Fish「Weltschmerz」: 80年代プログレを支えた重鎮ボーカリスト。その大団円を飾るラストアルバム!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日は初代Marillionのボーカルとして知られるFishの2020年作にしてラストアルバムをご紹介します。

Weltschmerz / Fish


Weltschmerz

Fish(フィッシュ)はイギリスのミュージシャン、ボーカリスト。

来歴


本名Derek William Dickは1958年、イギリススコットランドに誕生します。

デレクは子供時代をThe Beatlesですごすと、13歳の多感な時期に入るころには時代を席巻するプログレッシブ・ロックの虜になっていました。Yes、EL&P、Pink Floydなどの今でいうレジェンドバンドをテレビや雑誌を通じて見ているうちに、デレクは自分でもバンドを組んでみたいと思うようになります。

しかし楽器ができない彼にとってそれはハードルが高く、悩んだ末デレクはボーカルとしての道へ進むことになります。

Fishというアーティスト名ですが元々は彼のあだ名で、学生時代、2mもある身長ゆえの長風呂にルームメイトから「魚野郎」と呼ばれたことに由来するそうです。しかしその巨体ながらお風呂では水に浮かべるおもちゃのアヒルがお気に入りだったという余談も。

そんなデレクでしたが高校を卒業すると進学せず、建築会社に就職。勉強は嫌いでしたが課外活動やアクティブな活動は好きという性格を活かし、1979年にドイツの赴任から帰国すると本格的にミュージシャンとして活動することを誓い、名前をFishへと改名しました。

ある日のライブの後、偶然にもGenesisのPeter Gabrielに出会います。そこで彼が思っていたより普通の人物だということに気付かされます。このことにボーカリストとしての自信を付けたフィッシュはオーディションにも積極的に参加するようになり、その過程でBlewittというバンドに出会います。

Blewittの音楽性はフィッシュには合いませんでしたが、ここでの経験もまた彼のパフォーマンスへ活きていくことになります。その後バンドのギタリストであったFrank Usherから「もっとお前に合うバンドを探せ」と背中を押されたことで向かった単身ロンドンでMarillionに出会うこととなります。

1981年Marillionに加入。

加入当初は所謂ネオプログレッシブ・ロック勃興の時代で、デビュー当時はMarillionも「あれはGenesisのコピーだ」と揶揄されることとなります。

しかし1983年にリリースした1stアルバム『Script For A Jester’s Tear』がイギリスやヨーロッパを中心に高い評価を得ると、3rdアルバム『Misplaced Childhood』では全英1位を獲得。フィッシュはその後1987年リリースの『Clutching At Straws』までバンドのヒットに貢献すると、翌1988年にバンドを脱退します。

バンドを脱退して以降はソロ活動へと舵を切るわけですが、現在までに11枚のアルバムをリリース。

音楽性も含めGenesisっぽさもある彼の歌声は今日まで高く評価され続け、本作『Weltschmerz』にて40年以上に渡るそのキャリアにピリオドを打つことになります。

なお、比較的日本びいきなところがあり、ライブアルバムに『Sushi』や『Sashimi』といった魚にまつわるタイトルを付けたり、娘の名前「Tara」が日本語の「タラ」と発音が同じになるため、ここでも魚で弄られるなどこぼれ話に尽きない人物でもあります。

アルバム参加メンバー


  • Fish – Vocal
  • Steve Vantsis – Bass, Keyboard, Guitar, Programming
  • Robin Boult – Guitar
  • John Mitchell – Guitar
  • Craig Blundell – Drums
  • Dave Stewart – Drums
  • David Jackson – Saxophone
  • Liam Homes – Keyboards
  • Foss Paterson – Keyboards
  • Doris Brendel – Backing vocal
  • Mikey Owers – Brass
  • Scottish Chamber Orchestra – Strings

楽曲紹介


Disc 1

  1. Grace of God
  2. Man with a Stick
  3. Walking on Eggshells
  4. This Party’s Over
  5. Rose of Damascus

Disc 2

  1. Garden of Remembrance
  2. C Song (The Trondheim Waltz)
  3. Little Man What Now?
  4. Waverley Steps (End of the Line)
  5. Weltschmerz

引退作となった本作は2枚組全10曲のボリュームからなる名残惜しい超大作。

アルバムタイトルの「Weltschmerz」は18世紀に生きたドイツの作家Jean Paulが造った造語で、「世界の不適切さや不完全に触れ悲しむ」と言った意味を持ちます。これをもっと端的にすると「世界の痛み」となり少々哲学に近い解釈となってきます。

また「Rose」や「Garden」と言った彼の園芸への関心も曲に現れています。

#1「Grace of God」は打ち込みのようなリズムパターンを軸に置いた前半と、よりアコースティックギターをフィーチャーした後半の二面性から成るナンバー。フィッシュ個人の病気について歌った曲で、悲痛なテーマとは裏腹に後半の映画的サウンドが美しい近代的ネオプログレスタイルです。

パーカッシブなイントロからスタートする#2「Man with a Stick」。ミドルテンポの中でロックに刻まれるプログレナンバーで、トレモロサウンドのギターやシンセリードなど色鮮やかな一曲になっています。

#3「Walking on Eggshells」は#1の流れを汲んだような、これも映画的なフォークナンバー。Marillionの「Jigsaw」に近い、現実味のある哲学ソングでフィッシュの体験に基づいた不安定な人間関係が歌われます。

#4「This Party’s Over」はフルートや12弦ギターなど、70年代のフォークソングを思わせる爽やかなナンバー。6拍子で進行するリズムが独特で小忙しく歌うヴァースにストレートでメロウなサビが印象に残ります。

Disc1のラストとなるのが#5「Rose of Damascus」。17分にも及ぶこの大作は、地政学的な変動、宗教原理主義、テロ、移民などをテーマに歌った組曲。アコースティックギターとストリングスで厳かに始まるオープニングから、ギターのリフに引っかかるフックのようなボーカルパートや、10拍子から成り立つシンフォニックでスリリングな語りのパート、そこから訪れる穏やかなバラード、芸術性も感じさせるナイーブなギターソロなど感動的に仕上げられた一曲です。

Disc2に入り#1「Garden of Remembrance」。こちらはそのMVが話題となった先行シングル。ピアノ、ストリングス、そしてアコースティックギターに、年季の入ったFishのシブい歌声がマッチした痛烈で切なく美しいバラードです。非常にハートウォーミングなナンバーで、恋仲にある男女のシーンでは若い男の方が実はFishなのかなと思わせるドラマ性もあり癒されます。

#2「C Song (The Trondheim Waltz)」はタイトルにもあるようにノルウェーの都市トロンヘイムについて歌ったナンバー。フォークでヨーロピアンな雰囲気を持つワルツで、個人的にも好きな一曲です。

#3「Little Man What Now?」はフィッシュの父親の死とそこから感じた空虚な気持ちが具現化したナンバー。暗く沈んだ気分にさせる音作りは淡々とした打ち込みのトラックによるものか、ピアノもギターも綺麗なのに非常に悲壮感に溢れています。フィルインするDavid JacksonのサックスもPink Floydのような陰鬱さを感じられて素晴らしいです。曲は11分にも及ぶ大作になっています。

そこからさらに長尺な#4「Waverley Steps (End of the Line)」。序盤は例によってアコースティックギターを中心にしめやかに歌われますが、2:30からテンポチェンジ、Genesisのようなポップさとオーケストラサウンドで壮大かつアッパーに変化していきます。Neal Morse好きにも勧めたい一曲ですがFishそのものがフォーク成分の強いアーティストなので、そこをご留意の上でこの極上の王道サウンドを楽しんで欲しいです。

そして正真正銘ラストとなったタイトル曲#5「Weltschmerz」。最後はどんなバラードが…と身構えるものの、意外にもオリエンタルでロックな一曲となっています。歌詞は自己紹介という形でこれまでの活動や人生観を振り返っていくというもの。「プログレッシブ・ロックによる熱意は昔ほど存在していないが未だ燃え続けている」といった内容で、引退という悲観的な行動ですら前向きに捉えているFishの人間性が読み取れる一曲です。

これにてFishの40年に渡るキャリアは終わりを告げるわけですが、ローマ文学の古典には「過去はそれを持つ人にとって最大の財産である」という言葉があります。80年代にMarillionで活躍し、Genesisのコピーだと揶揄されてもなおその姿勢を止めず一心に自分の信念に向かった一人の男のラストアルバムは感動的かつ前向きになれる一枚です。そして振り返れば、いつでも彼の足跡を辿ることができるという点で私たちはきっと幸せなのでしょう。

関口竜太

東京都出身。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロギタリスト山口和也氏に師事。ロックやメタルに加え、ブルース、ファンク、ジャズなど幅広い演奏や音楽理論を学ぶ。 プログレッシブロック/メタルの大ファン。自身が企画するプログレッシブ・ロックプロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。

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