Legacy Pilots「Aviation」: 70年代を継承すべく立ち上がったドイツの王道シンフォニック・プログ冒険譚。Steve MorseやJordan Rudessなど超豪華ゲストにも注目!
by 関口竜太 · 2020-08-20
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はLegacy Pilotsのニューアルバムをご紹介します。
Aviation / Legacy Pilots
Legacy Pilots(レガシー・パイロッツ)はドイツ/マルチインターナショナルのプログレッシブ・ロックバンドおよびプロジェクト。
来歴
ドイツ・ハンブルク出身のマルチミュージシャンFrank Usが本日の主人公。
フランクはここ数年……例えばChris SquireであったりKeith Emersonであったり、Greg Lake、John Wetton、Allan Holdsworthと言った偉大なプログレミュージシャンたちの訃報に直面し、彼らの人生の素晴らしさを感じ取ると同時に自身のこれからの人生についても改めて見つめ直す機会を得ました。
その上で、元々70年代のシンフォニック・ロックやプログレッシブ・ロックが好きだったフランクは、改めてそうした音楽に触発されます。そして2018年に設立されたのがプログレッシブ音楽プロジェクトLegacy Pilotsです。
Legacy Pilotsは設立したその年に1stアルバム『Con Brio』をリリース。
Steven Wilsonのドラマーで知られるドイツ出身のMarco Minnemannを初め、同じくドイツのベーシストFinally Georgeや、Steve Morse、Steven Rothery、John Mitchellなど多くのミュージシャンをゲストに招き共演。その豪華な顔ぶれが話題となりました。
本作『Aviation』は2020年にリリースされたばかりの2ndアルバム。
前作に引き続きミンネマンやジョージが参加している他、そんなジョージからの繋がりでStyxのTodd Sucherman、ロザリーから紹介されたであろうMarillionのPete Trewavas、さらにDream TheaterのJordan Rudessに至るまで、前作を超える顔ぶれとなっています。
アルバム参加メンバー
- Frank Us – Keyboard, Guitar, Bass, Percussion, Vocal, Composer & producer
その他参加ミュージシャン
- Todd Sucherman – Drums on #2,4,11
- Marco Minnemann – Drums on #1,3,5,8,9,10
- Pete Trewavas – Bass on #1,9
- Lars Slowak – Bass on #3,4,10
- John Mitchell – Guitar on #5
- Jake Livgren – Lead Vocal on #2,3
- Finally George – Bass, Vocal on #4,9,10
- Steve Morse – Guitar on #11
- Jordan Rudess – Keyboard on #2
楽曲紹介
- The Squad Is Back
- A Different League
- Dreamers
- Innocent
- Wide Wide World
- Fear Part One – Proximity And Distance
- Fear Part Two – Hope And Failure
- Saccadian Rhythms
- Immortal
- To The Stars
- An Adventurous Journey
#1「The Squad Is Back」はフランクとミンネマンのドイツコンビに、トレワヴァスを加えたインストによるオープニングナンバー。ゆったりと流れる曲の雰囲気とは別にタイトなリズムが特徴的です。2:23〜はトレワヴァスのベースソロやフランクのキーボードソロからジャム的に盛り上げていき、フュージョンのようなギター&オルガンソロへと展開していきます。
#2「A Different League」は80年代のネオプログレッシブ・ロックを彷彿とさせるナンバーで、メロディアスかつ能動的な歌メロラインにゲストであるルーデスのキーボードソロが炸裂します。プログレメタルでもジャズ/フュージョンでもない曲に彼独特のリードサウンドはなかなか新鮮に聞こえます。
#3「Dreamers」では陰鬱な空気にJake Livgrenのボーカルが染み渡るミディアムバラード。イントロやサビでのクリーンなアルペジオやさりげないウーアーコーラスもこの切ない雰囲気に一躍買っています。
深めのコーラスをかけたギターアルペジオが特徴の#4「Innocent」。#3に負けず劣らずこちらもアンニュイな雰囲気たっぷりですが、全編で存在感のあるシンセストリングスが曲の雰囲気を作り上げている他、ブリッジ部分で変則的な小節数になることで印象に残しています。
先行シングルとなりMVも制作された#5「Wide Wide World」。作曲にはゲストのJohn Mitchellも参加していて、元々あるフランクのネオプログレがさらにメロディアスになっています。80年代らしい独特のリヴァーブ感や日本の歌謡曲を思わすフックの効いたサビなど、個人的にも気に入っている曲の一つです。
2部構成となった合わせて9分弱の組曲#6「Fear Part One – Proximity And Distance」と#7「Fear Part Two – Hope And Failure」。
#6ではエスニックなアコースティックギターやパーカッションに導かれフランクのシブいボーカルがストーリー感を生み出しています。一応、ドラムはミンネマンなのですがその他はゲストを使っていないワンオペな仕上がり。
後半の#7ではKing Crimsonから受け継ぐ前衛さが強く感じられ、序盤の怪しいシンセとリズム隊のリフ、そこからピアノとギターによるヘヴィな掛け合いに至るまでポップ路線なこのアルバムでとことんプログレッシブさを感じます。
そしてこの曲をきっかけにアルバムがかなり前衛的な方向へ向かっていきます。
#8「Saccadian Rhythms」は再びベーシストにLars Slowakを起用したトラッドフォークな一曲。この辺りは70年代のYesやGenesisらしさを感じるので、序盤の80年代から作風が逆行している気もします。
比較的ネオプログレ路線となるこの作品で10分という長尺に当たる#9「Immortal」は、ミンネマンとジョージという1stで組まれた鉄板のリズム隊によって支えられます。トラディショナルなインストパートにクラシカルなハモンドオルガンが加わり、10分の長さながらインプロヴィゼーションの強いインストパートが大半を締めます。
後半コーラスに加わる女性ボーカルのデータがなかったのでちょっと不明ですが、わかり次第そちらは追記しておきます。
#10「To The Stars」は終盤に用意されたシンプルなピアノバラード。R&Bやポップス路線にある打ち込み風のドラムやきらびやかなアコースティックギターのアルペジオ、さらにエモーショナルなギターソロなど、プログレかどうかは関係なく良曲に仕上がっています。
ラスト曲#11「An Adventurous Journey」はFrank USという人物がこのプロジェクトを立ち上げた本意が伺える8分ほどのインスト。イントロから#7のピアノリフを伏線的に拾い、緊張感を高めていきます。方向性としては#7や#9と言ったクリムゾン的アヴァンギャルド・ロックですが、4:10〜登場するSteve Morseのギターソロだったり所謂プログレッシブ・メタルとしての側面も持った王道シンフォニックです。
タイトルの「Aviation」とはジャケットの通り「航空」を意味する英語ですが、聴き始めの印象と終わりとで楽曲のスタイルがガラリと変わる様はまさにA点からB点へ移動したような面白い着眼点のアルバムでした。
ドイツのプログレは近年RPWLやCriptex、Rubber Teaなど70年代の香りを存分に発揮させているのでまた本作のような温故知新な作品に出会えるのが楽しみです!
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タグ: シンフォニック・ロックLegacy Pilots伯プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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