Dukes of the Orient「Freakshow」: Asiaサウンドを追っていくなら今はコレ!John PayneとErik Norlanderによるオリエンテッド・ロックの最新作!
by 関口竜太 · 2020-08-10
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はDukes of the Orient、2020年最新作をご紹介します。
Freakshow / Dukes of the Orient
Dukes of the Orient(デュークス・オブ・ジ・オリエント)はアメリカのプログレッシブ・ロックユニット/バンド。
来歴
アメリカ・ロサンゼルスで2017年に結成したのがDukes of the Orient。
リーダーとなるJohn Payneは元Asiaのギタリスト。
AsiaのオリジナルメンバーであるキーボーディストGeoffrey Downsより1991年にバンドへ誘われ長きに渡り在籍することとなりますが、2006年、Asiaでの活動に有痛感を覚えたペインの口から脱退を告げられます。これによりダウンズとの15年に及ぶパートナーシップは解消しAsia自体も分裂の節目を迎えます。
ペインは当時同じくAsiaのメンバーであったGuthrie GovanやSpock’s Beardの奥本亮を誘いGPSを結成。同時に契約上、ペインがAsiaの名を使用できる微妙な距離感があったため、ここにAsia featuring John Payneも発足、アルバムを一枚リリースしています。
その際、Asia featuring John Payneでキーボーディストとして在籍していたのがErik Norlander。
ペインとノーランダーはそこで意気投合し新生のAOR(アルバム・オリエンテッド・ロック)バンドとしてDukes of the Orientを結成しました。
2018年にリリースされた1stアルバム『Dukes of the Orient』は、ゲストにGuthrie GovanやGPSやYesのドラマーJay Schellenを迎え制作されました。いずれもAsiaから抜け出せていない感は否めないのですが、それはAsiaを結成したJohn Wettonへの敬意なのでしょう。
本作『Freakshow』はこの2020年にリリースされたばかりの最新2ndアルバム。ドラムにはI AMやHome Cookin’のFrank Klepacki、サックス奏者に本格的なジャズバンドで活躍するEric Tewalt、そしてギタリストAlex Garciaという前作から刷新された3人が参加しています。
アルバム参加メンバー
- John Payne – Lead vocal, Guitar, Bass
- Erik Norlander – Keyboard, Vocal
その他参加ミュージシャン
- Alex Garcia – Guitar
- Frank Klepacki – Drums
- Eric Tewalt – Saxophone
楽曲紹介
- The Dukes Return
- The Ice Is Thin
- Freakshow
- The Monitors
- Man of Machine
- The Last Time Traveller
- A Quest for Knowledge
- The Great Brass Stream Engine
- When Ravens Cry
- Until Then
オープニング曲となる#1「The Dukes Return」は、まさしくAORを代表する本ユニットのテーマ曲風な仕上がり。前作よりも渋さが増したペインのボーカルと、セオリーに堅実なノーランダーのピアノ&キーボードが、2020年も健在なAORサウンドを蘇らせています。
#2「The Ice Is Thin」はElton Johnの「Funeral for a Friend」を彷彿とさせる落ち着いたピアノのコードワークと繊細なタッチのリードギターから幕を開けます。1:24〜エレピが入ってからは、曲の雰囲気がグッとポップになります。4つ打ちでリードするリズミカルな鍵盤や、哀愁を漂わすギターソロ、3:26〜のクラシカルなチェンバロなど一つのバラード内で表情をいくつも変える情報量の高い一曲です。
ギターと鍵盤のユニゾンによるヘヴィなリフを持つタイトルナンバー#3「Freakshow」。力強く歌い上げるペインのボーカルと対比して挟み込まれるブラス系シンセのリードも実に硬派。2:15〜はリヴァースするピアノを合図にEric Tewaltのサックスソロもあり、イントロのロックな雰囲気とは初めと後で印象が変わる不思議なナンバーとなっています。
先行シングルとなった#4「The Monitors」。サウンドはやはり、TotoやJourney、そしてBon Joviなど80年代感のあるスタジアム・ロック。しかしながら彼らが目指すAsiaサウンドは元々、イギリスの偉大なミュージシャンの基に作り上げられたものでなのでそこを目指す姿勢と、現代までしっかり息づいているノウハウには感心してしまいます。
7分半に及ぶ大作の#5「Man of Machine」。ドラマティックなボーカルの導入から、エレピ、サックスのリードがアダルトな世界観を描きます。4:14〜の大サビを超えると、さらに転調して流麗なサックスソロとギターソロ。まるで歌謡曲を聴いているかのようなドラマ性に、目の前に人間模様が浮かんでくるようです。
アルバムも折り返し、#6「The Last Time Traveller」は再びピアノとストリングスをベースにしっとりと歌い上げるバラード。2:42〜のインストパートは白玉のピアノにコーラスギターのアルペジオからゆったりと各ソロへ突入。ドラムのインと同時に徐々にテンポアップしてサックス、オルガン、モーグシンセ、ギターとお腹いっぱいなくらいソロを回してくれます。
#7「A Quest for Knowledge」は冒頭、アカペラのコーラスからプログレッシブ溢れるテクニカルリフを展開。その後のコードワークはAORそのものですが、ダークな響きのインターバルや随所に現れるブレイクのキメも含め本作で最もプログレと言える一曲に仕上がっています。
#7の雰囲気を引き継ぐかのような怪しげなイントロを持つ#8「The Great Brass Stream Engine」。その正体はフュージョンの香りも漂わす5分ほどのインストナンバー。Genesis系のシンセリードによるキャッチーでクラシカルなテーマや、中盤においてのファンタジックな展開などとりわけノーランダーへのフィーチャーが強い一曲。
#9「When Ravens Cry」は再びバラード。近年ではKarfagenやThe Psychedelic Ensembleにも引き継がれたファンタジー感の強いブラスシンセでのテーマが特に印象的です。
1stアルバムに比べかなりバラード感の強い作風となった本作ですが、ラストとなる#10「Until Then」もピアノとキーボードをフィーチャーした穏やかなバラードソング。陰鬱な空気感にオルガンやフルートのサウンド、それでいて前向きな力強いボーカルが、近年のプログレにおける焦った空気を落ち着かせ、どっしりと腰を据えて聴くべしと思わせてくれるそんな締めです。
上記でも話しましたが、イギリスのスーパーグループとして商業的に発展したAsiaのサウンドを再現すべくアメリカのミュージシャンがブリティッシュに傾倒せざるを得ないのがこのDukes of the Orientなのですが、完全にソッチ方面になっている1stに比べ2ndである本作ではなんとか自立してみようという実験が垣間見れましたね。
基本的にはキーボードをフィーチャーしたオリエンテッドでミドル感の強い楽曲が並びますが、おそらくここからどう進化するかによってこのアルバムの意味は変わってくるんじゃないかなと思います。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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