Spheric Universe Experience「The New Eve」: テクニカルを捨てたのは時代の先を行っていた可能性!音質を向上させシンプルに徹した仏産プログレメタル2012年4th作!

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はSpheric Universe Experienceの4thアルバム『The New Eve』をご紹介します。

The New Eve / Spheric Universe Experience


New Eve

Spheric Universe Experience(スフェリック・ユニバース・エクスペリエンス)はフランスのプログレッシブ・メタルバンド。

来歴


まずは結論から。

本作はSUEが2012年にリリースした4thアルバムとなりますが、これ以降彼らは新曲および新たなアルバムをリリースするには至っていません

それが単にセールス的な問題なのかメンバー間に置ける問題なのかは不明ですが、バンドは解散しておらずメンバー個人のSNSでもバンド名を肩書きとして使っているところから、フランス国内でまだまだ活動はしている様子

さて、そんなバンドの始まりは1999年。

ギタリストVince BenaimとベーシストJohn Draiはプログレッシブ・メタルを中心に演奏するバンドの実現へ向け、バンドをいくつか転々とした後、その母体から2002年に改名をしたSpheric Universe Experienceへたどり着きます。

その後キーボーディストが加入したり1stデモアルバムでボーカルFranck Garciaが加入したことでバンドはほぼ完成形へ。

バンドは2005年に『Mental Torments』にてメジャーデビュー。テクニカル系プログレッシブ・メタルのスタイルで、続く2007年リリースの『Anima』では日本でも話題になります。

『Anima』で、ザクザクとしたメタルギターにデジタル成分の強いシンセサイザーとドラマティックな展開を基本としたSUEスタイルを確立。そこから2年後の2009年には延長線上とも言える3rdアルバム『Unreal』をリリースしています。

基本的にメンバー間の中は良好ですがドラムのみ変遷が激しく、現在まで6度変わっています。この『Unreal』期に加入したChristophe Briandはそこから4年間バンドに貢献し本作でも腕を奮った実力派のドラマーでした。

さて、そんな具合でDream Theaterなどテクニカル系プログレメタルスタイルをフランスで体現、幾度とないドラマーの交代にもめげず、一応はバンドの現状最新作となるのが本作『The New Eve』となります。

アルバム参加メンバー


  • Vince Benaim – Gutiar
  • John Drai – Bass
  • Fred Colombo – Keyboard
  • Franck Garcia – Vocal
  • Christophe Briand – Drums

楽曲紹介


  1. Shut Up
  2. The New Eve
  3. Escape
  4. Never Heal
  5. Angel
  6. The Day I Died
  7. In This Place
  8. Self Abuse
  9. My Heart on The Cross

1stアルバムからここまでこのバンドをチェックしてきて感じるのは、本作がこれまでの長尺かつプログレッシブなスタイルからかなり逸れたということ。

#1「Shut Up」ではアップテンポなグルーヴにメタリックなギターリフと、これまでよりかなり垢抜けた様子の楽曲を披露。彼らの特徴であるメロディックなボーカルラインは元より「Hey! Hey!」とオーディエンスを意識した曲作りにも着手しており、3rdまでの陰鬱な空気が晴れているのを感じます。

続くタイトルトラック#2「The New Eve」。基本形態であるザクザクのギターリフはベースにしつつ若干オルタナメタルに偏った楽曲です。デジタル配色なシンセサウンドは健在ですがギターソロのスペースもなくバンドとしてのパワーで押していくのが本作の基本テーマ。

突き抜けるスネアのフィルから飛び込んでいく#3「Escape」。ダウンチューニングの重たいギターサウンドを武器にしたスピードナンバーで、SUEならではのメロディックさにも拍車がかかります。中盤にはフリーキーなハーモナイズのギターソロも。

#4「Never Heal」は デジタルシーケンスに変拍子のヘヴィリフを融合させた本作随一のプログレナンバー。16分のきめ細かさを意識したリフが、明らかにこのバンドのノリを改善しています。

珍しく本格的なバラードとなった#5「Angel」。アコースティックギターにFred Colomboのピアノが絡むヴァース。とても読みやすいハードなサビへの展開など超王道のメタルバラードです。なぜかバンドからピアノの独奏へ移る4:50ごろ、急なフェードアウトがされているのですがそれ以外はゆったりと身を任せられる一曲です。

ギターのアルペジオから導入してパルス的に刻まれたシンセのイントロが特徴的な#6「The Day I Died」。Circus Maximusのようなどっしり構えたプログレメタルに仕上がっていて曲もよくまとまっています。

#7「In This Place」は初期のSUEを感じさせるスピードメタルナンバー。ところどころでフックの効いたメロディラインはもはやお手の物で、過去3作に比べればそれはシンプルなメタルに違いないですが、逆にメタルとしての洗練さはずば抜けてますね。ギターソロはシンセとのユニゾン。

終盤に突入し#8「Self Abuse」。この例えが的確かは微妙ですが、初期のJanne Da Arcが持っていたような不気味で浮遊感のあるメタルナンバー。Djentとは違う別の歯切れを求めてひたすら音圧高めに攻め込んでいく一曲で、ギターソロはないのですが終始タイトでおそらく聴こえている以上にアスリート

そしてラストとなる#9「My Heart on The Cross」。歪んだギターをモチーフにしたようなシンセのリフからスローに導入していくイントロです。

ヴァースへ繋ぎに若干強引さを感じつつもラストの大サビに向けて一方的に進行していくドラマティックなナンバー。Franck Garciaの絞り出すようなボーカルと、アンサンブルにおける堅実なプレイとのギャップが今となってはどこか寂しい様子も。ラストはキメからスパッと切り、それを逆再生のディレイにかけることで不思議な余韻を残しています。

このように、過去3作と比べると特別変態的な拍子や長尺のインターバルおよび楽曲がなく、もはや別バンドにすら思うSUEの最終作ですが、ガルシアの特徴的なボーカルとバンドの持っている作曲センスは健在だし、何より過去の3作品に比べて圧倒的に音がいいです。

テクニカルだけど音が悪くて楽しめないと言うのなら、本作はテクニック面は凡でも音がいいから許しちゃう、そんな一枚。リリースから今年で9年、そろそろ新作が欲しいところですがその是非は本人たちこそ知るところなのでしょう。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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