A.C.T「Circus Pandemonium」: スウェーデン産メロハードの大人気5th作!ダークな世界観をポップなメロとテクニカルプレイで彩った2014年の名盤!
by 関口竜太 · 2020-08-12
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は過去の記事から作品をより詳しく掘り下げるアーカイブ&再編集の第6弾!A.C.Tの5thアルバム『Circus Pandemonium』をご紹介します。
Circus Pandemonium / A.C.T
A.C.T(アクト)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
スウェーデン最南部の都市マルメで1995年にFairylandという名前で結成されたのがA.C.Tの始まり。
マルメの音楽学校に通っていたギターOla Andersson、ドラムTomas Erlandsson、キーボードJerry Sahlin、そしてボーカルのJens Appelgrenの4人はバンド名を早々にA.C.Tへ変更すると翌年にはスウェーデンのバンドコンテストで決勝まで勝ち進みます。
それがきっかけでスウェーデンのインディーズ界隈に名を轟かせたA.C.Tは、精力的なライブツアーを展開。Yngwie Malmsteenのオープニングアクト務めるなど経験と認知度を上げていきます。
そしてここまでに録り貯めたデモ曲によってMTM Musicと契約、1999年『Today’s Report』でデビューを果たします。
2001年には2ndアルバム『Imaginary Friends』をリリースしこの時点で結成からのメンバートマスが脱退、新たにThomas Lejonが加入しました。
キャッチーなメロディとポップな音色、一転ダークでヘヴィなプログレッションと演奏力の高さは定評を呼び、現在までに5枚のアルバムとEP、ライブアルバムを1枚ずつリリース。Fishや元GenesisのRay Wilsonと共にツアーを行うなどその実力も買われています。
本作『Circus Pandemonium』は2014年にリリースされた、フルアルバムとしては現状最新作。2006年以降、大手プログレッシブレーベルのInside Outとの契約も交わし本作はヨーロッパとアメリカのみならず日本盤もリリースされました。
アルバム参加メンバー
- Herman Saming – Vocal
- Ola Andersson – Guitar, Vocal
- Jerry Sahlin – Keyboard, Vocal
- Peter Asp – Bass, Synthesizer, Percussion
- Thomas Lejon – Drums, Percussion
その他参加ミュージシャン
- Linnea Olnert – Vocal on #3,5,11,12
- Sara Wendelford – Vocal on #10
- Peter Rider – Voice
- Imogen Ross – Voice
- Jim Gilmour – Keyboard solo on #9
- Martin Svensson – Strings & orchestra
- Martin Rudefelt – Samples & Fx
楽曲紹介
- Intro
- The End
- Everything’s Falling
- Manager’s Wish
- A Truly Gifted Man
- Presentation
- Look at the Freaks
- Argument
- Confronation
- A Mother’s Love
- The Funniest Man Alive
- Scared
- A Failed Escape Attempt
- Lady in White
- Freak of Nature
タイトルから、今作はとあるサーカスで起こった大混乱を歌ったコンセプトアルバムとなっています。サーカスというミニマムな空間で起こる醜い人間模様を描いた悲劇を明るいサウンドに乗せ皮肉に描いていきます。
1分ほどの#1「Intro」から盛り上がるように幕を開ける#2「The End」。ミュージカル調な雰囲気とポップに展開されるメロディに、プログレなのかと一瞬戸惑ってしまいそうですが、2:38〜のインストパートではコミカルなSEも含んだキメとギターソロ、テンポチェンジからヘヴィでダークな展開へと堕ちて行ったりとかなりプログレッシブ。明るいメインリフやサビとのギャップが聴きやすさを増長させています。
楽しかったサーカスが一転、客が逃げ惑う本編へ導入していく#3「Everything’s Falling」。スリリングなサビと豊かなコーラスにフックを効かせた中盤のパートというラフ&タイトが入れ替わる巧みな構成。スピード感を増す2:17〜のインターバルも独特の緊張感があります。
ズンズンと2発打つキメでヘヴィさと緊張感を引き出す#4「Manager’s Wish」。対位的に配置されたコーラスや独特にダークなヴォイスが不気味さを醸しつつ、Herman Samingのクリアで柔軟なボーカルが常に曲をリードしていきます。2:58〜のインターバルはDream Theater的でハードなバンドとピアノとのコントラスト、弾むようなメロディテーマとの掛け合わせを堪能できます。
前半のハイライトとなる#5「A Truly Gifted Man」。QueenやMaroon5を思わすコンテンポラリーなピアノと穏やかに進行する曲構成が特徴。インターバルでの4:12〜のテーマはアウトロのギターソロでも使われ、クラシカルながら非常にキャッチーで高揚感を誘うメロディです。
#6「Presentation」、#7「Look at the Freaks」、#8「Argument」、#9「Confronation」はそれぞれ場面を切り取った1分ちょっとのインターバルとして機能。特に喜劇を描いたようなドタバタの#7と高速ブレイクのリフとキーボードソロをフィーチャーした#9が劇的な場面転換をもたらしています。なお、ここでのソロはSagaのキーボーディストJim Gilmour。
#10「A Mother’s Love」は2分半ながら終盤に向けてのピアノバラード。ゲストで参加しているSara Wendelfordがとても澄んだ歌声でヘルマンとのデュオに臨んでいます。
ピアノとギターの4つ打ちにポップなメロディが展開する#11「The Funniest Man Alive」。この曲の他数曲で参加しているボーカルはマルメで活動するカヴァーバンドPartajpatrullenのLinnea Olnert。非常に可愛らしい声が特徴です。1:44〜のギターソロを終えるとその後2分前後からNeal MorseやMagic Pieを思わせるハードなProgインターバルへと突入する楽曲としてもテクニカルな一曲。
#12「Scared」も8ビートを貴重にきらびやかなシンセと緩急のある曲展開を持たせたポップナンバー。一転して#13「A Failed Escape Attempt」はハードな演奏にドラマティックなボーカルパートと佳境らしく緊張感を張った仕上がりです。2:38〜のインターバルではポリリズムを利用したリフやシンセリードからカオスなサンプリングシーンを作ってあったりして曲の良さとは別に造り込みに感動してしまいます。
#14「Lady in White」では流れを失わないハードな演奏に、グロッケンやチェンバロと言ったシンフォニックな要素を盛り込み、そこでファンタジックに歌い上げるヘルマンが印象的です。
そしてラストとなる#15「Freak of Nature」。ローファイなストリングスとピアノによるイントロがハリボテの人間関係を浮き彫りにしているかのようですが、そこからイントロを汲む形で展開していくヴァースや、分厚いコーラスでダークに彩ったサビなど最後まで良メロとアレンジのかっこよさが目立ちます。
なお、4:30〜のアウトロ&コーラスパートはDream Theater「Sacrificed Sons」のオマージュだそうです。聴いてみるとディミニッシュを使用したリフや、リフレインするごとに手数の多くなるドラムなどまさにそれですね。ロックオペラならぬロックサーカスの名盤です!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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