Kansas「Leftoverture」: ブルースロックとプログレを併せ持つ’76年の超名盤は400万枚のベストセラー!果てなき伝承の航海へ乗り出す米ハードロックの4thアルバム。
by 関口竜太 · 2020-07-27
こんにちは、ギタリストの関口です。
まず先に、先日【Twitter連動】「#私を構成する16枚のプログレアルバム」一気にご紹介!という記事を書いたのですが、その中の一枚にKansasの4thアルバム『Leftoverture』を挙げました。
各アルバム紹介の後には関連記事のリンクも載せていたのですが、実はきちんとこのアルバムを紹介していなかったことに気付きました。なので今日は実に2年を経て、自分にとっても重要なこちらの一枚をご紹介します。
Leftoverture / Kansas
Kansas(カンサス)はアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1970年代のプログレッシブ・ロックムーブメントがヨーロッパからアメリカの地へ流れた際、その土地で古くから根付くブルースロックとプログレとが結びつくのはある意味で必然だったと言えます。
Kansasはそんなアメリカで、1969年に結成されたWhite Clover Bandからその歴史が始まります。
元々Frank Zappaから影響を受けた前衛派のバンドでしたが、イギリスのプログレッシブ・ロックに衝撃を受けたことをきっかけとして同路線へ変更したことで、現在のスタイルを作り上げていきます。その際に活動拠点であったカンザス州トピカからバンド名をKansasに変更します。
バンドは1974年に1stアルバム『Kansas』でデビューをすると、時代の追い風もあって人気に火がつきます。1975年の2ndアルバム『Song For America』と続く3rdアルバム『Masque』ではいずれもゴールドディスク(日本でいうハーフミリオン)を獲得しており、単にプログレッシブな音楽の人気だけではなく大衆的なアプローチと活動拠点が肌に合っていたというのもありそうです。
この頃に現れた商業的に成功を収めるアメリカ産のプログレバンドを総称してアメリカン・プログレ・ハードと呼びますが、Journey、Boston、Totoなどに並びKansasもこの括りの代表格になります。
その中で、本場イギリスやヨーロッパにおけるプログレッシブ・ロックとは違いシンセサイザーを多用したに止まるアメリカン・プログレ・ハードにおいて、Kansasは数少ないオーセンティックなプログレの伝承者でもありました。
1976年にリリースされた本作『Leftoverture』は、まさにそんな「伝承」という言葉がぴったりの、Kansas最大級のヒット作品。シングルである「Carry on Wayward Son」を初め400万枚を売り上げる大ヒットを記録したことでそこから一躍人気バンドとして多忙な日々を送ることとなります。
アルバム参加メンバー
- Steve Walsh – Vocal, Organ, Piano, Vibe, Synthesizer
- Rich Williams – Guitar
- Kerry Livgren – Guitar, Piano, Clavinet, Synthesizer
- Robby Steinhardt – Violin, Viola, Vocal
- Dave Hope – Bass
- Phil Ehart – Drums, Percussion
その他参加ミュージシャン
- Toye La Rocca, Cheryl Norman – Children voices on #7
楽曲紹介
- Carry on Wayward Son
- The Wall
- What’s on My Mind
- Miracles out of Nowhere
- Opus Insert
- Questions of My Childhood
- Cheyenne Anthem
- Magnum Opus
a. Father Padilla Meets The Perfect Gnat
b. Howling At The Moon
c. Man Overboard
d. Industry On Parade
e. Release The Beavers
f. Gnat Attack
#1「Carry on Wayward Son」は言わずと知れた彼らの代表曲。3小節から成る変則的なリフにジミヘンコードも絡めたブルージィなイントロが特徴的。キャッチーなメロディラインにサビの分厚いコーラスワークは、まさに米英のクロスオーヴァー的アレンジと言えるでしょう。インターバルに置けるオルガンとギターのソロパートも4/4ながらトリッキーで親しみやすさが何よりの武器。
なお、この曲は当時映画の主題歌に使われた他、後にカンザス州が舞台となった海外ドラマ「Supernatural」のテーマ曲としても使われています。
叙情的なリードギターのイントロが哀愁を漂わす#2「The Wall」。ヴァースからサビに向けて一連の流れとなったコード進行が印象的で、徐々に盛り上がっていく構成に聴き手側が感情移入しやすいようになっています。
リッチの繊細でエモーショナルなギターももちろんですが、ロビーのオブリ的なストリングスも曲にシンフォニックな盛り上がりをプラスしていて影の功労者。個人的な見解ですが、3:35〜のクロージングはDream Theaterの「Six Degrees Of Inner Turbulence」のヒントにもなっていると思っています。
初期Kansasにはその音楽にアメリカの伝統的な名残がありますが、#3「What’s on My Mind」もそんなブルース&ロックの印象が強い一曲。リフからは若干尾崎亜美などロック式歌謡曲の匂いも感じられます。1:46〜のワウギターソロも当時としてはまだまだ新鮮ですね。
バンドで生ストリングスを担当しているロビーのボーカル曲がこのアルバムには2曲ほど収録されており、#4「Miracles out of Nowhere」はそのうちの一つ。イントロからタイトかつアジアンテイストも思わせる美しいストリングスとアコギ、そして独特な節のボーカルが浮遊感を生み出します。2:22〜はウォルシュによるオルガンを主導に変拍子のインストパートが繰り広げられ、何重にもなるアンサンブルを最終的にヴァイオリンがまとめるというかなりロビー本意の一曲。
#5「Opus Insert」はオルガン、モーグシンセ、アコースティックギターをベースに構築されたトラッドフォークなナンバー。Yesなどブリティッシュな雰囲気があるのが特徴となっています。
#6「Questions of My Childhood」はリズミカルなピアノのバッキングに滑らかなシンセリードとオルガンによるメジャーな雰囲気が気持ちのいいポップナンバー。ギターはほぼ感じられず鍵盤とストリングスでバッキングの大半を担っているのが印象的です。
ロビーのボーカルが聴ける#7「Cheyenne Anthem」。 アコースティックギターとピアノによる導入から転調を繰り返しドラマティックに展開していく長尺曲。グロッケンとヴァイオリンのカウンターパートやズチャズチャという喜劇的なリズムパートなど、プログレの暗い雰囲気を覆す斬新さも持ち合わせた名曲です。
そしてラストとなる#8「Magnum Opus」。大仰しくも邦題にそのまま「超大作」と付いたナンバーで、8分という尺ながらサブタイトルで6つのパートに分かれ、その大半がインストという思い切った楽曲。
イントロからシンフォニックかつ大々的なテーマが持ち出され、ある意味#1よりも当時のKansasを印象付ける結果となっています。2:45〜からクロージングまで丸々インストとなりますが、Emerson, Lake & Palmerを彷彿とさせるオルガンのアンサンブルを見せたかと思えば、段階的に転調やテンポチェンジを繰り返し目まぐるしくワープを続けるファンタジーなKansasワールドが広がっています。
現代的な感覚で改めて聴くと、もっと各パートごとのテーマを長くとって聴いてみたい気もするのですが、このスピード感とテンポの良さがなんとも言えず爽快というか…アメリカナイズされたポップなプログレの形態を最後の最後で打ち壊す、「勘違いしないでくれ」というKansasの意地みたいなものを感じますね。
なお2001年以降のリマスター版や初期のアルバムをまとめたボックスセットでは、ボーナストラックとして「Carry on Wayward Son」と「Cheyenne Anthem」のライブバージョンが収録されています。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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