The Tangent「Auto Reconnaissance」: プログレにファンクやソウルは無縁と思っていませんか?作曲家Andy Tillisonの内面を探るスーパーグループの最新作はまさにネオグルーヴな大作でした!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はThe Tangentの2020年最新作をご紹介します。

Auto Reconnaissance / The Tangent


Auto Reconnaissance (Ltd. CD Digipak)

The Tangent(ザ・タンジェント)はイギリス/マルチナショナルのプログレッシブ・ロックバンドおよびスーパーグループ。

来歴


元々はイギリスのキーボーディストAndy Tillisonが2002年に自身のソロプロジェクトとして立ち上げたのがこのThe Tangentの始まり。

The Tangentは2003年に1stアルバム『 The Music That Died Alone』をリリースわけですが、このアルバム制作によりティルソンから直々に召集されたのがスウェーデンのThe Flower Kingsに所属している(た)Jonas Reingold、Roine Stolt、Zoltán Csörszら。

さらに60年代から活躍するプログレロック、実験音楽のベテランバンドVan der Graaf Generatorの管楽器奏者David Jacksonなど錚々たる面々が集まったことで、もはやソロプロジェクトというよりはイギリス・スウェーデンを中心としたスーパーグループへと認識が確立されました。

この頃からすでに、グループでは大作志向かつジャズロックを基盤としたカンタベリーロックのフレーバーも有しており、当初は一度きりの予定だったプロジェクトは今日までに実に11枚のアルバムをリリースしています。

メンバーも時代を追うごとに変化していき、ベースのヨナスに関しては義理堅くその屋台骨を支えている一方、サックス奏者としてKing Crimsonを初め多くのプログレッシブ・ロックグループやアーティストにその音を提供してきたTheo Travisが加入するなど、形は変われど依然として豪華な面々には変わりありません。

そんなThe Tangentがグループ2年ぶりとなる最新作として発表したのが本作『Auto Reconnaissance』となります。

アルバム参加メンバー


  • Andy Tillison – Vocal, Lyrics, Keyboard, Composer
  • Jonas Reingold (The Flower Kings, Karmakanic) – Bass
  • Theo Travis (Soft Machine, David Gilmour, King Crimson) – Sax & Flute
  • Luke Machin (Maschine, Francis Dunnery Band) – Guitar
  • Steve Roberts (David Cross Band, ex Magenta, Godsticks) – Drums

楽曲紹介


  1. Life On Hold
  2. Jinxed In Jersey
  3. Under Your Spell
  4. The Tower of Babel
  5. Lie Back & Think Of England
  6. The Midas Touch
  7. Proxima (Bonus Track)

6月にニューアルバム発売がアナウンスされたと同時に公開となったシングル#1「Life On Hold」。ボーカルは前作までKarmakanicやYngwie MalmsteenのGöran Edmanも参加していたのですが本作ではティルソンの一本のみとなっています。

フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルに言及した楽曲。KansasやBoston、そしてTransatlanticで感じるような陽気でアップテンポのオールドスクールなプログレロックで、軽快なキーボードサウンドとレフティ・ギタリストLuke Machinの超絶的なギターソロが気持ちいいです。

#2「Jinxed In Jersey」は16分にも及ぶ大作ナンバー。ニュージャージーのホテルから自由の女神までをティルソンが歩き、そこで出会った様々な人との実話を曲にしたなんとも実験的なエピソード。

ムーディーなR&Bの香りを添え、ティルソンのジャジーなピアノに釣られるように会話をしていく様々なキャラクター。全体的に叙情的な構成でありながら時にハードエッジなシーンが登場しこの大作が単調なものにならない工夫がなされています。

#3「Under Your Spell」はティルソンのピアノとルークの歯切れのいいギターラインが癒される穏やかなラブソング。

プログレッシブな楽曲を売りにしていながら必ずしもそこに固執しない、ティルソンの作曲家としての芯が伺えます。3:13〜はルークによるジャズテイストのギターソロ、そしてトラヴィスによるこれまた大人びたサックスのソロによって楽曲を締めています。

2ndシングルとなった#4「The Tower of Babel」。The Tangentの特徴の一つでもあるファンキーなナンバーで、タイトルからアメリカのファンクバンドTower Of Powerを彷彿とさせます。バブリーな感じもありつつ、やはりどことなくThe Flower Kingsも思わせるのはベーシストJonas Reingoldに起因するのでしょうか。

タイトルはもちろん旧約聖書に登場する「バベルの塔」から来ていますが、人が天まで登る塔を建設していたら神様が怒ってそこに暮らしていた人々を散り散りにし言語もバラバラにしたという神話ですね。そこから派生してティルソンなりに21世紀のコミュニケーションについて歌っています。

そして中盤にして登場する28分という超大作#5「Lie Back & Think Of England」。イギリスがEUを離脱する、いわゆるブレグジットについて歌ったナンバーで、イギリス国内でも意見の別れたこの複雑な問題を28分というエピックに詰め込んでいます。

序盤はピアノとフルートをメインにティルソンの語りのようなボーカルが出迎えます。3分以降はこのアルバムのテーマでもあるファンクでソウルなリズムに、どことなくFrank Zappaを思わせる怪しさを纏いながら徐々にハードな演奏へ切り替わっていきます。

6:46ごろにフルートソロを聴かせて以降は、ボーカルパートとインターバルとが細かく切り替わる感じで進行していきますが、11分前後から始まるサックスソロを合図にプログレらしいキメとブレイク、そしてオルガンやユニゾンなど目まぐるしく展開していきます。

R&B、ソウルからファンク、そしてプログレッシブ・ロックに至るまで表情を変えていくのはまるで連合国であるイギリスそのもののようで、かなりボリューミーな楽曲ではありますがティルソンの思い入れが反映された結果と言えるでしょう。

#6「The Midas Touch」はワウペダルとエレピのフェードから始まるR&B、ソウルな一曲。#2や#4で聴かれたようなファンキーなリズム提示は複雑なイメージのあるプログレッシブ・ロックにおいて新たな切り口となりうるかもしれません。

裏拍に引っ掛けていくティルソンのボーカルとそこへユニゾンするトラヴィスのフルートが聴ける2:46〜や、3:39〜のジャズピアノソロと曲のマッチングが非常に気持ちいいです。

ラストとなる#7「Proxima (Bonus Track)」は一応はボーナストラックとしての扱いですが、12分の長尺に収められた様相の違うこのインスト曲はアルバムをまた別の解釈へと導きます。

キーボードとフルートが多くの割合を締めるアトモスフィアなナンバーで、Pink Floydぽさもある幽玄なアンビエントはある意味で最もプログレッシブに仕上げられた曲かもしれません。

プログレッシブ・ロックというと、やはり変拍子や複雑な展開を有する長尺曲、そしてコンピューターで打ち込んだような淡々と流れるクラシックフレーズなどが現代のイメージとしては強いです。

そのためブルースやファンク、ソウルと言ったグルーヴィな音楽を嗜好する方々との確執が目に見えて明らかなのは永遠のテーマと言えるでしょう。The Tangentはそれらの確執を埋める切り札とも言えるバンドですし、最新作であるこの作品にはそんなグルーヴマニアたちへ半歩寄り添う外交的な側面を持ち合わせており、これによりジャンルでカテゴライズすることというのは些細な問題なのかもしれないと思わせてくれる、そんな一枚に仕上がっています。

関口竜太

東京都出身。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロギタリスト山口和也氏に師事。ロックやメタルに加え、ブルース、ファンク、ジャズなど幅広い演奏や音楽理論を学ぶ。 プログレッシブロック/メタルの大ファン。自身が企画するプログレッシブ・ロックプロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。

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