Arabs In Aspic「Madness and Magic」: 自然豊かな雰囲気を醸すノルウェー産ストーナー・ロックの最新作!オールドスクールなプログレとエスニックの融合が魅力的!
by 関口竜太 · 2020-07-07
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はノルウェーのバンドArabs In Aspicのニューアルバムをご紹介します。
Madness and Magic / Arabs In Aspic
Arabs In Aspic(アラブス・イン・アスピック)はノルウェーのプログレッシブ・ロックバンド
来歴
ノルウェーの中部に位置する都市トロンハイム。997年にヴァイキング王であったオーラヴ1世により作られた河口地帯のこの街で、それから1000年後の1997年に結成されたのがArabs In Aspic。
ギターボーカルJostein Smebyとギタリスト兼テルミン奏者であるTommy Ingebrigstenの二人は1970年代のヘヴィロックに対する嗜好が似ていたことで意気投合。
当時他のメンバーにはハモンドオルガンをメインに扱うキーボードプレイヤーとして”Mysterious” Magnar、ドラムのEskil Nyhusとその弟でベーシストTerje Nyhus。弟のテルエが脱退してから一時はArabs In Aspic IIという名前でも活動していました。
それからメンバー変遷を繰り返し2009年に待望の1stアルバム『Strange Frame of Mind』でデビュー。この頃トミーとマグナはバンドを抜け、ベースは現在のErik Paulsenが担当しています。
彼らの音楽はBlack SabbathやKing Crimsonと言ったオールドなハードロックやプログレッシブ・ロックをルーツに持ち、かつ60年代のサイケデリック・ロックも取り入れた所謂ストーナー・ロック。「麻薬の常習」をその名に持つこのジャンルは1990年ごろに起源があるハードロック、ヘヴィロックのサイケデリック版と思っていただければ当たらずも遠からずです。
実際、Arabs In Aspicのジャケットは油で描かれた色彩豊かなデザインが特徴で、そこに裸の女性や草木、動物など自然と共存している人間の営みが垣間見れます。
コンスタントにアルバムをリリースし続け本作『Madness and Magic』は彼らの5枚目となる2020年最新作です!
アルバム参加メンバー
- Jostein Smeby – Guitars, Vocal
- Stig Jørgensen – Organs, Vocal
- Erik Paulsen – Bass, Vocal
- Eskil Nyhus – Drums
- Alessandro G. Elide – Percussion, Gong
楽曲紹介
- I Vow to Thee, My Screen
- Lullaby for Modern Kids, Part 1
- Lullaby for Modern Kids, Part 2
- High-Tech Parent
- Madness and Magic
- Heaven in Your Eye
本編とはあまり関係ないのですが、個人的にジャケットがえらく好み。色使いとか原始的な生活を思わせながら女性も狼もとても高貴な雰囲気を感じさせます。
少し昔のマジック・ザ・ギャザリングのカードイラストにこういうタッチのものが多かった気がするのですが、「Madness」や「Magic」といった単語にも思わずニヤリとしてしまいます。
話はそれましたが本編です。
一曲目となる#1「I Vow to Thee, My Screen」はいきなり8分の長尺曲。バンド名が「アラブ」ながらノルウェー出身なのですが、パーカッションやアコースティックギターなどエスニックな雰囲気は常に感じます。
基本的には2,3のパートを繰り返すテーマ的な一曲ですが、叙情的なアルペジオと裏のモーグ系シンセがサイケな世界へと引き込みます。ボーカルも70年代後期Pink Floydのような特徴があってこのオールド感を2020年で味わえるのかと感心してしまいます。
#2と#3には合計10分となる組曲「Lullaby for Modern Kids」を収録。オールドなプログレッシブ・ロックをベースにした特徴的なベースやコーラスはJethro Tullの雰囲気もあります。フックの効いたメロディやKing Crimsonを思わすダークな変拍子リフ、オルガンやクアイアも巻き込んだ壮大なシンフォニック・ロックです。
#2ではアグレッシブなプログレですが、#3ではメロトロンを基調としたフォークトラッドなバラードとなっています。
#4「High-Tech Parent」はオルガンと12弦ギターによるポップな楽曲。ここでのオルガンはプログレというよりフュージョンに近い解釈です。本作から加入した新メンバーAlessandro G. Elideによる多彩なパーカッションサウンドが各所で踊りながら牧歌的なボーカルやコーラスワークが光る一曲です。
タイトルナンバーとなる#5「Madness and Magic」。きらびやかなアコースティックギターのアルペジオに誘われたバラードで、イントロでのフルートや裏メロ的なベースラインも楽曲に奥行きをもたらします。The Beatles的なメロディラインは耳馴染みもいいですが、5:20〜はSAW系のシンセリードもありこの辺はGenesisも含んだ感じがしますね。
そしてラストは16分を超える大作#6「Heaven in Your Eye」。ファンタジックなエレピにアコースティックギターのアルペジオ…と導入はこれまで通りのもの。ボーカルパートは若干ですがポップスというか商業的な側面を持ったバラードに仕上がっていてボーカルのJostein Smebyが丁寧に歌い上げ、周りのコーラスも厚くそれを支えています。
2:00〜はヘヴィなギターリフと共にストーナーな雰囲気を徐々に広げていきます。サイケデリックなシンセや宇宙感のあるリードサウンドもそのままこのバンドを象徴するエビデンスになっています。
大作曲でありながら中身は細かくセクションが別れていて、6:00〜はエスニックな雰囲気にワウペダルのギターソロが混じるなど民族感の強い一面も。
基本はボーカルパートをこなしていき極端なインストパートなどもないのであまり力を入れずに楽しんでいただきたい大作曲、もとい本アルバム。
ノルウェーのプログレはもっとUKの流れを含んだイメージが強かったのですがブラジルやスペインなど若干キワモノとしての音楽性を持ち合わせているところが非常に面白いです。この魅惑の音楽とジャケットアートの美しさに惹かれたら是非チェックしてみてください!
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タグ: Arabs In Aspicサイケデリック・ロック北欧プログレ
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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