Genesis「Selling England By the Pound」: シンフォニック&プログレの名盤!同ジャンルの典型スタイルに貢献した歴史的5thアルバム。

こんにちは、ギタリストの関口です。

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過去に紹介した作品の密度を高くしてお届けするアーカイブ&再編集の第7弾。本日はGenesisの5thアルバムをご紹介します。

Selling England By the Pound / Genesis


月影の騎士(紙ジャケット仕様)

Genesis(ジェネシス)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。

来歴


1967年、イングランド南東部のパブリックスクールで知り合ったPeter Gabriel、Anthony Phillips、Tony Banks、Mike Rutherford、Chris Stewartの5人によって結成されたのがGenesisの始まり。

ミュージシャンであるJonathan Kingプロデュースの元、1969年にバンドタイトル『Genesis』でデビューを飾ります。しかし当時、アメリカに同名のバンドがいたためジャケットにバンド名をクレジットしなかったり、ジョナサンに気に入られようとソフトロックな音楽性を表に出していたため評価は良くありませんでした。

このことを反省し1970年にリリースした『Trespass』以降はいわゆるプログレッシブ・ロック、アートロックの志向へと変化していきます。そしてこのアルバム発表後にアンソニーと臨時のドラムJohn Mayhewがバンド抜け、代わりにギタリストSteve HackettとドラマーPhil Collinsの二人が加入します。

この辺りのGenesisはトラッドフォーク気味のサウンドスケープで、これは脱退したアンソニーの資質によるところが大きかったのですが、新たに加わったスティーブとコリンズの二人がバンドに変革をもたらすべく、これから迎えるプログレッシブ・ロック全盛期のGenesis伝説を飾る最後のピースとなります。

3rdアルバム『Nursery Cryme』、4thアルバム『Foxtrot』と時代の追い風も受けながら相次いで後の名作をリリース。シアトリカルな楽曲、ピーターのボーカルとステージパフォーマンスも相まってイギリスは元よりイタリアで人気を博します。

本作『Selling England By the Pound』は1973年に発表された5thアルバムで、バンドのプログレッシブ・ロック期においては母国イギリスで最も高いチャートに位置した作品です。邦題の「月影の騎士」は、1曲目である「Dancing With the Moonlit Knight」の邦題を引用したもの。本来のアルバムタイトルを訳すると「イングランドを量り売り」という意味合いになり、これは当時のイギリスの労働党のスローガンから引用されています。

アルバム参加メンバー


  • Peter Gabriel – Vocal
  • Tony Banks – Keyboard
  • Mike Rutherford – Bass
  • Steve Hackett – Guitar
  • Phil Collins – Drums

楽曲紹介


  1. Dancing With the Moonlit
  2. I Know What I Like
  3. Firth of Fifth
  4. More Fool Me
  5. The Battle of Epping Forest
  6. After the Ordeal
  7. The Cinema Show
  8. Aisle of Plenty

収録曲は全8曲。極端な大作こそないものの、10分前後の長尺4曲を奇数トラックに配置して、それらを繋ぐように偶数トラックにはコンパクトな楽曲が並びます。

#1「Dancing With the Moonlit」はピーターのアカペラに続くアコースティックなアンサンブルから、ヘヴィに加速していくハードックな一面も持ち合わせたナンバー。2分半に及ぶ歌の世界に酔いしれ、テクニカルかつポップなギターソロ。その後随所にボーカルパートを挟みながらもドラマティックに展開、フリーキーなキメや5:30を過ぎた頃のスリリングなオルガンなど、アレンジ、サウンド面でも典型的なプログレッシブ・ロックを感じられます。

シングルとしてヒットしたシンプルなロックナンバー#2「I Know What I Like (In Your Wardrobe)」。うねうねとしたシンセサイザーの導入から自由なパーカッションのイントロ。実にUKらしいポップなメロディラインとこの頃の流行を象徴するようなサビの分厚いコーラスも特徴的です。

続いて#3「Firth of Fifth」。イントロはトニーによるクラシカルなピアノのライン。後にこのスタイルはNeal Morseなどに影響を与えていくのですが、曲全体を通してもトニーのキーボードが色濃く現れたナンバーになっています。9分半という長さの中で何度かの浮き沈みを繰り返しながら徐々に盛り上げていく、これもボレロを代表とするクラシックの流れですが、特にアウトロでのハケットのエモーショナルなギターには注目です。

#4「More Fool Me」はトラッド・フォークなアコースティックナンバー。シンプルな構成と編成、美しいメロディにピーターのボーカルを全面に活かしたコーラス曲となっています。

11分を超える長尺曲#5「The Battle of Epping Forest」。スネアとギターの軍隊的行進のリズムとフルートとのイントロが1分ほど続くと、切り替えるように楽曲本編へ。変拍子にシンコペーションも混ぜた複雑なリズムパターンのヴァースを難なく歌いこなすピーターと、その上で付点4分のアクセントを提示するトニーのオルガンなどバンドアンサンブルに特化したナンバー。

#6「After the Ordeal」はピアノとアコースティックを中心に哀愁のあるバラードなインストナンバー。重くなりすぎないピアノのサウンドは後のAORにも影響を与えそうな当時でいう現代流。前の展開を拾いながら少しずつ深掘りしていく展開も特徴的で、タイトル通りテクニカルな曲が続いたあとの束の間の休息です。

#7「The Cinema Show」はこれも10分を超えるナンバー。ブリティッシュロックらしい優雅で気品溢れるサウンドはこれまで通り、グロッケンにも似た12弦ギターのきめ細やかなアルペジオ、クラシックを流派に持つリードギターのアプローチや叙情的なフルートが香り立つインターバルなど本格的なシンフォニーを聴いているような贅沢さがあります。前半ではハケットのギターが活躍する展開、5:50〜の後半ではトニーのキーボードが楽曲を引っ張るインストパートを聴くことができます。ここで聴けるバンドアンサンブルから影響を受けた結果が、後のMarillion、Neal Morse、Blue Manmmothなどで言われる「ジェネシスライク」なサウンドになっていきます。

#7からクロスフェードするようにして始まるラストナンバー#8「Aisle of Plenty」は#1のテーマをベースに、アコースティックギターと甲高い管楽器、メロトロンなどを駆使した2分ほどの小曲です。

いずれも捨て曲なしの良曲揃いで、アルバム全体を通して言えることですが非常にイギリスらしい気品に溢れます。Tony Banksのピアノがとにかく秀逸で12弦ギターとの絡み、ライトな音楽性に上乗せした重厚なコーラスとのギャップが切なくたまりません。現代のDream Theater、Neal Morseなどプログレッシブ・ロックの定番をまた一つ突き詰めた作品です。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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