Protest The Hero「Palimpset」: 湧き上がるアナキズムをテクニカル方面に発展させた、カナダ産プログレメタルの最新作!歴史的アメリカのブラックをメタルで斬る!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はProtest The Heroの2020年最新作をご紹介します。

Palimpset / Protest The Hero


Palimpsest

Protest The Hero(プロテスト・ザ・ヒーロー)はカナダのプログレッシブ・メタルバンド。

来歴


カナダ・オンタリオ州、トロントの近郊にある都市ホイットビー。この街で1999年、若干14歳の少年5人組がHappy Go Luckyというバンドをスタートさせたことに始まります。

2001年時点でのメンバーはボーカルのRody Walker、ギタリストのLuke HoskinTim MacMillar、ドラムのMoe Carlson、そしてベースのArif Mirabdolbaghi。この5人が初期メンバーとされ、ハードコアパンクで政治的メッセージが強いその音楽性は、カナダのバンドPropagandhiから影響を受けていました。

2002年と2003年にインディーレーベルよりそれぞれ『The Search for Truth』『A Calculated Use of Sound』という2枚のEPをリリース。これがきっかけでカリフォルニアのレーベルVagrant Recordsの目に留まり正式なデビューが決定したことで、バンド名をProtest The Heroに変更しました。

2005年にリリースされた1stアルバム『Kezia』において、彼らはそれまでのハードコアパンクなルーツに加えメタルコア、マス、プログレッシブ・メタルへと開眼。音楽的な勢いに型破りな構成や変拍子、そしてテクニカルな演奏技術を武器に人気を勝ち取ることとなります。

2008年にリリースした2ndアルバム『Fortress』ではゲストにDragonforceのVadim Pruzhanovをゲストに迎え、本国カナダで総合チャート初登場1位を記録します。

およそ2,3年周期のアルバムリリースは2013年まで続き、4thアルバム『Volition』では再び世界的な好セールスを納めていますが、当時バンドの創設メンバーであったドラムのカールソンが脱退したためアルバム制作にはRam of GodのChris Adlerが参加するなど、成功の影に苦労も垣間見れました。

アルバムリリース後には後任としてMike Ieradiが加入。続く2014年にはベースのミラジョボビッチが脱退するなど、メンバーにも変遷が見られたこの頃からアルバム制作を一度ストップし、Bandcampによるサブスクリプションベースでの楽曲発表を行なっていきます。

2018年にはCDアルバムの話も上がったそうなのですが、ボーカルのロディが声帯に不調を来たしたためそれを延期。同時にヨーロッパと日本を回るツアーも中止になっています。

それもなんとか回復し2020年に新たなシングル「The Canary」を公開すると、そこで本作『Palimpset』のリリースが発表されました。アメリカ経済や大恐慌、飛行事故など歴史的なドキュメンタリーを主題においた曲が並ぶコンセプトアルバムとなっています。

アルバム参加メンバー


  • Rody Walker – Vocal
  • Luke Hoskin – Guitar
  • Tim MacMillar – Guitar
  • Mike Ieradi – Drums

ゲストミュージシャン

  • Todd Kowalski – Bass
  • Milen Petzelt – Orchestration, Arrangement, Production

楽曲紹介


  1. The Migrant Mother
  2. The Canary
  3. From The Sky
  4. Harborside (Interlude)
  5. All Hands
  6. The Fireside
  7. Soliloquy
  8. Reverie
  9. Little Snakes
  10. Mountainside (Interlude)
  11. Gardenias
  12. Hillside (Interlude)
  13. Rivet

まずは#1「The Migrant Mother」。きめ細かなクリーンギターの導入がオールドな雰囲気を感じさせます。本編ではスラッシュなギターリフのイントロや、復活を果たしたロディのハイトーンとスリリングなオーケストラの絡みが絶妙なスピード系メタルに仕上がっています。

#2「The Canary」はトリッキーなギターリフと勢いのあるハードコアなボーカルスタイルが特徴の先行シングル。パワフルなドラムとボーカルとは裏腹に、コード感などからどこか哀愁も漂う不思議な空気が流れます。

この曲はアメリカ女性飛行士のパイオニアであるAmelia Earhartについて歌ったもので、当時絶大な人気を得ていたにも関わらず、1937年に行なった世界一周飛行の最中に行方不明になってしまった彼女の、壮絶かつミステリアスな人生をテーマにしています。

続くこちらも先行シングルとなった#3「From The Sky」。ヒンデンブルク号爆発事故をテーマに置き、当時の惨状を叙情的な世界観で歌い上げています。コードをバラしたアルペジオ的なリフやフィルを散りばめ、変拍子もかませていくことで終始テクニカルに聴かせています。ボーカルは複雑なヴァースのラインと開放的なサビのラインとで展開にカタルシスを作っています。

インタールード#4「Harborside」からメロディを汲んだ#5「All Hands」。終始忙しく動くギターは変わらずとも、四分で打ち付けるスネアの力強さやキャッチーなボーカルラインが気持ちいい一曲。2:35〜のDjentを思わす歯切れのいいリフとデスパートが特徴的です。

このアルバムにはアメリカで起きたさまざまなドキュメンタリーについて歌っており、必要に応じて前後に「〜side」と名のついた小曲が用意されているのですが、そういう意味では一曲で完結している#6「The Fireside」は特殊です。

SlipKnotをより軽快に、そしてスピーディーにしたようなこの曲は何より舌が絡まりそうなほどのボーカルが特徴。海外では「ボーカルは口でリードギターを弾いてるの?」とまで言われています。これほどまでのパフォーマンスはProtest The Heroでないと無理でしょうね。

#7「Soliloquy」はパワフルなリフにRage Against Machineを彷彿とさせるラップとが融合したメタルコアナンバー。4:30のコンパクトな楽曲に手数の多い多様なフィルが散りばめられ、またデスボイスパートからシンフォニックバラードまでの緩急にも対応した、非常に表情豊かな一曲となっています。

#7から繋がる#8「Reverie」は、お得意のハイテクニカルなリフにストリングスが絡みついていくシンフォメタルナンバーです。1930年代にアメリカで銀行強盗を繰り返しFBIから「社会の敵ナンバーワン」とされたJohn Herbert Dillinger Jr.がテーマとなっています。また#7はギャングスタBaby Face Nelsonについてなのでこの2曲が歴史的反社会者という共通認識で成り立っています。

アメリカの原住民(インディアン)に対する植民地主義と虐殺について講じたナンバー#9「Little Snakes」。基本的な構成は変わっていないものの、プログレッシブな展開が多く、悲惨なテーマにロディのボーカルにも切なくかつ熱が入ります。次曲#10「Mountainside」は無言のピアノ曲となっています。

悲劇のハリウッドスターPeg Entwistleをテーマにした#11「Gardenias」。彼女の出生はイギリスでしたが、HOLLYWOODサインの「H」の文字の上から投身自殺したことで知られる人物です。その生涯は若くして波乱なもので、16歳までに実の両親と実父の再婚相手までも失っています。

そんな彼女の人生を反映してのものか、曲は一層激しくボーカルはシャウトし、しかしラストはジャズの装いでその死を弔っています。2:38〜はまさにペグが飛び降りた心境を語ったパートとなっています。

切ないピアノのインターバル#12「Hillside」を抜けるとラストは#13「Rivet」。本作の中でも随一に明るいナンバーで緊張感に溢れた作品だけに締めとしての意味もあるでしょう。3:53〜のインターバルではプログレッシブ・メタルらしいユニゾンのリフも聴けたりなどキーボードの鮮やか音色が特徴になっています。

結成から20年経ってもなおエネルギッシュでまだまだ陰りを見せない傑作として、本作はメタルコア好きな方へオススメです。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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