Neal Morse「Sola Gratia」: 2020年も最安定のコンセプトロック作品!シンフォニックの巨匠によって描かれるルターの生涯とその続編。
by 関口竜太 · 2020-09-14
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はNeal Morseの2020年最新作をご紹介します。
Sola Gratia / Neal Morse
Neal Morse(ニール・モーズ)はアメリカのマルチミュージシャン。
来歴
1992年のアメリカで、兄のAlan Morseと共に結成したSpock’s Beardを2002年に脱退。その理由をニールは「神からの啓示」とし、以後クリスチャン・ミュージシャンへと転身することに決めます。
このソロ活動では、バンドで行なっていたようなプログレッシブ・ロックスタイルの「Prog Rock」シリーズとアコースティックスタイルによる「Workship Sessions」シリーズとの2種類を展開し、毎年のように作品を発表し続けています。
そんな精力的なソロ活動が身を結び、2015年からはThe Neal Morse Bandを結成し自身の音楽性を強化。これはニールを含む5人のメンバーそれぞれが個性を爆発させている点でソロとは明確に区別されます。
2019年には10年に渡る構想の末、超大型ロックオペラプロジェクト作『Jesus Christ the Exorcist』をリリース。「Prog Rock」シリーズでのソロアルバム発表は、2012年の『Momentum』以来7年ぶりともなりました。
個人的にはこの『Jesus Christ the Exorcist』はすごく特別な一枚だと思っていて、何せ基本的な活動方針はNMBに一任しているわけですから、事実上「Prog Rock」シリーズのソロアルバムは今後出ないと思っていました。そこへリリースされた『Jesus Christ the Exorcist』はその内容も込みでお祭り的な華やかさもあったわけです。
時間は遡り2007年。この年にニールは『Sola Scriptura』というアルバムをリリースしています。
それを前提とした上で今度は、今年のMorsefest 2020(ニールが毎年行なっている彼の関連ミュージシャンたちによるライブイベント)で新曲を発表しようかとニールが妻シェリーに相談、最終的にはアルバムを作ろうかという話になりました。昨今の新型コロナウイルスによる情勢も含んだニールは「ソロアルバムってことかな」と言ったそうなのですが、シェリーは「ソロ」を「ソラ」と聞き間違え「ソラアルバム?」と聞き返したそうなのです。
『Sola Scriptura』はローマ・カトリック教会から分離しプロテスタントを誕生させたドイツの神学者マーティン・ルターの生涯を描いたコンセプトアルバム。ルターは「人の姿となられた神の言葉としてのイエス・キリストにのみ従う」という信仰義認を提示したわけですが、これと同様に、迫害というテーマで本作『Sola Gratia』がリンクされたというお話です。
メンバーはお馴染みのドラマーMike PortnoyとベースRandy George。この3人でテレワークを行いながら大まかなデモを作成しました。そこへ、普段はNMBのメンバーでもあるギタリストEric GilletteとキーボーディストBill Hubauerを加え本作を収録。さらに今回はストリングスを初めオーケストレーションをGideon Kleinに一任しています。
アルバム参加メンバー
- Neal Morse – Vocal, Keyboard, Guitar, Percussion, Drums on #6
- Mike Portnoy – Drums, Vocal
- Randy George – Bass
その他参加ミュージシャン
- Eric Gillette – Guitar on #2, #3, #13
- Bill Hubauer – Piano, Vocal
- Gideon Klein – Cello, Viola, Strings
- Josee Weigand – Violin, Viola
バックグラウンドコーラス
- Wil Morse
- Debbie Bresee
- April Zachary
- Julie Harrison
- Amy Pippin
楽曲紹介
- Preface
- Overture
- In The Name Of The Lord
- Ballyhoo (The Chosen Ones)
- March Of The Pharisees
- Building A Wall
- Sola Intermezzo
- Overflow
- Warmer Than The Sunshine
- Never Change
- Seemingly Sincere
- The Light On The Road To Damascus
- The Glory Of The Lord
- Now I Can See/The Great Commission
本項では2004年のアルバム『Sola Scriptura』を「前作」と表現します。
#1「Preface」は12弦ギターを使用したアルバムのオープニング。前作収録の組曲のうち「The Door – VI Upon the Door」のメロディを引用して関連性を持たせています。
そこから繋がる形でお決まりのインストナンバー#2「Overture」。印象的なナチュラルマイナーのリックを中心に様々なテーマをメドレー的に展開。若干セクションの繋ぎに無理矢理感はありますがそれもプログレッシブと言ってしまえば全て解決だし、ここまで何百と曲を作ってきたニールですから心配する必要はありません。
先行シングルとなった#3「In The Name Of The Lord」。先のリックを押し出しFlying Colorsを彷彿とさせるフリーキーなロックナンバー。「Jesus!!」の叫びからハードな演奏へと持ち込み、7拍子のヴァースやテンポチェンジからスローに聴かせるサビ、ゴスペル的なコーラスなどニールが得意とする要素が満載。
ちなみにこの「In the Name of〜」という言い回しは「〜の名の下に」といった意味合いがあります。
#4「Ballyhoo (The Chosen Ones)」はQueen風のアップライトなピアノのヴァースから、ゆったりとしたコーラスがポップなミディアムナンバー。サビではポートノイなど多数コーラスが参加しています。続く#5「March Of The Pharisees」は#4の平穏な空気から徐々に緊張感を増していくためのインターバルとして機能。
インターバルを抜け#6「Building A Wall」。この曲は使徒パウロがステファノの裁判にかけられていること、また当時のユダヤ人と異邦人との間にできていた分離の”壁”について書かれた曲で、中心を突き上げるようなヘヴィロックに先の『Jesus Christ the Exorcist』に収録されていたような神聖かつ威厳の強いオペラコーラスを披露。
中盤では前作から「The Door – III All I Ask For」のコーラスもリプライズされています。先行シングル第3弾で発表された際、海外でも好みが分かれた曲なのですが僕個人としては非常に好きです。
前作からの引用も多数ある2分ほどのインターバル#7「Sola Intermezzo」。コミカルかつプログレッシブなアプローチの数々をアトラクションのように眺めながら、そのトンネルを抜けると本作切ってのバラード曲#8「Overflow」。ニールの中では十八番である神聖な空気を持ったシンフォニックナンバーで、これまで幾度となく聴いてきたパターンではあるのですが今回も非常に美しいメロディで安定の一幕です。
#9「Warmer Than The Sunshine」は再び3分ほどのインターバル。ピアノを中心に緩急を付けながらテーマやクロマチックのフレーズを繰り返していきます。2:25〜はボーカルイン、オルガンをメインにキメを経て#10「Never Change」へと繋がっていきます。叙情的なバラードとなるこちらの曲ではスローなテンポにニールのギターソロも炸裂。チョーキングのピッチの甘さなどそれが逆に味となってエモーショナルなこの曲への味付けになっています。
先行シングルである#11「Seemingly Sincere」。聖ステファノ(キリスト教最初の殉教者)の石碑について歌われたこの曲はアルバムの最後に作られ、当初は長いインストパートも予定されていませんでしたが結果的に本作におけるハイライトの一つとなりました。9分半に及ぶ大作曲で、昨今のプログレにおけるデジタルな流れをニールなりに汲んだ結果に思えます。リモートでの制作となったMVもPC画面をモチーフにそれぞれのファイルを開くような演出がなされ曲のイメージともマッチします。
5:00〜のインストパートではポートノイお得意の派手なドラムソロからプログレッシブなパッションを感じるキーボードソロまで、非常にエキサイトな仕上がりです。
#12「The Light On The Road To Damascus」では#11のエンディングを少し引き継ぐ形で曲の半分はテーマにニールの語りを持たせたパート。後半は大団円を感じさせる「最終章のイントロ」となっています。
クラインの穏やかなストリングスがイントロを撫でる#13「The Glory Of The Lord」。例によってニールが教えを一つ説く名バラードシーンですが、3:24〜はエリックによるロングギターソロも待ち構えています。NMBとは明らかに区別されるソロアルバムゆえ、彼の出番が少ないのは少し寂しいのですがやはり身悶えするほど上手いしラストの大サビに向けて一気に盛り上げていきます。
そしてエンディングとなる#14「Now I Can See/The Great Commission」。ユダヤ人という迫害の歴史を持つ人種のキリスト教改宗へ走ったルターの、その溢れる思い(Overflow)を永遠(Everlasting)に見つめること(Now I Can See)と歌ったナンバー(解釈が違ったらごめんなさい)。
数パートに分かれたゴスペルコーラスの真ん中を抜けるニールのボーカルと、お馴染みでありながらやはり聴き入ってしまう壮大なシンフォニック・ロックに仕上がっています。
全編シームレスに構築され、『Sola Scriptura』をベースに『Testimony 2』と『Question Mark』を足したような内容です。何度か通しで聴いた印象ではアルバムのトップの盛り上がりを「Seemingly Sincere」に持ってきているので、若干エンジンがかかるのが遅いかなという感想も抱きました。しかし余計なことを考えず今年も純粋にNeal Morseが楽しめたことをまずは喜ぶべきだと思います
以前プログレに関するオンライン座談会を行った際、終了後のアンケートで「Neal Morseを呼べない日本はプログレが盛んな諸国の中で遅れている」というご意見もありました。全くその通りだと思います。確かに仏教徒の多い日本にニールが「ライブツアー以外」の目的で来ることは難しいのかもしれませんが、これは是非とも叶えて欲しい夢でもあります。
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タグ: シンフォニック・ロック米プログレEric GilletteMike PortnoyNeal MorseRandy George
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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