色気たっぷりです。
10分超えの大作#6「Crowbar Case」は、静寂なヤシンのピアノから邪悪に展開。フレキシブルなリズム・パターンの変動、怪しさ満点のボーカルラインやギターの揺れなど抜群の支配力で聴き入らせてくれます。3:12〜では唐突にギターとキーボードで難易度の高いユニゾンを披露していたり、緩急のある展開を縦横無尽に繰り広げるハイセンスぶりが光ります。
#7「Faceless Man」は伸びやかなボーカル・ラインと柔らかなシンセ・リードのサウンドが印象的なバラードナンバー。
ラスト・ソング#8「Perpetuity」は、これまた10分に迫りそうという大作仕様。シングルコイル的な歯切れのいいギターのカッティング、およびそのサウンドが新鮮で、他Djent風な音作りをベースとした重厚なメタルサウンド、オマールの艶かしいボーカルを聴いているとHakenがよぎってきます。
6:11ごろに一度大きなブレイクが入り、その後大団円となるエンディング・パートで、この見事に構築されたシンフォ系プログレ・メタルを締めています。
最後に
『PROG MUSIC Disc Guide』でも言われていたことですが、もはや中東だとか辺境の地だとかいう理由で聴かずして音楽を判断してはいけないと、そんなレベルにまでクオリティは上がってきています。2021年のベスト・アルバムに間違いなく食い込んでくる名盤になると思います。
そして日本盤のボーナストラックには、巨匠Dream Theaterの「In The Name Of God」のカヴァーが収録されていますので、是非チェックしてみてください!
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タグ: プログレッシブ・メタルTurbulence中東プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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