Derek Sherinian「The Phoenix」: プログレばかりじゃなく一歩大人な選択へ。マルチな才能をくゆらせる現代のスーパーキーボーディストソロ最新作!
by 関口竜太 · 2020-09-30
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はキーボーディストDerek Sherinianのニューアルバムをご紹介します。
Derek Sherinian(デレク・シェリニアン)はアメリカのミュージシャン、キーボーディスト。
来歴
主にアメリカで活動するDerek Sherinianで特に有名なキャリアが、1995年に加入したDream Theaterですね。
前職のキーボーディストKevin Mooreがアルバム『Awake』のレコーディング最中に辞めてしまい、その後任として選ばれたのがデレクでした。デレクはそこでAwakeツアーを経て正式メンバーに昇格、ミニアルバム『A Change of Seasons』と4thアルバム『Falling Into Infinity』に参加し存在感のあるプレイを披露します。
しかしながら、これからDream Theaterが日の目を見て行くであろう5thアルバムを前にバンドが長年共演したかったJordan Rudessをついに引っ張ることに成功し、デレクは実力こそあれど事実上の解雇を言い渡されてしまいます。これにはメンバー内でJohn Myungなどは反対したみたいですね。
Dream Theater脱退後はソロアルバム『Planet X』をリリース。このアルバムを機にギタリストTony MacApineらと結成したバンドPlanet Xを発展させていきます。
このマカパインとのコンビに、Mr.BigのBilly Sheehanと元Dream TheaterのMike Portnoyを加えたセッションバンドPSMSを結成。
さらにそこからマカパインが抜け、Ron “Bumblefoot” Thal、そしてボーカルJeff Scott Sotoが加入したことで2017年にはそれがSons Of Apollo結成へと流れていきます。またスコットとは時期こそ違えどお互いYngwie Malmsteenに参加したキャリア同士ということになります。
本作『The Phoenix』は、2011年リリースの『Oceana』以来9年ぶりとなるニューアルバム。
参加ミュージシャンではまずSimon Philips。言わずと知れたTotoのドラマーですが、本作ではドラムはもちろん共同プロデューサーとしてデレクとコンビを組んでいます。
ベーシストにはErnest Tibbsというプレイヤーが選出されていますが、彼はグラミー賞経験もあるフュージョン系ベーシストで、フィリップスのアルバム『Protocol』にGreg Howeらと共に参加したり、ツアーを一緒に回ったりというベストリズムセクションなコンビなわけです。
さらにベーシスト枠で、過去のアルバム全てに参加しているTony FranklinとSons Of Apolloで仕事を共にするBilly Sheehanも参加。ギタリストにはボーカルと兼任するJoe Bonamassaの他、Zakk Wylde、Steve Vai、Ron ‘Bumblefoot’ Thal、Kiko Loureiroといういずれもベテランのスーパーギタリストの名が挙がっています。
アルバム参加メンバー
- Derek Sherinian – Keyboard
- Simon Phillips – Drums
- Ernest Tibbs – Bass
ゲストミュージシャン
- Tony Franklin – Bass
- Jimmy Johnson – Bass
- Billy Sheehan – Bass
- Joe Bonamassa – Vocal
- Zakk Wylde – Guitar
- Steve Vai – Guitar
- Ron ‘Bumblefoot’ Thal – Guitar
- Kiko Loureiro – Guitar
楽曲紹介
- The Phoenix
- Empyrean Sky
- Clouds Of Ganymede
- Dragonfly
- Temple Of Helios
- Them Changes
- Octopus Pedigree
- Pesadelo
全体的にフュージョン色の強い本作ですが、#1「The Phoenix」はデレクの挨拶的キーボードから始まるソロ合戦メタルインスト。ゲスト参加しているSimon PhillipsやSons Of Apolloの面々、そして名のあるギタリストたちのソロが拝める感謝の一曲です。もし、本作がアダルトな方向性と知らずに買ってしまった人でもとりあえずエキサイトできるナンバーが用意されたといった感じでしょうか。
#2「Empyrean Sky」はアルバムのアナウンスと同時に発表された先行シングル。デレク本人はあまりオーセンティックなプログレに拘っている節がないのですが、7弦ギターを生かしたヘヴィなギターリフに変拍子も取り込んだインテリジェンスな内容。サウンドの推移は結構フュージョン寄りに仕立てられていて、共同制作者にフィリップスを選んだのも納得です。
#3「Clouds Of Ganymede」はゲストにSteve Vaiが参加したギター主体の一曲。ポップとフリーキーの狭間を行く独特な空気感と丁寧に紡がれたメロディ、そして後半に向かうに連れ徐々に輪郭がはっきりしてくるフュージョン・プログレと言った具合です。ゲストを立てるべくソロとユニゾン以外は抑えたデレクにより、7割型ヴァイの楽曲に聴こえます。
MVが制作された#4「Dragonfly」。デレクのピアノに、フィリップスのドラムとティブスのベースというこのアルバムの三本柱のみによるジャズアンサンブルナンバーです。堅牢なリズム隊を土台にデレクのピアノを堪能できる一曲で、ジャジーな空気に変拍子やキメを容赦無く挟み込んでくるとにかく高尚な一曲。
続く#5「Temple Of Helios」。こちらは一転フュージョン系のナンバーですが、変拍子やダークな曲展開があったりなど「Not Prog」を掲げていながらも、論理的に持ち出せるなら積極的に取り入れていくデレクのスタンスが読み取れます。
#6「Them Changes」はJoe Bonamassaを迎えたボーカル曲で、アメリカの黒人ミュージシャンBuddy Milesのカヴァー。オールドかつグルーヴィーな選曲に個人的な嗜好も感じ取れるところです。
そしてアルバムは#7「Octopus Pedigree」で容赦ないプログレメタルサウンドへ。構築の根底はフュージョンにあるものですが、Ron ‘Bumblefoot’ Thalによるヘヴィなギターリフを支えるフィリップスのドラム、そのロンの流れるようなソロがとても印象的です。3:49〜におけるフィリップスのソロ/フィルインも本作のハイライトの一つ。
ラストナンバーとなる#8「Pesadelo」。ゲストにKiko Loureiroを迎えこれまで以上にヘヴィなナンバーをここに持って来ました。キコを呼んだというのは何もMegadethやAngraのメタルサウンドだけではなく中盤に訪れるフラメンコパートにおいても活躍できるからですよね。キコ自身もかつてジャズギターアルバムを出していたりするので意外にデレクとの相性抜群なのではと思います。
そんなわけでインスト作品として比較的アダルトな内容でありながら子ども心も忘れず、かつ的確な人選と緻密に構成された音楽を楽しめるハイレベルな作品でした。元Dream Theaterのキーボードという印象からプログレのレッテルを貼られがちなデレクですが、どうぞ先入観なしに一人のプロミュージシャンとして聴くといいかなと思います。大変満足のいく一枚でした!
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タグ: ジャズ/フュージョン米プログレDerek SherinianSteve Vai
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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