Karmakanic「In a Perfect World」: あの日から人は月に行ってないけどプログレはどこまで行ったの?人類進化へ語り掛けるスウェーデンプログレ2014年の隠れた名作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はアーカイブ&再編集第5弾、Karmakanicの『In a Perfect World』をご紹介します。

In a Perfect World / Karmakanic


In a Perfect World

Karmakanic(カーマカニック)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。

来歴


北欧ネオプログレッシブ・ロックの重鎮The Flower KingsのベーシストJonas Reingoldが中心となり、2002年に結成されたKarmakanic

このヨナスという人物は、元々セッションミュージシャンとしていくつものライブやレコーディングをこなす実力派のベーシストでしたが、2000年にThe Flower Kingsに加入。

TFKに加入したことでそのファミリー・ツリーとして枝分かれしたOpus AtlanticaやTime Requiem、Kaipaなど様々なプロジェクトに参加していきます。

そして2002年にAndy Tillison率いるジャズ系プログレロックバンドThe Tangentと、本バンドKarmakanicを結成。

結成当初のメンバーにはTFKやThe Tangentにより繋がった人脈を活かしRoine Stolt、Jaime Salazar、Zoltan Csörz、Johan Glössner、Göran Edman、Robert Engstrand、Tomas Bodinという先述したファミリー・ツリーバンドの例に漏れないメンバーが招集されています。

同年、1stアルバム『Entering the Spectra』でデビューを飾ると、ヨナスの持ち味である作曲センスを活かし、メロディックな構成とラテン〜メタルまでをカヴァーする多ジャンルのプログレッシブ・ロックを展開していきます。

この1stアルバムと続く2ndアルバム『Wheel Of Life』でこそ、身内感の強いメンバー構成とインプロヴァイズされた作風でしたが、作品を重ねるたび徐々に独自の音楽へと発展。

2008年の3rdアルバム『Who’s The Boss In The Factory?』の制作にはロイネやトーマスといったTFKメンバーから独立、ジャズ畑出身のテクニカルギタリストKrister JonssonやキーボーディストLalle Larssonを迎えオリジナリティあるメンバー構成へとたどり着きました。

本作『In a Perfect World』は2011年にリリースされた彼らの4thアルバム。3rdアルバムのメンバーに加えグラミー賞を獲得したキーボード/ボーカルのNils Eriksonを迎え、より洗練された作曲陣とあらゆるジャンルに精通した21世紀のプログレスタイルに進化していきます。

アルバム参加メンバー


  • Göran Edman – Vocal
  • Krister Jonsson – Guitar
  • Jonas Reingold – Bass, Guitar, Keyboard, Vocal
  • Lalle Larsson – Keyboard
  • Marcus Liliequist – Drums
  • Nils Erikson – Keyboard, Vocal

その他参加ミュージシャン

  • Inger Ohlén – Backing Vocal on #1, #3

楽曲紹介


  1. 1969
  2. Turn It Up
  3. The World Is Caving In
  4. Can’t Take It With You
  5. There’s Nothing Wrong With The World
  6. Bite The Grit
  7. When Fear Came To Town

オープニングとなる#1「1969」はいきなり14分の大作。ピアノとストリングスの壮大なイメージにベースソロとスネアロールからの大きなテーマは、伝統的なプログレッシブ・ロックのアイコンです。シンフォニックな大作でありながら本編では明るい印象を持たせているのがいかにもKarmakanicらしい。シンセソロの速弾きから即座にピアノとボーカルのパートに切り替わったりと、シアトリカルな一面を見せる冒険心の強さも発揮、TFKやNeal Morse、Genesisのオイシイところをまとめて集約したナンバーに仕上がっています。

また、タイトルの「1969」は年号を予想させますが、ヨナスの生まれ年である一方、King Crimsonの1stアルバムがチャートインしたことでプログレの始まりを予感させたりと所縁が深いです。アポロ11号が月面に着陸した年でもありこの辺もジャケットに繋がってくるのでしょう。

#2「Turn It Up」は先行シングルでこのアルバムを象徴するナンバー。エレピによるアルペジオをテーマとしたイントロも印象的ですが、ポップでフックの効いたメロディラインとブリッジ〜サビにかけてのインターバルにおけるギターとオルガン、サビのふくよかなコーラスまで全てがキャッチ―に作り込まれています。

ゴーランの威厳あるアカペラから重たいピアノがインしてくる#3「The World Is Caving In」。#1とこの曲でゲスト参加しているInger Ohlénは普段はボイストレーナーの仕事をしているボーカリストですが2ndにも参加した実力者。初期のJeff Beckを思わせるフュージョンライクなキーボードソロや荒々しいロックスタイルのギターソロなどドラマ性のある展開が9分に詰め込まれています。

続く#4「Can’t Take It With You」はフリージャズなピアノから変拍子を交えたラテン系のノリへと発展していく楽曲。パーカッシズムなリズム構成とダウンチューニングを活かしたギターリフとのコントラスト、オルタナを思わせるボーカルワークなどの要素が反発することなく見事に絡んだ素晴らしいナンバー。個人的に本作一押しの一曲です。

#5「There’s Nothing Wrong With The World」は幽玄なストリングスとピアノに、John Andersonを思わせるゴーランのボーカルが導入のサインとなるプログレナンバー。SAW系のシンセリードやクラシカルで粒の細かなピアノの旋律が大胆かつ美しく上品です。3:24〜のユニゾンパートから駆け上がるようなキーボードソロと、アンサンブルが引っ張っていくギターソロは北欧的なヘヴィメタルの雰囲気もあってこれも痛快。

#6「Bite The Grit」はUKジェントルな香り漂う冒頭のヴァースに、King Crimson風のヘヴィなロックサウンドとクールなピアノビートをスイッチした実験的ナンバー。これまで以上に多いジャジーなアプローチのピアノがシンプルな曲にも彩りを添え、豪華な印象を持たせています。

本編ラストとなる#7「When Fear Came To Town」。ウェスタンなブルースギターに乾いたボーカルが響く10分弱のバラードソング。ウッドベースによるジャズな雰囲気はPat Metheny & Lyle Maysの「As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls 」も彷彿とさせます。5:30〜はストリングスのみによる穏やかでひたすらに雄大な時間が流れる贅沢なアンビエントを堪能。ジャズドラムとピアノによるさりげないインも、アルバムのクローズを知らせる鐘のようでそれが切なく寂しく響きます。クライスターのアダルティなソロからは#1のテーマのオマージュも聴かれ、トータルアルバムとしての締めも完璧です。

なお記述はしていませんが、ボーナストラックには#2を短く編集したRadio Edioを収録しています。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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