プログレには世知辛い音楽事情「いきなりサビを持ってくる曲が増える」
by 関口竜太 · 2020-09-18
こんにちは、ギタリストの関口です。
先日Twitterでこのようなツイートをお見かけしたので取り上げさせてください。
友だちのミュージシャンが言ってたけど、ここ数年「いきなりサビを持ってくる」曲が急増したらしい。理由はSpotifyなどのストリーミングが増えたから。冒頭で引き込まないとサビの前にスワイプされちゃう。せっかくのいい曲も、この事実を知っているのと知らないのでは届き方が全然違ってくるらしい。
— 松尾幸治 / RICHKA CEO (@yukiharuharu) September 16, 2020
友だちのミュージシャンが言ってたけど、ここ数年「いきなりサビを持ってくる」曲が急増したらしい。理由はSpotifyなどのストリーミングが増えたから。冒頭で引き込まないとサビの前にスワイプされちゃう。せっかくのいい曲も、この事実を知っているのと知らないのでは届き方が全然違ってくるらしい。 @yukiharuharu
動画生成スマートエンジン「RICHKA(リチカ)」の製作を行なっている他、これからさらに激化するソーシャル文化の中でクリエイティブ×イノベーションをテーマに人を動かしていく松尾幸治さんのツイート。
インスタントな音楽消費がもたらす楽曲への変化
たまたまリツイートで回ってきたものですが、昨今の音楽文化を象徴しそうな、なかなか破壊力のあるツイートです。
「いきなりサビを持ってくる曲」というのは古来のJ-POPから散々使われてきた手法ではありますが、そこには作曲家さんや編曲家さんたちの楽曲に対する思惑があるものだと思っています。
サビのインパクトが強いから先に持ってこようとか、イントロの前にサビを流しておくことで曲が締まるとか、そこまでこの理論に詳しくはないのですがこの決断が売り上げに直結する以上、もっと膨大なことを考えてサビを頭に持ってきているのは自明の理です。
しかしながら、このツイートにもあるように最近ではSpotifyやApple Musicが台頭し音楽そのものが完全にインスタントになりました。買わなくても、借りなくても自宅で外で好きな音楽を消費できる環境は便利であり驚異的です。
それは音楽の発展と衰退を同時にもたらしていると言っても過言ではなく、今回の件については衰退を予期させてしまいます。
アプリに左右される制作意識への危惧
元々日本の音楽はガラパゴスなところがあって、それが良くも悪くも独自の文化として発展してきました。
「サビを頭に持ってくる」や「インパクトの強いサビ」が増える傾向についてはTikTokなど音楽系SNSアプリなどの影響もあるようで、そうなるとこれは日本だけでなくアジア、強いては世界を巻き込んでいくことになるでしょう。
J-POP文化はそうそう壊れないにしても、これから先はより世界と平均化したような音楽が日本にも増えてくるのかもしれません。
もはや作曲家さんや編曲家さんの思惑など露知らず、「こうなるのがセオリー」と思考停止でアレンジしてしまうのは、せっかく生み出された音楽に対する意識が勿体無い(ちょっと支離滅裂ですが)と個人的に思うわけです。
より公転が逸れていく日本のプログレ文化
僕はこのブログを通じてプログレッシブな音楽をもっと日本で当たり前のものにしたいと思っているのですが、このニュースはそういう意味でなかなか世知辛かったです。
まず、頭にサビが来るプログレ曲はそうそうありません。
とにかくイントロ、もしくはテーマでインパクトを与えるのがプログレのプログレたる所以でした。Kansasの「Carry On Wayword Son」みたいにド頭コーラスというパターンもありますが、1975年に生み出されたこの手法でほぼ限界です。
長いイントロはおろか30秒ですら聴かれない時代が来るのかと思うと、なかなか目先が真っ暗になります。
が、文化というのは往往にして一周するものです。
ストイックな一般人による難しいクイズ番組がそれまでの主流だったら、程なくして庶民の平均より少し下くらいの知識をアイドルや芸能人が間違えるような番組が生まれ(完全に偏見)、それに飽きたらまた難易度が上がって名門大学出の俳優さんが答えたりするみたいな流れはきっとあります。
プログレッシブ・ロックがどれほどの公転周期かは不明ですが、今がちょうど「難易度低」の時期ならこれからもうちょっと複雑な音楽に手を伸ばしたいとする若者も増えていいなと個人的には願っています。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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