Vanden Plas「The Ghost Xperiment – Illumination」: 超常現象をテーマにした壮大なシリーズが完結!ドイツ産大御所プログレメタルバンドの2020年最新作!
by 関口竜太 · 2021-01-06
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は前回に引き続きVanden Plasのアルバムから2020年作をご紹介します。
The Ghost Xperiment – Illumination / Vanden Plas
Ghost Xperiment – Illumination
Vanden Plas(ヴァンデン・プラス)はドイツのプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
ドイツの西に位置するカイザースラウテルンを拠点に、1986年から活動するベテランのメタルバンド。
ボーカルのAndy Kuntzを始めギターStephan Lill、キーボードGünter Werno、ベースTorsten Reichert、ドラムAndreas Lillという5人はいずれもロックミュージカルとして名高い「Jesus Christ Superstar」や「Evita」などの舞台に携わった経験のある実力派ぞろいです。そして結成から現在にいたるまでメンバーチェンジを行なっていない、昨今珍しい安定感を見せています。
音楽性はDream TheaterやFates Warningなど、言わば王道志向のプログレッシブ・メタル。表現力豊かなアンディのボーカルに、テクニカルなギターとキーボードの掛け合い、極端な長尺曲は設けず洗練させながら、時に古き良きアプローチも取り入れていくハイブリッドなスタイルで話題を呼んでいます。
バンドは1994年にデビューアルバム『Colour Temple』をリリース。「Jesus Christ Superstar」にも携わっていると先述しましたが、このアルバムは曲のテーマも新約聖書に基づいたクリスチャン的世界観が特徴の作品になりました。
その後、一定のスパンでコンスタントにアルバムをリリースしていく中で、2014年、2015年には2部構成となるシリーズアルバム『Chronicles of the Immortals』に着手。ヨーロッパ特有のメタルサウンドとファンタジックで壮大な世界観のダブルアルバムとなりました。
2019年、超常現象に関する実験を題材にした2タイトルのコンセプト作へバンド歩みを進めます。その第一弾が『The Ghost Xperiment – Awakening』。ギデオン・グレイスという主人公を立て、彼がフランスを旅する中で「雨の家(House of Rain)」という謎の影との戦いを描きます。
海外ドラマの「Supernatural」的なミステリアス・ホラーを想定させますが、その前作では決着に至らず本作『The Ghost Xperiment – Illumination』へと続いていくこととなります。
アルバム参加メンバー
- Andy Kuntz – Vocal
- Stephan Lill – Guitar
- Günter Werno – Keyboard
- Andreas Lill – Drums
- Torsten Reichert – Bass
その他参加ミュージシャン
- Alea der Bescheidene (Saltatio Mortis) – Vocal on #8
- Ulli Perhonen – Vocal on #3,7
- Oliver Hartmann – Backing vocal
- Herbie Langhan- Backing vocal
楽曲紹介
- When The World Is Falling Down
- Under The Horizon
- Black Waltz Death
- The Lonely Psychogon
- Fatal Arcadia
- The Ouroboros
- Ghost Engineers
- Krieg kennt keine Sieger feat. Alea/Saltatio Mortis (Bonus Track)
荘厳なオーケストレーションから開幕する後半のオープニング#1「When The World Is Falling Down」。ヘヴィなビートにファンタジックな音色のシンセサイザー、ハーモナイズギターなど前作にも増してパワフルな予感をさせます。
2:42〜はインストパート。同系統のプログレメタルバンドにしては相変わらず無駄のないシンプルな構築ですが、御用達であるキーチェインのリフからスムーズなギターソロへの転換、サビへ向かうメロディアスなユニゾンセクションなど、バンドの特色を遺憾無く発揮しています。
先行シングルとなった#2「Under The Horizon」。物悲しいピアノとボーカル・アンディとの沁みる独唱が印象的な導入です。バンドインしてからのリフは前作の「Three Ghosts」の風味も感じさせるメタリックなブレイク。サビでは分厚いコーラスでメロディアスに聴かせながら変拍子も仕込むなど、思考停止なメタルになっていないのもポイントです。
#3「Black Waltz Death」はアコースティックギターとアナログなストリングスの音色をメタルサウンドで包んだバラードナンバー。90年代ごろのプログレメタルがそのまま残っている雰囲気はこの時代を好む全ての人にハマりそうです。続く#4「The Lonely Psychogon」はこちらもスローテンポながら、8分の中にドラマティックな展開と各パートの見せ場を配置したメタルナンバー。5:34ごろに飛び出すベースのブレイクがクールです。
#5「Fatal Arcadia」はアルバムの中でもVanden Plasというバンドを理解できるナンバーの一つだと思います。ヘヴィなリフにシンセサイザーが絡むイントロはCircus Maximus風、ヴァースでは緊張感溢れる+5thコードとマシンガンリフとのギャップ、ストーリーを感じさせる緩急ある曲展開などはプログレッシブ・メタルのアイコンと呼べるものです。
そして13分の大作となった#6「The Ouroboros」。オープニングではアコースティックギターとピアノによる切ない旋律に、アンディの悲しげな歌唱が語りのように響きます。3分以降、バンドインしたヴァースでは若干掴みに欠けるものの、そこから訪れる強烈な転調とサビにそれまでの浮遊感は重力を帯びたようにグイッと引き寄せられてしまいます。6:30でのブレイクから後半はヘヴィなリフを展開していくインストパート。叙情的なドラマ性とカタルシスを兼ね備えたシンフォニック・メタルです。
本編ラストとなる#7「Ghost Engineers」はピアノとストリングスにより紡がれるバラードソング。ボーナストラックに収録された#8「Krieg kennt keine」ではゲストにドイツのメタルバンドSaltatio MortisのボーカルAlea der Bescheideneを迎えて本編に引けを取らないパワフルなメタルナンバーを披露しています。
前作『Awakening』はアルバムを通して46分とコンパクトなものでした。シリーズでの前後編と言えど、本作ではファンをこの上なくがっちり掴む61分のボリューム感と確実にパワーアップしているベテランの説得力を堪能できます。これは聴いた人のみが得られるXperimentとなるでしょう。
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タグ: プログレッシブ・メタル独プログレVanden Plas
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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