King Crimson「Discipline」: 復活を遂げ規律を制す第4期クリムゾン。代表作とはまた違うポップさとリズムを自在にコントロールするテクニカルに富んだ隠れ名盤!
by 関口竜太 · 2020-10-22
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はKing CrimsonのDisciplineをご紹介します。
Discipline / King Crimson
Discipline: 30th Anniversary Edition
King Crimson(キング・クリムゾン)はイギリス・ロンドンのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1969年のデビューより同ジャンルのレジェンド的存在に位置するプログレッシブ・ロックの大御所バンド。
長い歴史の中で3度に渡る解散を経験するこのKing Crimsonですが、今回はそのうち2度目の解散後の話になります。
当時、最悪とも言えるバンド仲で、それでも最高と名高い名盤『Red』を生み出したKing Crimsonはその後「星の光も届かない闇」の中へその姿を消していきました。
とは言いつつもメンバーが音楽まで辞めたわけではなく、ドラムのBill BrufordとベースボーカルのJohn Wettonは解散後、ギタリストAllan Holdsworthらと共にスーパーグループU.K.の結成に乗り出します。
二人は他にも『Red』の翌年から、ブルーフォードはGenesisのツアーメンバーに参加したり、ウェットンはUraiah Heepに加わりアルバムをリリース、そしてそれぞれソロアルバムもリリースするなど大忙し。
そんな中しばらく沈黙していた”元”リーダーRobert Frippですが、解散後はソロ活動やサポート&コラボに注力する日々を送ります。そして解散から7年後の1981年、かつてのメンバーであるブルーフォードと共同でDisciplineというバンドを結成しライブ活動を行うようになります。
このDisciplineにはベーシストにTony Levin、ギターボーカルにAdrian Belewといったアメリカ人ミュージシャンも加わりました。この4人による新グループはデビューに際し、商業的意向からバンド名を再びKing Crimsonと名乗り、ここにクリムゾンは復活することとなります。
ちなみにこの再結成から1984年の解散までを「第4期クリムゾン」「ディシプリン・クリムゾン」「ニューウェーブ期クリムゾン」などと呼んだりします。
この頃の音楽性は、King Crimsonらしい実験的な部分もありながらラテンやアフリカ音楽などのジャムを取り入れたスタイルで、ディスコサウンドやポリリズム、歌詞による言葉遊びなど、まさにDiscipline(規律)なものでした。
一方で、再結成の喜びと端正な音楽性とは裏腹に世間からは「Talking Heads化してしまった」という批判もあったり、アメリカ人メンバーを加えたこの時期をクリムゾンとは認めないという見方も未だあるようです。
しかし4人はこの時期に計3枚のアルバムをリリース、その第一弾となるのが本作『Discipline』となります。
アルバム参加メンバー
- Adrian Belew – Guitar, Vocal
- Robert Fripp – Guitar, Frippertronics ()guitar, electronics (Frippertronics)
- Tony Levin / Chapman Stick, basses (3,5), backing vocals (2,5)
- Bill Bruford / acoustic & electronic drums
楽曲紹介
- Elephant Talk
- Frame by Frame
- Matte Kudasai
- Indiscipline
- Thela Hun Ginjeet
- The Sheltering Sky
- Discipline
#1「Elephant Talk」のド頭から、トニーのスティックによるテクニカルで印象的なタップを聴くことができます。一聴して爽やかさを帯びながら複雑に聴こえるとして、この時期のクリムゾンを代表するナンバーと言えます。
トニーだけでなくブルーフォードのドラミングも独特な位置でのシンコペーションやリズムパターンを提示してきますし、トリッキーにも象の鳴き声を摸したフリップのギター、そして捉えどころのないブリューのボーカルなど濃密で聴きごたえがある一曲です。
#1からさらに細々しく展開したのが#2「Frame by Frame」。全編7拍子の上で、さらに別々のリズムを取るツインギターとスティックによる駆け足のようなリフ、そしてなだらかでフリーキーなボーカルがキャッチーでありながらもカオスな空間を生み出しています。
日本語をそのままタイトルに起用した#3「Matte Kudasai」。黄昏が似合うスライドギターにムーディーな雰囲気を味わえる一曲となっています。
賛否両論のある第4期クリムゾンですが、「Cat Food」「Dinasour」に並ぶこのポップナンバーを産んだという点で個人的にはかなり評価したいです。
#4「Indiscipline」はタイトルにあるように、このプロジェクトを真っ向から否定するナンバーで、第2期クリムゾンのようなカオスな内容が聴いて取れます。暴れまくるブルーフォードのドラム、変拍子上のヘヴィなギターリフは本来のクリムゾンそのもの。全員が全員自由に演奏しているようなフリースタイルのメタルナンバーとなっています。
#2からのミニマリズムな流れを想起させる#5「Thela Hun Ginjeet」。イントロのカッティングやトニーのベースラインに導かれ、ラテンな16分のリズムと民族的にも聴こえるボーカルラインで、このアルバムにさらにラジカルな印象を与えます。
民族的と言えば#6「The Sheltering Sky」も外せないナンバー。冒頭からのパーカッション、そこから他楽器が加わっていくループなこのナンバーは構成で言えばシンプルですがニューウェーブに傾倒しつつあった頃でも実験の精神を持ち続けるクリムゾンの絶え間ない姿勢が聴いて取れます。
そしてラストナンバーとなる#7「Discipline」。ポリリズムを駆使した複雑なリズム提示とメカニカルに聴こえるクリーントーンのリフはまさにタイトル通りのDiscipline。5分ほどのインスト曲となりますが、やれることをやったらさっと曲を終わらせいなくなってしまうイサギの良さというか頑固な感じも、今となって聴けば芸術点ですね。
個人的にはクリムゾンというバンドの流れを掴む上で欠かせない一枚だと思います!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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