Moon Safari「Lover’s End」: スウェーデンが産んだ花と太陽のニュープログ!日本盤デビューを飾った大輪の3rd作!
by 関口竜太 · 2021-03-27
こんにちは、ギタリストの関口です。
過去に紹介した作品の密度を高くしてお届けするアーカイブ&再編集。第9弾となる本日はMoon Safariの『Lover’s End』をご紹介します。
Lover’s End / Moon Safari
Moon Safari – Lover’s End Complete Edition (2CD)
Moon Safari(ムーン・サファリ)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
結成は2003年。スウェーデンの中でもシェレフテオという湖と大自然に囲まれた地域でMoon Safariは生まれました。
当初のメンバーはキーボーディストSimon Åkesson、ギタリストにPetter SandströmとAnthon Johansson(2005年に脱退)、ベーシストにJohan Westerlund、そしてドラマーにTobias Lundgren(2015年に脱退)という5人でのスタート。
スウェーデンの片田舎出身ではありましたがデモテープがThe Flower KingsのキーボーディストTomas Bodinの目に止まることで注目を集めます。
トマスプロデュースの元制作された1stアルバム『A Doorway to Summer』では、王道のシンフォニック・サウンドに変拍子などプログレッシブなアプローチ、スムースでアコースティックなトラック、そして分厚いハーモニー…と、このときすでにMoon Safariの音楽性は確立されていて、とりわけその美しいハーモニーは話題を呼びました。
この1stアルバムや続く2ndアルバム『Blomljud』では夏、太陽、光、花など自然豊かなテーマが歌われることが多々あり、彼らが育ったシェレフテオの空気をまさにそのまま詰め込んだようなサウンドと、これまでのプログレッシブ・ロックに対する陰鬱な印象を吹き飛ばす爽やかな北欧の風となりました。
なおアルバムはBlomljud Recordsという独自のレーベルからのリリースとなっておりこれは2ndアルバムのタイトルになっています。なお「Blomljud」は「花の音」の意。
本作『Lover’s End』はその勢いを保ったまま制作された3rdアルバム。印象的なジャケットとこれまでの音楽スタイルを突き詰めたロマンティックなコンセプトの下、初の日本盤がリリースされたことも話題を呼び大ヒットします!
アルバム参加メンバー
- Petter Sandström – Vocals, Acoustic guitar
- Pontus Åkesson – Guitars, Backing vocals
- Simon Åkesson – Vocals, Piano, Organ, Moog, Choral & orchestral arrangements
- Sebastian Åkesson – Keyboard, Backing vocals
- Johan Westerlund – Bass, Backing vocals
- Tobias Lundgren – Drums, Percussion, Backing vocals
楽曲紹介
- Lover’s End pt. I
- A Kid Called Panic
- Southern Belle
- The World’s Best Dreamers
- New York City Summer Girl
- Heartland
- Crossed The Rubicon
- Lover’s End pt. II
オープニング曲となる#1「Lover’s End Pt. I」は、これまでの作品同様、ピアノと美しいボーカルで幕を開けます。イントロのハーモニカもミニマムで難解さを感じさせない工夫と言えます。ポップなピアノ・ソングとして癒しの境地にありながら、静かに転調し聴き手に悟らせない形で盛り上げていく様はもはや職人芸。各楽器の音色のチョイスもさすがですが、コーラスすら楽器と化していることに早くも期待が膨らんでいきます。
#1から繋がって一気にサファリ・ワールドに引き込まれていく#2「A Kid Called Panic」。イントロではRushやBig Big Trainを感じさせるライトなギター・リフ。ボーカル・パートでは、ヴァースから自重できないとばかりに自慢のコーラス・ワークがその蕾を咲かせ出しますが、サビに入るとそれらがぐわっと波のように押し寄せてきて、まさに現代プログのシャングリラがそこには広がっています。
続く#3「Southern Belle」。頭から、ゴスペルを感じさせる非常に美しいコーラスの世界が広がります。前作収録の「Constant Bloom」の発展系とも取れるこの曲では、さらにピアノが加わりソロ・ボーカルパートも展開しています。
#4「The World’s Best Dreamers」は本作一、ポップな雰囲気を持つバラードソング。その秘密はイントロのピアノと同旋律のヴァースや自然な歌メロの展開にありますが、メジャー3rdからスケールを降っているだけなのに稚拙さは一切ナシ!優しいメロディと大人で柔らかい雰囲気に包まれる、まさにMoon Safariマジックです。
#5「New York City Summer Girl」はそのタイトル通り、爽やかでアップ・テンポなフォーク・ナンバー。スライド・ギターによるオブリやTony Banks系のキーボードなど終始明るい雰囲気が特徴ですが、変拍子も適宜取り入れたりしています。
親愛なるメロトロンの調べがノスタルジックな#6「Heartland」。実際’70年代Genesisの風味は最初だけで、本編はMoon Safari流のハード・ロックですが、煌びやかなシンセサイザーや分厚いコーラスのサビなど、総じるとAORに仕上がっています。
ですが、よくよく考えてみると、イントロは’70年代、本編は’80年代、後半のインターバルはダークな’90年代という風に、曲が進むに連れプログレッシブ・ロックの年代別特徴を炙り出しています。そして最後は’00年代に自らが打ち出した多重コーラスを披露しているという構造です。脱帽です。
アルバムの中では#2に次ぐ10分近いナンバー#7「Crossed The Rubicon」。曲の冒頭はピアノ・オルガンとコーラスが主体になった3拍子の楽曲で、ゆったりとした平和な時間が流れます。エンディングはフェードアウトするまでの3分間、ポンタスによるロング・ギターソロ。伸びやかなメロディラインはもちろんですが、聴きようによってはプログレッシブ・メタル的なテクニカルさも有しているため改めてポテンシャルの高さを思い知らされます。
ラストの締めとなる#8「Lover’s End pt. II」は、コーラスとアコースティックギターでスローに織りなす小曲のエンディング。素敵な物語を読み終えた後のような余韻に浸ることができます。
最後に
この作品は2010年代を代表する一枚として、プログレファンのみならず洋楽ファンや音楽関係者からも高い評価を得ていますが、実は本人たちはバンドの他にもそれぞれ別で仕事を抱えている二足のわらじ状態なんですよね。それが高い音楽性を有しながらもリリースに慎重な活動の原因にもなっています。
アルバム単体でも非常に完成されていて世界観、演奏技術、メロディの美しさ、全体的なボリュームなど非の打ち所がないのですが、これの続編として2012年に『Lover’s End, Pt.III: Skellefteå Serenade』が単発でリリースされています。こちらは24分に渡る大作に仕上がっていますのでエピック面、テクニカル面で満足仕切れない人はさらなる追い込みをかけてみてください。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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