Wheel「Resident Human」: 脱構築論の先に人類が行き着くところとは……!?凶暴性と繊細さをコントロールする北欧オルタナ・メタルバンドの2nd!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はWheelの2021年最新作をご紹介します。

Resident Human / Wheel


Resident Human

Wheel(ホイール)はフィンランドのプログレッシブ・メタルバンド。

来歴


フィンランドのヘルシンキで2015年に結成されたこのWheel。

ギター・ボーカルのJames Lascellesを中心に、ベースMikko Määttä、ドラムSanteri Saksala、そしてリードギターSaku Mattilaの4人組。結成から4年の活動と数枚のEPをリリースし、2019年に念願のデビューを果たします。

デビューアルバム『Moving Backwards』ではCreedAlice In Chainsのようなヘヴィメタル、グランジ・ロックToolKarnivoolなどのオルタナティブ・ロック/メタルがベースとなり、変則的なリズムと長尺楽曲によるプログレッシブ・メタルへと昇華しています。

他にはダウンチューニングを多用することも特徴で、重厚でパワーのあるサウンドを展開。壮大な曲についてはリフレインすることで徐々に盛り上げていく映画音楽からの影響もあるようです。

本作『Resident Human』はそんな彼らが満を持して産み落とした2021年の2ndアルバム。前作よりもタイトな音像とオルタナ系メタルの系譜を踏襲したスタイルに早くも注目が集まっています。なお、ギタリストはデビュー時のサクが抜け、新たにJussi Turunenが加入しています。

アルバム参加メンバー


  • James Lascelles – Vocals, Guitars
  • Mikko Määttä – Bass
  • Santeri Saksala – Drums
  • Jussi Turunen – Guitars

楽曲紹介


  1. Dissipating
  2. Movement
  3. Ascend
  4. Hyperion
  5. Fugue
  6. Resident Human
  7. Old Earth

全7曲、トータル50分の中に、10分超えの楽曲を3つ配置したランニング・タイムな作品。

アルバムのテーマ

アルバムのテーマは「人類の比喩的な脱構築」であるとされていますが、ちょっと表現が固く難しいですね。まず「脱構築」というのは「人類が行う哲学の営みそのものが、常に古い構造を破壊し、新たな構造を生成している」という考え方で、これは紀元前4世紀ごろのプラトンのイデア論に対抗した考え方となります。

イデア論の解釈はそれぞれですが、喩えばゲームの世界をイメージしてみてください。その世界の外側にはプログラムや膨大な文字列のデータが存在しそれがゲームの世界や人物、物を構築しています。しかしゲームの登場人物たちはそのプログラムやデータを実際に目撃したり理解したりすることはできません。これを我々が暮らす現実にも当てはめてみて、ゲームの世界で言うプログラムに当たる「世界を構築する見えない何か」、それが「イデア」だとする理論ですね。哲学が盛んだった古代ローマや古代ギリシャではかなり画期的な理論で、要するにこの「イデア」を研究・追求することで世界を理解しようという考え方でした。

「脱構築」というのは、「いやいや、我々が見えない何かによって作られているんじゃなくて、日々こうしてたくさんの人が考え続けることで世界は常に変化しているよね」という、よりリアル方面に重視した現代的な理論です。また「この脱構築の思想そのものも、常に脱構築され新たな意味を獲得していく」という本質を孕んでおり、世界中に溢れる哲学者やその発言、主張の違いにより一つの形に収まらずぐにゃぐにゃと変化し続けるのが20世紀以降の哲学の大きな潮流となっています。

すなわち「人類の比喩的な脱構築」という表現は、世界中で日々変わり続ける人間の営みが世界を作っていると考えてよさそうです。なお、テーマに当たり多くの楽曲はアメリカのSF作家、ダン・シモンズ(Dan Simmons)の「ハイペリオン」から影響を受けています。

楽曲紹介

さて、前置きが長くなりましたが#1「Dissipating」は、アルペジオから静かに始まる12分の長尺曲。ディレイやリヴァーブにより奥へと広がっていく余韻が宇宙的に感じます。3:40ごろまでは内省的に曲が進み、徐々にバンドインしフォルテシモしていく楽曲の流動性はアルバムのテーマに沿った哲学的なナンバーです。

アルバムのアナウンスと同時に発表された先行シングル#2「Movement」。メンバーの愛するポリリズム的概念を引き継ぎ、繊細さと凶暴性をコントロールするボーカルの、技術面での変化が見られます。

楽曲は2020年5月、アメリカで白人警官が黒人男性George Floydさんを拘束、その際の拘束方法が不適切だったため当人が窒息死してしまったという痛ましい事件をテーマにしています。この問題は近年、特にアメリカで社会問題になっている上、未だ国内での黒人差別が残っている現状を再び呼び起こさせました。

デジタル・リズムのイントロから始まる#3「Ascend」。Dream Theaterの「Build Me Up, Break Me Down」や「S2N」などに代表されるモダン・スタイルのメタル・ナンバーで、インターバルではDjentの歯切れを体現したタイトなリフ・ワークも。重苦しいベースサウンドに新加入のユッシによるディスコード・アルペジオもかっこいいです。

こちらもシングルとなる#4「Hyperion」。タイトルは先述したテーマのまま、ダン・シモンズの「ハイペリオン」からきていますね。基本的な音作りや構築は#1の流れですが、まさにTool系統のヘヴィなサウンドが展開する12分となっています。曲のラストはスペーシーな余韻を残しています。

先行配信された#5「Fugue」はサイケデリック・ロックからの流れを汲んだ、繊細でアンビエンティな雰囲気の一曲です。シンセサイザーのサスティンに生々しいパワフルなドラムのビート、メロディックなギターのアルペジオが特徴的です。

タイトルナンバーの#6「Resident Human」。10分を超えるこの曲では、Pink Floydの「Shine On You Crazy Diamond」を彷彿とさせるイントロのアルペジオがまず飛び込んできます。ダウナーな音作りに変則的なヴァースがあったりとプログレッシブな要素もふんだんに取り込んでいますが、そのパワフルな演奏とは裏腹にギターのゲインは抑え気味で、バンド・アンサンブル全体でセンシティブに曲の表情を紡いでいっているのが非常に好印象でした。

そしてラスト・ナンバー#7「Old Earth」は#6のテーマをピアノに投影した小曲インストになります。

最後に


『PROG MUSIC Disc Guide』の方では監修の高橋さんが1stアルバムのレビューを担当しており、先日行われたトークイベントにおいてもどこかの話題でオススメバンドに挙げていました。

個人的には最初「Movement」を聴いた時そこまで興味をそそられなかったのですが「Fugue」で一気に注目度数が上がりましたね。2021年もまだ序盤ですが、コロナにも負けないこの2ndアルバムは今年のアイコンになってくれると思います。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 プログレッシブロック/メタルの大ファン。自身が企画するプログレッシブ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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