Transatlantic「The Absolute Universe: Forevermore (Extended Version)」: パラレルワールドを感じるもう一つの可能性を……米英欧スーパー・グループによる唯一無二、宇宙横断シンフォニック!
by 関口竜太 · 2021-02-09
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は、前回ご紹介したTransatlanticの2021年作から、2枚組仕様となったExtended Versionをご紹介します。
The Absolute Universe – Forevermore (Extended Version) / Transatlantic
The Absolute Universe: Forevermore (Extended Version)
Transatlantic(トランスアトランティック、以下:TA)は、アメリカ・イギリス・スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド、スーパー・グループ。
『The Absolute Universe: The Breath of Life (Abridged Version)』も併せてご覧ください▼
Transatlantic「The Absolute Universe – The Breath of Life (Abridged version)」: 米英欧スーパー・グループの7年ぶり最新作!バンドの変わらぬ魅力が詰まった、巨大な1 HOUR SONG!!
来歴
Mike Portnoy(Sons of Apollo, ex.Dream Theater)発案の元、新たなバンド・ケミストリーを求めて召集された、現代プログレの実力者4人によるスーパー・グループ。他にNeal Morse(The Neal Morse Band, ex.Spock’s Beard)、Roine Stolt(The Flower Kings)、Pete Trewavas(Marillion)という、名実共に手堅いメンバーで1999年に結成されます。
先人たちに倣った70年代のプログレッシブ・ロック・スタイルに、80年代以降のネオ・プログレッシブ・ロック、プログレッシブ・メタル的サウンドも盛り込み、インターバルにはセッションも挟んだライブ感溢れるパフォーマンスとハイポテンシャルな演奏が特徴的。壮大な楽曲構成の他、ジャム要素もあるため曲はしばしば20分〜30分に達し、3rdアルバム『The Whirlwind』では前人未到の1曲78分という境地に至りました。
2002年に一度、無期限の活動休止を余儀なくされるものの、その後2009年に復活を果たし、現在まで最新作アルバム『The Absolute Universe』を含め計5枚のアルバムをリリースしています。
2019年9月、4人はスウェーデンに集まり、新たなアルバムの解釈やアイディアを練り出し、およそ2週間に渡ってそれぞれのホーム・スタジオでレコーディングを開始します。しかし、この時点ではこれまで通り、単発の曲が連なった「Disc1」だけで十分という認識だったことがポートノイの口から語られています。
Is It Really Happening? 🚀
Morse, Portnoy, Trewavas, Stolt – Varnhem, Sweden – September 24th 2019 pic.twitter.com/pWCvi60Ktt— Transatlantic (@Transatlantic99) September 24, 2019
しかし、普段は別々に活動しているからこそ起こる化学反応があります。
数曲だった世界観は瞬く間に拡がりを見せ、とても1枚には収まりきらなくなります。一度は現状を見直し、収録曲を絞る提案もなされましたが、すでにレコーディングを終えているそれらの曲たちをお蔵入りにすることは決断し難く、この度ダブルアルバムという旅の終着点を見ました。
1タイトルでありながら、2パターンある別バージョンと、それらをひっくるめた3パッケージという消化要素の多い最新作がいよいよリリースです!
アルバム参加メンバー
- Mike Portnoy – Drums, Vocals
- Neal Morse – Keyboard, Guitar, Vocals
- Roine Stolt – Guitar, Vocals
- Pete Trewavas – Bass, Vocals
楽曲紹介 – Forevermore (Extended Version)
- Overture
- Heart Like A Whirlwind★
- Higher Than The Morning
- The Darkness In The Light
- Swing High, Swing Low★
- Bully★
- Rainbow Sky★
- Looking For The Light
- The World We Used To Know★
- The Sun Comes Up Today★
- Love Made A Way (Prelude)
- Owl Howl
- Solitude
- Belong
- Lonesome Rebel★
- Looking For The Light (Reprise)
- The Greatest Story Never Ends
- Love Made A Way
★は『Forevermore』のみ収録のタイトル。
さて、みなさん気になるのは、2CDバージョンであるこの『Forevermore』が、1CD仕様の『The Breath of Life』とどう違ってくるの?というところだと思います。
結論から申しますと、アルバムの流れや基本構造は同じですが、細かなアレンジ、展開、歌詞、ボーカリスト、メロディ……それらが全て違ってきます。
例えばD1-#1「Overture」ですが、バンド・インするまでの導入のインターバルが長くなっていますし、ロイネのギター・ソロもその分伸びています。またD2-#5「Belong」のテーマが差し込まれていたりと、気付きレベルのちょっと違うではなく、明確に有る無しがわかるようになっています。
#2「Heart Like A Whirlwind」は「Reaching For The Sky」に相当するナンバーですが、バッキングは同じなのにニールの歌うメロディや歌詞が序盤からまるまる変更になっています。どちらのバージョンを先行して聴くかにもよりますが、『The Absolute Universe』というアルバムに二つの世界が存在するパラレルな仕様と言えばわかりやすいでしょうか。
#3「Higher Than The Morning」や#4「The Darkness In The Light」など共通した楽曲もここで通過。各曲には次の曲へ繋ぐためのブリッジの役割もあるため、いろんな世界を旅するハイウェイの分岐を右左。比較して聴いてみるのも面白いです。
#5「Swing High, Swing Low」は、『The Breath of Life』では「Take Now My Soul」に当たる楽曲。これは逆に、タイトルは違いますがアレンジ上はほぼ同じです。Genesis系の良質なアコースティック・サウンドとニールの柔らかなボーカルをご堪能ください。
続く#6「Bully」と#7「Rainbow Sky」も『Forevermore』限定ソング。#6はBelongパートにスピード感をもたせたナンバー。シャッフル・ビートに軽快なオルガンが高揚感を刺激します。#7はThe BeatlesやElton Johnを彷彿とさせるピアノのポップ・ソング。こういう肩の力が抜けたナンバーは、プログレというジャンルに意地を張らずにできる彼らならでは解答だと思います。
#8「Looking For The Light」を抜け、Disc1のラストはオンリー・ソング#9「The World We Used To Know」。2分半に及ぶアクティブなイントロから、ロイネの叙情的な歌唱が切なく響きます。ポートノイのメロディアスなドラミングはThe WhoのドラマーKeith Moonを彷彿とさせ、そのスタンドプレイを支えながらも主張を止めないピートのベースもまた印象的です。後半はニールがさらにオーケストレーションと化した壮大なバラードパートを担う、それぞれの分野を1曲にまとめたようなトータル・ソングになっています。
Disc2に入り、オープニングは4人の美しいクアイアとメインテーマが迎えてくれる#1「The Sun Comes Up Today」。もう一度Overtureを繰り返すような雰囲気で、長丁場の後半戦を彩っています。この曲のみに対応したメロディもあったりして、ただの使い回しになっていない点にも注目です。
ここから#2「Love Made A Way (Prelude)」、#3「Owl Howl」、#4「Solitude」、#5「Belong」と『The Breath of Life』でもアルバムのターンアラウンドに位置する楽曲が並びます。注目すべきは7分に伸びた「Owl Howl」。ダーティな雰囲気にリード・シンセ、オルガン、ギターとソロパートが設けられています。曲の並びは同じなのにブリッジをそれぞれ微妙に変えている点が聴いていても楽しいです。
#6「Lonesome Rebel」は『Forevermore』オンリーのアコースティック・バラード。穏やかに歌うロイネのボーカルをして、楽曲からはThe Flower Kingsの香りが漂います。この2CDバージョン自体、かなりロイネの嗜好が現れているのを感じられると思います。
そして佳境となるインスト&ハイライトパートの#7「Looking For The Light (Reprise)」と#8「The Greatest Story Never Ends」。後者は1CD版では怒涛のハイテンポ・ユニゾンを披露していましたが、この2CD版ではニールお得意のマドリガーレ・コーラス(対位法コーラス)に変わっています。分岐が切り替わる地点は1:20ほどのところですが、どちらもかっこいいだけに両立されていないジレンマがあります。ぜひ聴き比べてほしいところです。
共通のラストとなる#9「Love Made A Way」。これも『Breath of Life』と違いピアノでしっとりと曲を始めている点をさっそくチェック。ヴァースのメロディにも違いが見られますが、様々なバックグラウンドをもつニールならではのバリエーションの広さです。多作な彼の曲への発想を少し垣間見れた気がします。
今回のアルバムの詳細を知った時、初めはMr.Childrenの『REFLECTION』のような仕様なのかなと予想していました。あれは「{Naked}」と呼ばれる23曲を収録したバージョンと、そこから厳選した14曲との2バージョンによるものでした。確かに近い発想なのかもしれませんが、Transatlanticの本作品は、ほぼ全ての曲がバージョンごと差し変わっている点において別次元です。
そして、始めは『Breath of Life』で聴けるいつものTransatlanticが好きでしたが、この『Forevermore』も実に捨てがたい壮大でコンセプチュアルな出来に仕上がっていると思います。あなたがどちらを聴くか選ぶと同じように、この2バージョンのアルバムもあなたの好みを選びたがっています。時にゆったりと航海をするような気分で、時に耳に全神経を集中させて楽しんでいただければと思います!
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タグ: シンフォニック・ロックスーパーグループネオプログレ米プログレ英プログレMike PortnoyNeal MorsePete TrewavasRoine StoltTransatlantic北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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