The Flower Kings「Islands」: 「これからのプログレロックはこうなる」を早くも体現化!一年ぶり、北欧ネオプログレのベテランバンドによるリモート作品ついにリリース!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はThe Flower Kingsの2020年最新作をご紹介します。

Islands / The Flower Kings


Islands -Digi/Ltd-

The Flower Kings(ザ・フラワー・キングス)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。

来歴


元KaipaのギタリストRoine Stoltが自身のソロから派生させ、1995年より正式にバンドとして牽引するネオプログレッシブ・ロックバンド。

この5年、TFKの動向を見守っていると、まず長らくバンドを支えてきたキーボーディストのTomas Bodin、そしてドラマーFelix Lehrmannが相次いでバンドを脱退。新メンバーが加わるまでの空白時間にメンバーそれぞれソロアルバムや別プロジェクトの活動が目立ちました。

ロイネで言えば、2016年にはYesのJohn Andersonと共作で『Invention of Knowledge』を、2018年にはダークでゴシックなサウンドを追求したThe Sea Withinなど外部プロジェクトも相変わらずの勢力ぶりで進めた一方、自由なメンバー編成で柔軟さを示したRoine Stolt’s The Flower Kings名義での『Manifetsto of an Alchemist』をリリースしたのも記憶に新しいです。

そして2019年にリリースのアルバム『Waiting for Miracles』。

新メンバーとしてキーボードにはZach Kamins、ドラムにはMirkko DeMaioが加入し2013年の『Desolution Rose』から数えれば実に6年ぶりとなるTFK待望の新譜となったわけです。

ここでは2枚組のアルバムの中で不安定な世界情勢を歌い、重いテーマとは裏腹にR&Bやフュージョン、ブルージィなオリエンタルサウンドを展開。もちろんGenesisやYesなど70年代の王道プログレも踏襲した作品となりました。

年明け1月には日本への凱旋公演も行い、若干のフラキンロスを感じながらも一通りベテランの空気を堪能できたので気持ちを切り替えていこうと思った矢先、状況は変わります。

2020年2月、中国武漢からの新型コロナウイルスが日本に上陸。時をほぼ同じくしてこのウイルスは瞬く間に世界中に広がり、2020年はまさにコロナ一色、世界中が混乱と恐慌に晒されました。

日本よりも状況が酷いとされるヨーロッパでも例外ではなく、ことスウェーデンではロックダウンこそなかったものの外出の自粛やソーシャルディスタンスで同じ空間に複数人が長く滞在できないというバンド活動には致命的とも言える状況に陥ります。

しかしながら、ロイネこそスウェーデン在住ですが他のメンバーはそれぞれアメリカ、イタリア、オーストリアに居住しておりTFKは今やマルチナショナルバンドとなっていました。

そして所謂「ネットの魔法」を使ってリモートでアルバム制作を開始。ライブコンサートの中止、自宅にいる時間が増えたという状況が返って彼らの創作意欲を刺激しました。

本作『Islands』はそんな世界的逆境の中から生まれた一年ぶりの最新作。ジャケットにはYesやAsiaで知らぬ者はいないあのRoger Deanがデザインを担当し人の孤独をテーマに歌った全21曲の大作コンセプトアルバムとなりました。

アルバム参加メンバー


  • Roine Stolt – Vocal, Ukulele, Guitar, Keyboard
  • Hasse Fröberg – Vocal, Acoustic Guitar
  • Jonas Reingold – Bass, Acoustic Guitar
  • Zach Kamins – Piano, Organ, Synthesizer, Mellotron, Orchestration
  • Mirko DeMaio – Drums, Percussion

ゲストミュージシャン

  • Rob Townsend – Soprano Saxophone

楽曲紹介


Disc1

  1. Racing With Blinders On
  2. From The Ground
  3. Black Swan
  4. Morning News
  5. Broken
  6. Goodbye Outrage
  7. Journeyman
  8. Tangerine
  9. Solaris
  10. Heart Of The Valley
  11. Man In A Two Peace Suit

Disc2

  1. All I Need Is Love
  2. A New Species
  3. Northern Lights
  4. Hidden Angles
  5. Serpentine
  6. Looking For Answers
  7. Telescope
  8. Fool’s Gold
  9. Between Hope & Fear
  10. Islands

リモートによるアルバム制作はスウェーデン、アメリカ、イタリア、オーストリアの4ヶ国を渡って行われましたが、その影響か、それぞれの曲は比較的コンパクトに収められています。

そして個々に曲を聴くこともできれば通してコンセプト作として楽しむこともできる、これは非常に新しいポイントです。

Disc1

オープニングナンバー#1「Racing With Blinders On」は、かのGenesis「Watcher of the Skies」を彷彿とさせる一曲。TFK特有のライトでキャッチーなメロディと若干フュージョンも感じられるブラス系のリードサウンドも王道の風味たっぷりです。

#1から続く#2「From The Ground」は7拍子を基調に穏やかに歌うロイネとフォークな楽器の数々、TFKならではの独特な粘りのあるメロディが特徴のナンバー。Moon Safariのような爽やかさやロイネの所属するTransatlanticの風も感じる由緒正しいプログレソングとなっています。

#3「Black Swan」は過去の『Banks of Eden』を呼び起こさせる楽曲。ザックのピアノとギターが独特のテンション感を醸すシニカルなナンバーです。

#4「Morning News」はポップなメロディにロイネの優しい歌声が魅力的な、Paul McCartneyスタイルのアコースティックナンバー。本作において極めて重要な意味を持つ、世界の人が平等に朝を迎えるための一曲です。

MVではニューヨーク、ロンドン、リオデジャネイロ、渋谷、香港……など世界中の都市の「朝の瞬間」が切り出され、人々の営みが早送りで見られます。今回の新作は特にコロナ情勢から見た平和がテーマとなっているので、こうした人の素晴らしさみたいな映像は泣けてしまいますね。個人的には歌詞に「drivin’」とあるように深夜ドライブしながら流したい一曲です。

先行シングルの第一弾として発表されたのがこの#5「Broken」。古典的かつ王道なプログレナンバーで、GenesisNeal Morseを思わせる大きなテーマとアコースティックな爽やかさがこれまで以上の安心感を与えてくれます。非常にYes的で緊張感の高いロングインストパートに4:10~はTFKらしいファンタジックな展開もあったりして実にヨーロッパ的。

ファンタジックなシンフォニーが奏でる小曲#6「Goodbye Outrage」とジャズロック的なインターバル#7「Journeyman」を経由し、#8「Tangerine」はファンキッシュなヨナスのベースラインが特徴のポップナンバー。このヨナスが参加している、Andy Tilison率いるTangentの新譜も今年リリースされましたがまさにその流れを思わせる一曲ですね。

唯一9分を超える長尺となった#9「Solaris」。映画音楽のようなシンフォニックなイントロはザックによるアレンジの賜物ですが、Tomas Bodinの穴をものとも感じさせない新しい息吹になっています。楽曲はシンセサイザーやオルガンの細やかなアプローチを軸にしたゆったりとした展開と、4:10〜のディシプリン期King Crimsonを彷彿とさせるフリーキーな側面も持ち合わせたナンバーになっています。

バラードでありながらYesへのリスペクトを感じさせる#10「Heart Of The Valley」、そして本作のテーマに切り込みを入れるインストナンバー#11「Man In A Two Peace Suit」でDisc1を締めくくります。#11ではロイネのトレードマークであるワウソロも聴けて、ここまででも綺麗な一作品としてまとまっています。

Disc2

さて、気を取り直してDisc2のオープニング曲#1「All I Need Is Love」はセカンドボーカルHasse Fröbergがメインパートを務めるストレートなロックナンバー。随所に挟まれたシンコペーションに導かれるメロディアスな歌メロ、ハーモナイズギターやシンセリードの絡みなど気持ちのいい要素盛り盛りの一曲です。

#2「A New Species」はEmerson, Lake & Palmerのごときオルガンサウンドやジャズから派生したインストナンバー。#3「Northern Lights」は所謂“The Flower Kingsのアイコン”で、色々なバンドの影響が垣間見られる本作でも彼らの個性ってこういう曲だよと提示できる一曲ですね。

短くも劇的な展開を含んだインターバル#4「Hidden Angles」。そして続く#5「Serpentine」。ここではサックスにゲストとしてRob Townsendが参加し、イントロからムードたっぷりに楽曲を彩ってくれます。ボーカルとシロフォンとがユニゾンするコミカルなヴァースも非常に新鮮です。

大聖堂にあるような荘厳なパイプオルガンのサウンドが特徴の#6「Looking For Answers」。やはりザックの仕事となるこの曲はギターも哀愁漂う歌謡的ナンバー。聴いているこちらが思わず神聖な気分になってしまう一曲ですね。

2020年は自分も“その立場”に身を置きながら皆が等しく世界を見つめる年になりました。#7「Telescope」はそんな全員が「望遠鏡」で外の世界を眺めるような気持ちを歌ったナンバー。穏やかに語るボーカルと宇宙的なギターソロが聴きどころです。

#8「Fool’s Gold」はクラビネットのシーケンスが焦燥感を煽るロックナンバー。#7同様、ロイネのエモーショナルなギターソロ、そしてボーカルスタイルにも注目です。

#9「Between Hope & Fear」は一見穏やかなピアノポップに、未だ危険にさらされる身を歌ったナンバー。歌詞を追わなければ牧歌的なボーカルにアップライトピアノの軽快なバッキングが響くライトソングになっています。

そしてラストはタイトル曲#10「Islands」。Disc1同様インストとなっているのですが「A Man In〜」に比べよりシンフォニックに、そして古めかしいメロトロンサウンドとスライドギターが懐かしさを呼び起こします。今回ミックスの上では控えめだったマルコのドラムですが、随所で多めの手数も聴けそこに注目すると今一度楽しめるようになっています。

9月に開催されたオンライン座談会に私はゲストで参加したのですが、そこで「これからは往年のプログレを象徴させる長尺曲は減る」と明言しました。コメントには「長い曲が全てじゃないだろ」と言ったような声もありましたが、現状TFKのニューアルバムは非常にコンパクトな曲が並ぶ結果となりました。

確かに長尺曲がプログレの全てではありませんが、私個人の趣向として好きでもあるし、やはりこのジャンルを語る上でのファクターとしてそれは存在し続けてほしいと思うわけです。しかしながら、今回の新譜を聴いて「長い曲が全てじゃない」、その意味を少し感じ取れた気がします。

コンパクトながらアプローチを増して曲の濃度を凝縮させる手法は今後のプログレッシブ・ロックの新たな活路になるかもしれません。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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