Steven Wilson「The Future Bites」: シーンの未来を見据えて…プログ・ミュージック界のカリスマが送る異色のエレクトロ・ポップ最新作!
by 関口竜太 · 2021-02-21
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はSteven Wilsonの2021年最新作をご紹介します。
The Future Bites / Steven Wilson
Steven Wilson(スティーヴン・ウィルソン)は、イギリスのミュージシャン。
来歴
1987年にTim Bownessと開始したユニットNo-Manや、そこからソロプロジェクトに派生しやがてバンドへと昇華したプログレッシブ・ロックバンドPorcupine Treeのギタリスト。
Pocupine TreeではPink Floyd寄りのアンビエントを持ち合わせたプログレや、よりハードな音楽性の追求を行なっていましたが、2008年からはさらに自身の名義によるソロ活動を開始、バンドとすげ替える形で現在はソロが主流となっています。
音楽プロデューサーとしても敏腕で、Opethの名盤『Blackwater Park』やKscopeレーベルに移籍したAnathemaの心機一転アルバム『We’re Here Because We’re Here』などのプロデュースも担当。またKing CrimsonやYes、Jethro Tullといった往年のバンドの名盤を5.1サラウンドミックスしていることでも知られています。
本作『The Future Bites』は、前作『To the Bone』よりおよそ4年ぶりのリリースとなるソロ5thアルバム。
本来の発売は2020年6月にリリース予定でしたが、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的感染拡大が治らなかったため、プレス工場の安定的な稼働やロックダウンを受けたイギリスでのCDショップの経営などを考慮し2021年1月に延期となりました。
アルバム参加メンバー
- Steven Wilson – Synthesisers/samplers, Guitar, Percussion, Vocal
- David Kosten – Programming
- Elton John – Voice
- Rotem Wilson – Voice
- Nick Beggs – Bass
- Michael Spearman – Drums
- Wendy Harriott, Bobbie Gordon, Crystal Williams – Vocal
- Fyfe Dangerfield – Vocal
楽曲紹介
- Unself
- Self
- King Ghost
- 12 Things I Forgot
- Eminent Sleaze
- Man of the People
- Personal Shopper
- Follower
- Count of Unease
この2年前、すなわち2019年に、スティーヴンは盟友であるティムと一緒にNo-Manの新作『Love You To Bits』をリリースしました。そこで得たポスト・ロックやエレクトロの感触が、本作では顕著に現れています。つまり、それほど本作は異質であるということです。
アルバムのテーマとしては消費者運動(消費主義)、アイデンティティ、そしてテクノロジーといった現代を象徴する内容ですが、『To Be Bone』のようなアコースティックでプログレッシブなサウンドを期待すると戸惑うことでしょう。しかしながら、コロナによる発売延期は、本作の内容を小出しにしてリスナーを「慣れ」させる手法だったと考えれば効果的であったと思っています。
ちなみに今回、ポスト・ロック調のプログラミングを担当したのは、Coldplayなどで多くの実績があるDavid Kosten(Faultline)氏。
さて、冒頭より小曲#1「Unself」からリードナンバー#2「Self」へと繋がっていきます。ダブステップなドラムに、印象的な女性コーラス、ノイジーな役割に徹したギターなど早くもエレクトロ・ポップの様相です。これを聴くと、No-Manを復活させ『Love You To Bits』を出したスティーヴンの嗜好がなんとなく感じ取れると思います。
続く#3「King Ghost」。サウンドに関しては同じく…ではありますが、どことなくメランコリーなヴァースや美しいファルセットのコーラスなど幽玄で澄んだ空気が漂います。
エレクトリカルに進んだ本作において、かなりポップなアンサンブルチューンに仕上がっている#4「12 Things I Forget」。
ストレートな8ビートに爽やかなアコギとピアノ、スティーヴンの柔らかなコーラスが響きます。コーラスの最後にはメジャー7thのアルペジオもあり、シンプルではありますが非常に印象的です。『To Be Bone』収録の「Nowhere Now」や『4 1/2』収録の「Hapiness III」を彷彿とさせる、従来のスティーヴンを感じられると思います。
#5「Eminent Sleaze」は2ndシングルになったことで馴染み深い方も多いのではないでしょうか。アクティブなベースラインとクラップ、リズミカルでダンサブルなコーラスとオーケストレーション、さらに3:20〜登場する荒々しいギターのカッティングなど、雰囲気はR&Bやスタイリッシュなデジタルポップナンバーです。
#6「Man of the People」は立ち込める霧のようなアンビエントのバラード曲。#3のファルセットや#4のアコギなど、本作を象徴するサウンドが複合的に採用されているのもポイントです。
アルバムの公表と同時に配信された1stシングル#7「Personal Shopper」。先ほど、アルバムのテーマに消費主義をあげましたが、まさにこの曲がそこに当てはまります。プログレッシブなサウンドとは縁遠いものの、本作でも中心的存在に当たり、YouTubeに公開された当時と今とで最も印象が変わった曲ではないでしょうか。なお、アルバムでは10分近い大作になっています。
#8「Follower」はそのタイトル通り、SNSやインフルエンサーなどを皮肉った現代的なテーマですね。サウンドもダウンピッキングでギターを弾きたくなるロックなテイストです。もっとも、コーラスやシンセサイザーの具合はあくまで『The Future Bites』であり、ダンサブルな本作のロックアレンジと考えるのが適当でしょう。
ラストナンバー#9「Count of Unease」は、ピアノとシェイカーによるシンプルなアンサンブルのバラード。スティーヴンのボーカルも比較的ドライに仕上がっているため、『Hand. Cannot. Erase』あたりに思いを馳せながらこの最終曲をじっくり味わえると思います。
さて、アナウンスから延期からリリースまで物議を醸しまくっていた本作品ですが、シーンのカリスマ的指導者であるスティーヴンのソロ作品では異色の出来となりました。41分というランニングタイムで聴き通せるポップさに、とりあえずはプログレ云々という思想を捨てていただいて、Peter Gabrielの『So』のような気持ちで聴いていただくのが正解かなと思います。作品としてはコンセプトも含め非常に素晴らしい出来です。
個人的にはNo-Manに始まり、Frost*やLonely Robotでもデジタライズの傾向が見られていましたので今後のプログレッシブ・ロックシーンではもう少し増えるんじゃないかなと思っています。言ってみれば’80年代のリヴァイバル。時代はどこかのタイミングで繰り返すのが常ですが、プログ・ミュージック界のカリスマの先見はどこまで届くのでしょうか。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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