Transatlantic「The Absolute Universe: The Breath of Life (Abridged version)」: 米英欧スーパー・グループの7年ぶり最新作!バンドの変わらぬ魅力が詰まった、巨大な1 HOUR SONG!!
by 関口竜太 · 2021-02-07
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はTransatlanticの2021年最新作をご紹介します。
The Absolute Universe: The Breath of Life (Abridged version) / Transatlantic
ジ・アブソルート・ユニヴァース〜生命の息吹(アブリッジド・ヴァージョン)
Transatlantic(トランスアトランティック、以下:TA)は、アメリカ・イギリス・スウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド、スーパー・グループ。
来歴
Mike Portnoy(Sons of Apollo, ex.Dream Theater)発案の元、新たなバンド・ケミストリーを求めて召集された、現代プログレの実力者4人によるスーパー・グループ。他にNeal Morse(The Neal Morse Band, ex.Spock’s Beard)、Roine Stolt(The Flower Kings)、Pete Trewavas(Marillion)という、名実共に手堅いメンバーで1999年に結成されます。
先人たちに倣った70年代のプログレッシブ・ロック・スタイルに、80年代以降のネオ・プログレッシブ・ロック、プログレッシブ・メタル的サウンドも盛り込み、インターバルにはセッションも挟んだライブ感溢れるパフォーマンスとハイポテンシャルな演奏が特徴的。壮大な楽曲構成の他、ジャム要素もあるため曲はしばしば20分〜30分に達し、3rdアルバム『The Whirlwind』では前人未到の1曲78分という境地に至りました。
2002年に一度、無期限の活動休止を余儀なくされるものの、その後2009年に復活を果たし、現在まで最新作アルバム『The Absolute Universe』を含め計5枚のアルバムをリリースしています。
2019年9月、4人はスウェーデンに集まり、新たなアルバムの解釈やアイディアを練り出し、およそ2週間に渡ってそれぞれのホーム・スタジオでレコーディングを開始します。しかし、この時点ではこれまで通り、単発の曲が連なった「Disc1」だけで十分という認識だったことがポートノイの口から語られています。
Is It Really Happening? 🚀
Morse, Portnoy, Trewavas, Stolt – Varnhem, Sweden – September 24th 2019 pic.twitter.com/pWCvi60Ktt— Transatlantic (@Transatlantic99) September 24, 2019
しかし、普段は別々に活動しているからこそ起こる化学反応があります。
数曲だった世界観は瞬く間に拡がりを見せ、とても1枚には収まりきらなくなります。一度は現状を見直し、収録曲を絞る提案もなされましたが、すでにレコーディングを終えているそれらの曲たちをお蔵入りにすることは決断し難く、この度ダブルアルバムという旅の終着点を見ました。
1タイトルでありながら、2パターンある別バージョンと、それらをひっくるめた3パッケージという消化要素の多い最新作がいよいよリリースです!
どのヴァージョンを買ったらいい?
この特殊なアルバムにぶち当たった際、多くのファンが思う共通の疑問。
それは、「それで結局どのバージョンを買うのが正解なのよ」ということです。
- 2枚組90分という長丁場をフル収録した『The Absolute Universe: Forevermore(Extended Version)』。
- 1枚60分に収めた『The Absolute Universe: The Breath of Life(Abridged Version)』。これらは単に大は小を兼ねる的な内容ではなく、この「Forevermore」のパッケージにしか収録されていない楽曲もあるらしいです。
- そして『The Absolute Universe: The Ultimate Edition』はこの2バージョン両方を収め、5LP、3CDとビジュアルポスター、さらに.5chサラウンドミックスによるBlu-rayを含んだ、所謂全乗せセット。
2枚組の「Forevermore」がコンプリート盤みたいに思えるかもしれませんが、作品のベースとしては「The Breath Of Life」が先発だと思います。ここにいつものTAが十二分詰まっていますので、まずはこちらを聴いた方がいいでしょう。
それで、お腹いっぱいになれば幸せだし、物足りなければ「Forevermore」でおかわりができる、そういう贅沢な仕様となっております。
アルバム参加メンバー
- Mike Portnoy – Drums, Vocals
- Neal Morse – Keyboard, Guitar, Vocals
- Roine Stolt – Guitar, Vocals
- Pete Trewavas – Bass, Vocals
楽曲紹介 – The Breath of Life (Abridged version)
- Overture
- Reaching For The Sky
- Higher Than The Morning
- The Darkness In The Light
- Take Now My Soul
- Looking For The Light
- Love Made A Way (Prelude)
- Owl Howl
- Solitude
- Belong
- Can You Feel It
- Looking For The Light (Reprise)
- The Greatest Story Never Ends
- Love Made A Way
※この記事では「The Breath of Life」についてご紹介しますが、別で「Forevermore」についても書きますのでそちらもお楽しみに!
では早速アルバムの紹介に移っていきます。
オープニングナンバー#1「Overture」とリードトラック#2「Reaching For The Sky」はいつも通りのニール節が炸裂!ここまでTA聴いて来られた方には安定の序曲となります。
大きなテーマ、ポリリズム的オスティナート、ロイネのメロウなソロ、Yesばりのオルガンサウンドを堪能できる4分ばかりの「Overture」を抜けると、ニールを先導に過去の「Whirlwind」、「Ride the Lightning」、「All of the Above」を彷彿とさせるポップなボーカルパートへと入っていきます。サビでは4人のメンバー全員によるコーラスパートも存在し、歌詞には「whirlwind」の言葉も出てくるニクい仕様です。
マイクとピートのフィル・インから間髪入れず導入する#2「Higher Than The Morning」。裏で鳴るオルガンやロイネのオブリもクールで、ゆったりとしたリズムにサビでは広がりのあるコーラスを堪能できます。
#3「The Darkness In The Light」は、宇宙的なSEがキラキラと舞うフリーキーな一曲。ロイネが担当したとされる特有の雰囲気が醸し出されています。転調するヴァースや字余り的な歌がここちよい緊張感を生み、コーラスの最後はセッションなどでスタンダード曲に選ばれそうなロック・ナンバーです。
煌びやかなアコースティック・ギターに導かれて#4「Take Now My Soul」で良質なボーカルを堪能。後半はギター・ソロですが、裏で鳴っているリフはニールがよく作る3音区切りのパターンですね。中盤に差し掛かり、続く#5「Looking For The Light」はTAでもヘヴィ・ソングに位置するナンバー。
Emerson, Lake & Palmerの「The Gnome」を思わせるブーミーなシンセ・ベースに、ポートノイのシブいボーカルが特徴です。ハードな印象のヴァースに比べ、サビは緊張感を解放させた繋がりになっています。なお、MVでは2:53よりインストパートとなっていますが、これは後述する#12「Looking For The Light (Reprise)」に相当します。
#7「Love Made A Way (Prelude)」は逆に、大団円へと繋がるテーマの序章。鍵盤ハーモニカ風のノスタルジーなイントロに、アコースティック・ギターで歌う小曲です。
リヴァースからアグレッシブなリフへと展開する#8「Owl Howl」。The Flower Kingsに相当する怪しげでヘヴィな一曲で、インターバルでは初期のTAを思わせるジャム的なニュアンスもありますね。続く#9「Solitude」はピートがメインボーカルを担当するナンバー。穏やかな曲の雰囲気に、サビではニールがアルバムのメインメロディを歌う重要な一曲となっています。
#10「Belong」は冒頭からミニオンのような、宇宙人のような、謎の言語が聞こえてきます。曲自体は短くフックの効いたコーラスが伏線的に仕掛けられています。
アコギとタム回し、レンジの広いエレキの白玉コードが無条件に心地よい#11「Can You Feel It」。このポップさはFlying Colorsのようですね。6/8でゆったりと歌われる平和な一曲ですが、ここから終盤に向け一気に加速していきます。
そして#12「Looking For The Light (Reprise)」。大振りの一発にシーケンスから始まるお馴染みの展開です。トレブリーにチューンされたトレワヴァスのベース、ニールが得意とするオルガンソロ、強めのピッキングでヘヴィな音色もリードサウンドもいけるロイネのギター、そしてこのメンバーだから聴ける怒涛のプログレッション。あのTAが帰ってきた!と思わず叫びたくなる必聴の一曲です。
少しばかりのボーカルを挟みながら、さらに続く#13「The Greatest Story Never Ends」。テンポアップしていく3連のリズムに、過去の「Is It Really Happening?」を想起させてくれるハイライトです。
そして壮大なメイン・テーマとなる#14「Love Made A Way」で大団円。いつも通りな展開ではありますが、こうすることで巨大なエピックが一つにまとまる、重要なノウハウだと思います。スリリングなインストパートからシンフォニック・バラードに繋げることで旅の終わりを強烈に意識することができます。ラスト・ナンバーであるこの曲のテーマはズバリ「愛」についてであり、世界的パンデミックによる混沌を包み込むニールならではの優しいエンディングとなっています。
TAというバンドはプログレッシブ・ロックの王道とされる位置付けであり、かつ現代プログレの代表格でもあるわけですが、その辺りを引っくるめて「これがトランスアトランティックの王道」と言える作品に仕上がっています。
夢のような結成からすでに20年余りが経過していますが、1stアルバムから変わらない姿勢と確立されたスタイルに、最新作から入っても何一つ取り残されない、安定感のある一枚に仕上がっています!
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タグ: スーパーグループネオプログレ米プログレ英プログレMike PortnoyNeal MorsePete TrewavasRoine StoltTransatlantic北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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