Kansas「The Absence of Presence」: ベテラン米プログレハードの最新作!盤石な音楽性とアップデートされた演奏力が優越感の世界に誘ってくれる名盤が誕生!
by 関口竜太 · 2020-07-20
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はKansasの2020年最新アルバムをご紹介します。
The Absence of Presence / Kansas
Kansas(カンサス)はアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1969年にFrank Zappaに触発されたWhite Clover Bandがその前身。
激しいメンバーチェンジの中で中心人物であるドラムのPhil Ehartが、1972年にイギリスのプログレッシブ・ロックに衝撃を受け同路線へ変更したのが始まりで、その際に活動拠点であったカンザス州トピカからバンド名をKansasに変更します。
デビューから順調にセールスを重ね、1976年の4thアルバム『Leftoverture』が大ヒットを記録。一気に多忙になったスケジュールの合間を縫って制作された5thアルバム『Point of Know Return』は、彼らの中でも最高位となるビルボードランキング4位を叩き出します。
そうしてプログレッシブ・ロック全盛期に、おおよそイギリスのバンドが受けてきたような輝かしい時代がアメリカのKansasにも与えられることとなりますが、80年代に入るとジャンルの衰退や台頭するよりハードなバンドの登場もあり、1983年の9th『Drastic Measures』での不振を見た翌年に活動を休止します。
1985年に一度は脱退したオリジナルメンバーのSteve Walshがバンド復帰。10thアルバム『Power』を初め、インコンスタントながら2000年ごろまでアルバムをリリースし続けます。
また90年代からはDream TheaterやSpock’s Beardなど、同じアメリカから彼らのサウンドや音楽構築に影響を受けたバンドが登場し始めています。
2014年にウォルシュが再び脱退すると新たにキーボードボーカルであるRonnie Plattが加入。さらにその2年後にはリードギタリストにZak Rizviが加入し実に16年ぶりとなる『The Prelude Implicit』をリリース、往年のファンを沸かせました。
本作『The Absence of Presence』はそんな新体制Kansasによる4年ぶりのニューアルバムで、この間新たにキーボーディストTom Brislinを迎え、より進化を遂げたKansasスタイルがそこに健在しています。
アルバム参加メンバー
- Ronnie Platt – Lead vocal, Keyboard
- David Ragsdale – Violin, Guitar
- Tom Brislin – Keyboard
- Richard Williams – Guitar
- Zak Rizvi – Guitar
- Phil Ehart – Drums, Percussion
- Billy Greer – Bass, Vocal
楽曲紹介
- The Absence of Presence
- Throwing Mountains
- Jets Overhead
- Propulsion 1
- Memories Down the Line
- Circus of Illusion
- Animals on the Roof
- Never
- The Song the River Sang
時代が変わろうともそのサウンドキャラクターや大衆を惹きつける音楽に変わりがないのが、何よりKansasが愛されるポイント。
水滴のような波紋のピアノから幕を開ける#1「The Absence of Presence」。クラシカルなヴァイオリンやピアノとボーカルによるヴァースなど、70年代の彼らを好きだった人がまたその音を堪能できる盤石な一曲。冒頭から8分に及ぶ長尺ですが相変わらず叙情的でパワーのあるメロディとアップデートされたサウンドスケープで、あっという間に惹きこまれてしまいます。
#2「Throwing Mountains」は先行シングルしてMVも制作された曲。ハードロックなギターリフに抜けてくるヴァイオリンが心地よく、アメリカン・プログレ・ハードの名に恥じないエッジの効いた一曲です。3:00〜のインストパートではテンションも高く、ハードシンフォに攻める一方、新ギタリストザックのテクニカルなプレイにも進化を感じます。
シングル第二弾として発表された#3「Jets Overhead」。ハードなBig Big Trainといった風情で歌こそアメリカンなオリエンタルロックですが、ヴァイオリンが丁寧にメロディを紡ぐシーンとソロで暴れるそのスイッチ具合に感情が揺さぶられます。
インターバルとなる小インスト#4「Propulsion 1」。ベースとピアノによる重低音のアンサンブルとハモンド、そしてツーバスを披露するドラムなど現体制Kansasのポテンシャルの高さをここで感じます。
#5「Memories Down the Line」は全体を通すとピアノとボーカルメインのバラードなのですが、2:00〜のモダンクラシックなテーマがこの曲に対する評価を一段上へと上げています。
#6「Circus of Illusion」はハードシンフォニーな雰囲気とディレイを使ったギターフレーズのマス的なモダンさが融合した一曲。イハートのタイトなブレイクを初め『Leftoverture』を彷彿とするドラミングが蘇ります。
#7「Animals on the Roof」は疾走感とそれに伴う良メロを追求したオリエンタルロック。オルガンとパッドを合わせた独特のアルペジオとスケール的なヴァイオリンのインターバル、そして後半、衰えを知らないイハートのドラミングが力強く響きます。
ピアノバラードの#8「Never」。先ほど、Kansasの音楽が後にDream Theaterへの影響へ繋がっているという話をしましたが、ブリスリンのキーボードやザックのギターを聴いていると逆にこちらがDream Theaterのように感じる瞬間があり、いわば影響の逆輸入ですよね。長く続きかつエネルギッシュなバンドだからいえることだと思います。
ラストとなる#9「The Song the River Sang」。ブリスリンによって作曲されたこの曲は。シンセのフェードからシーケンス的ピアノ、そして広大な物語を思わせるようにギターリフに対し色んな楽器が参入してくるいかにもシンフォニック主体な一曲。
美しくそれでいて壮大で、程よい緊張感とミステリアスさが往年バンドの実験的一面を想像させます。3:20〜はクロージングとなりますがKing Crimsonのように暗く異様な空気の中、うめき声やエフェクティブな音が多方面から流れてきます。Kansasがここまでダークな曲を提示してくるのかと驚くことでしょう。
頭からつま先まで優美で上品なロックサウンドを提供してくれるだけでなく、その全てがハイクオリティ、正統にアップデートされた演奏技術と根元が変わらない音楽性。そして過去に積み上げた栄光にのみすがらず現在進行形で実験を繰り返しているそのトータルバランスは正直想像以上でした。
バンドの特徴であるヴァイオリンサウンドは暖かくもそれを含んだ全体のミックスはモダン的で何と心地よいことか。間違いなく2020年のベストアルバムの一枚に入り込める作品だと、久々に優越感に浸っています。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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