Andrew Lloyd Webber「Jesus Christ Superstar」: Ian Gillanらが参加したミュージカル作曲家による金字塔アルバム!超本格的オペラとロックの融合が70年代にはここまで完成されていた!
by 関口竜太 · 2020-08-14
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はAndrew Lloyd Webberのロックオペラアルバム『Jesus Christ Superstar』をご紹介します。
Jesus Christ Superstar / Andrew Lloyd Webber
Jesus Christ Superstar (2012 Remastered)
Andrew Lloyd Webber(アンドリュー・ロイド・ウェバー)はイギリスのミュージカル作曲家。代表作は『ジーザス・クライスト・スーパースター』『エビータ』『キャッツ』『オペラ座の怪人』など。
来歴
1948年3月22日のロンドン、Andrew Lloyd Webberは作曲家でありオルガン奏者として有名なWilliam Lloyd Webberの長男として生まれます。
弟にはこれも世界的に有名なチェリストであるJulian Lloyd Webberがおり、母もバイオリニストであったため極めて高尚な音楽一家で育つことになります。そして9歳のときには小規模ながら組曲を書いたことで、幼くしてその才能を開花させていきます。
青年時代はウェストミンスター・スクールを経てオックスフォード大学で歴史学を学んでいましたが、音楽の道に進むためこれを中退、ロンドンの名門校王立音楽大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージック)に進学します。
1965年、若干17歳にしてプロキャリアをスタートさせたアンドリューは、そこでソングライターTim Riceに出会います。彼と初の共作であった『The Likes of Us』は、ウェールズの作家Leslie Thomasを原作としたミュージカル音楽でしたが、その後40年に渡りお蔵入りとなり、2005年にようやく舞台化されています。
初の転機となったのは1967年の夏、ロンドンの音楽教師であったColet Courtがそんな彼らを支援し作品の依頼を出します。当時のジャズをモチーフにした学芸会用の『ポップス・カンタータ』というこの作品は、後に歴史ある出版社Novelloからスコアが出版されています。
これをきっかけに今度はNovelloから依頼を受け、旧約聖書「創世記」の「ヨセフ物語」に収録された話をベースとした『Joseph and the Amazing Technicolor Dreamcoat』を制作。アンドリューとティムコンビにとって初の公演作品となりました。
さらにここに来てアンドリューに影響を与える出来事が起こります。それが、1969年にリリースされたThe Whoのアルバム『Tommy』。この作品は、それまで曖昧だったオペラとロックミュージックとの境界線を一気に繋ぎ、ここにロック・オペラという新ジャンルの確立を見たアルバムでした。
それまでのミュージカル音楽に明確にロックを取り込み、さらに先述の『Joseph and the Amazing Technicolor Dreamcoat』の舞台が成功していたことも受け、ここに新たに聖書を基にしたイエス・キリストの生涯を描いたミュージカルアルバム『Jesus Christ Superstar』を制作します。
アルバムではジーザス役にDeep Purpleのボーカル務めるIan Gillan、マグダラのマリア役に当時Eric Claptonのバックボーカルを務めていたYvonne Elliman、ユダ役にMurray Headらが起用。クラシカルなミュージカル音楽に、若者にも人気のミュージシャンを配置したことで1971年のビルボード年間アルバム部門で1位を得るなど大ヒットを記録。イヴォンヌはこのアルバムでグラミー賞も受賞しています。
その後全世界でのヒットを受け翌年には舞台化、そして舞台映画化まで実現。これの次回作『Evita』までアンドリューとティムとのベストコンビが築かれることとなりました。
アルバム参加メンバー/キャスト
- Andrew Lloyd Webber – All Musics
- Tim Rice – All Lyrics
キャスト
- Ian Gillan – Jesus Christ
- Murray Head – Judas Iscariot
- Yvonne Elliman – Mary Magdalene
- Victor Brox – Caiaphas, High Priest
- Barry Dennen – Pontius Pilate
- Brian Keith – Annas
- John Gustafson – Simon Zealotes
- Paul Davis – Peter
- Mike d’Abo – King Herod
- Annette Brox – Maid by the Fire
- Paul Raven – Priest
- Pat Arnold, Tony Ashton, Tim Rice, Peter Barnfeather, Madeline Bell, Brian Bennett, Lesley Duncan, Kay Garner, Barbara Kay, Neil Lancaster, Alan M. O’Duffy, Terry Saunders – Background vocals
- Choir conducted by Geoffrey Mitchell
- Children’s choir conducted by Alan Doggett on “Overture”
- The Trinidad Singers, under the leadership of Horace James, on “Superstar”
ミュージシャン
- Neil Hubbard – Guitar
- Henry McCullough – Guitar
- Chris Mercer – Tenor sax
- J. Peter Robinson – Piano, Keyboard, Organ
- Bruce Rowland – Drums, Percussion
- Alan Spenner – Bass
その他参加ミュージシャン
- Harold Beckett, Les Condon, Ian Hamer, Kenny Wheeler – Trumpet
- Anthony Brooke, Joseph Castaldini – Bassoon
- Andrew McGavin, Douglas Moore, James Brown, Jim Buck Sr., Jim Buck Jr., John Burdon – Horns
- Norman Cave, Karl Jenkins – Piano
- Jeff Clyne, Peter Morgan, Alan Weighall – Bass
- Keith Christie, Frank Jones, Anthony Moore – Trombone
- Alan Doggett – Principal Conductor, Moog synthesizer
- Ian Herbert – Clarinet
- Clive Hicks, Chris Spedding, Louis Stewart, Steve Vaughan – Guitar
- Bill LeSage, John Marshall – Drums
- Chris Taylor, Brian Warren – Flute
- Mike Vickers – Moog synthesizer
- Mick Weaver – Piano, Organ
- Andrew Lloyd Webber – Piano, Organ, Moog synthesizer
- Strings of the City of London Ensemble
楽曲紹介
Disc1
- Overture
- Heaven on Their Minds
- What’s the Buzz? / Strange Thing, Mystifying
- Everything’s Alright
- This Jesus Must Die
- Hosanna
- Simon Zealotes / Poor Jerusalem
- Pilate’s Dream
- The Temple
- Everything’s Alright (Reprise)
- I Don’t Know How to Love Him
- Damned for All Time / Blood Money
Disc2
- The Last Supper
- Gethsemane (I Only Want to Say)
- The Arrest Peter’s Denial
- Pilate and Christ
- King Herod’s Song
- Cloud We Start Again, Please?
- Judas’ Death
- Trial Before Pilate (Including the 39 Lashes)
- Superstar
- Crucifixion
- John Nineteen: Forty-One
2019年の5月にアメリカのマルチミュージシャンNeal Morseがリリースしたロックオペラアルバム『Jesus Christ – The Exorcist』という作品がありまして、これがこの『Jesus Christ Superstar』をベースに「イエス・キリストの晩年」というテーマで10年の構想の後ベールを脱いだ作品だったわけです。
『Jesus Christ – The Exorcist』についての大前提としてこの『Jesus Christ Superstar』は欠かせないアルバムなのですが、その時僕はこれがミュージカル映画のみの作品だと思っていました。
こんな感じで、「『Jesus Christ Superstar』という映画のサントラ」みたいな言い方をしていたのですが、最近になって先にアルバムがリリースされその後舞台化・映画化と話が進んだのだと理解し、その釈明も込めてこのアルバムをご紹介しているわけです。
なお、すでに記事の赤線部分は修正済みです。
Neal Morse「Jesus Christ The Exorcist」: 早くもニューアルバム!キリストの生涯を描く21世紀のスーパーロックオペラ!
さて、アルバムの内容ですが、基本的なストーリーは神の子として人々を先導していくイエス・キリストが最終的には悪魔とされ磔刑により終えるその生涯を描いた、概ね新約聖書通りの物語。イエスはその3日後に復活するとされ、『Jesus Christ The Exorcist』ではそこまでが描かれますが、本作ではあくまで死までのシーンで終わりとなっています。
非常に曲数が多いので全ての曲を一つ一つ解説していくことは難しいのですが、特筆しておきたいのはこのアルバムがミュージカル、もしくはロックオペラ作品としてだけでなくプログレッシブ・ロックとしても意味のある一枚だということ。
1970年という同ジャンルがこれから最盛を迎えようとする時期も相まり、舞台音楽らしい超本格的なシンフォニックアレンジが施され、かつ変拍子やテンポチェンジ、転調などのロック要素を取り入れたことでそれらが斬新なアプローチに変わっていく大きな可能性を示しています。
#1「Overture」では当時のロックバンド顔負けのスーパーインストを披露していますが、0:52〜のブラスなどNeal Morseがオマージュしたフレーズもあったり、世代を超えたロックの架け橋に思わず鳥肌が立ちました。ベーシストAlan Spennerの見事なスラップなど全体的な演奏レベルの高さにも注目です。
キャストと呼ばれるボーカル陣も素晴らしい人ばかりで、#2「Heaven on Their Minds」ではMurray Headの太く芯のあるハイトーンが物語全体の説得力を増しています。役柄は違いますが現代ではTed Leonardというボーカルがこれを引き継いでいますね。
#3「What’s the Buzz? / Strange Thing, Mystifying」では実際にイエスを今でいう信者の人が囲って持て成すシーンが描かれるのですが、ファンキーな演奏に対しメロディはスーパーマリオで聴けるスターのそれです。詳しくこれがモチーフになっているとは記述がありませんでしたが「無敵状態」を表すメロディとしてこれが採用された可能性はありますね。
#9「The Temple」では神殿浄化のシーンが描かれます。聖地エルサレムに戻ったイエスとその弟子たちは、そこで大量の商人が神殿の境内で商売を行なっている場面を目撃しそれらを一喝、追い出すシーンですね。やかましくも7拍子による緊迫度の高い曲で、ここではイエスを演じたIan Gillanの天まで届きそうなハイトーンを聴くことができます。
このように人々の心を突き動かすイエスに対し各地の僧侶や司祭たちはどうにかイエスを処刑したいと画策するようになります。
Disc2に入り#2「Gethsemane (I Only Want To Say)」ではそんなイエスが逮捕されたオリーブの山の園「ゲッセマネ」でイエス単体による独白のシーンが描かれます。常にミュージカル調ではありますが随所にフックの効いたメロディなんかもあり、何よりボーカルがうますぎるのでそれに圧倒されますね。
#6「King Herod’s Song」では実際に当時のユダヤの王であったヘロデ大王のテーマが歌われ、イエス処刑に一枚噛んでいるのを物語ってしています。ヘロデ大王は以前から、イエスがユダヤの新しい王となることを危惧してイエスと同世代の子供を幼児のうちから殺させるという黒幕的な立ち位置にもあります。
#7「Judas’ Death」でユダが死に、さらにその次の#8「Trial Before Pilate (Including the 39 Lashes)」では重苦しいピアノと共に処刑執行が刻々と迫ります。ここではブレイクとブラスのテーマやおどろおどろしいホイッスルなど「Overture」で行われたリプライズともなっていて、イエスの死こそが作品のメインテーマであることを示唆しています。
また、この演出はNeal Morseにおいても同様のアプローチがされているので実際に聴いて確かめてみることをオススメします。3:05〜は、「Overture」でも聴かれたロックなリフと共にイエスへ39回鞭を打つシーンが生々しく演じられています。
その後イエスは磔刑となり人々にその最期を晒されることとなります。最期はイエスの意識が途絶えると同時に曲もプツリと終了しており、かなりリアリティの高いマジな演出になっています。
物語としてもここで終わりでバッドエンドに近い印象を受けますが、勘違いしてはいけないのはこの作品、ただ大昔のカリスマに起こった悲劇を歌い伝えただけではないのです。というのも#9「Superstar」で、ユダ役のマレーがこのように歌っているのです。
You’d have managed better
If you’d had it planned
Now why’d you choose such a backward time
And such a strange land?
If you’d come today
You could have reached a whole nation
Israel in 4 BC
Had no mas communication
ざっくり意訳すると「君なら計画してもっとうまくできたのに、なんで紀元前4世紀のイスラエルなんて時と場所を選んだんだ。当時はマスコミだってなかったんだろ、今日(現代)に来ていれば英雄でいられたのにな」。
とこんな感じでしょうか。つまり、ここではストーリーを追っているのではなく現代からの視点でイエス・キリストを壮大に皮肉っているのです。「Don’t you get me wrong(誤解しないで)」と繰り返し繰り返し歌っているところから敬虔なキリスト教徒からのクレームも回避した形ではありますが、こんな超絶的カリスマ性をがあったのに人の噂と裁判だけで磔刑にされてしまって哀れな人ですねという締めですね。
言いようによっては悪口に聞こえなくもないんですが、ここがこの作品のオチでして、とても悲壮感ある最期を遂げた物語を、でも悲しいまま終わらせるなんてそれこそ可哀想と、コミカルかつ喜劇的に仕上げたウェバーのユーモラスな表現が生きた演出になっています。
ラストとなる#11「John Nineteen: Forty-One」はそれも含めた「この物語」のエンディングで、美しくそして儚げなオーケストレーションの染みる映画音楽となっています。タイトルは、「ヨハネによる福音書」の19章41小節ですがここに書いてある内容がこちらになります。
「イエスが十字架にかけられた所には、一つの園があり、そこにはまだだれも葬られたことのない新しい墓があった。」
この新しい墓にはそのまま、イエスが埋められることとなります。その後第20章にてイエスは復活するのですが、あくまで第19章で終える無常観に、この作品はリアリティを投影しているです。
これのアンサーとしてNeal Morseの『Jesus Christ The Exorcist』があります。気になる第20章までを歌っていますので、併せて聴いていただけるといいかなと思います!
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タグ: Andrew Lloyd Webberロックオペラ英プログレNeal Morse
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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