King Crimson「Islands」: あえてコントロールしないフリーな制作が肝!いよいよ暗黒の時代へと乗り出すレジェンドの神話的4th作!
by 関口竜太 · 2020-06-23
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はKing Crimsonの1971年作「Islands」ご紹介します。
Islands / King Crimson
Islands, 40th Anniversary Edition
King Crimson(キング・クリムゾン)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1968年、ドラマーMichael Giles、ベースボーカルPeter Gilesのジャイルズ兄弟とギタリストのRobert Frippを中心に結成されたKing Crimson。
1969年1stアルバム『In the Court of the Crimson King (邦題:クリムゾン・キングの宮殿)』にて衝撃的なデビューしたクリムゾンでしたが、1stアルバム発表後にイアンとジャイルズが脱退。バンドは早くもオリジナルのラインナップを崩壊させました。
レーベルとの契約消化のためアルバムを作り続けなくてはならなかったKing Crimsonは、新たにサックス奏者Mel Collinsを勧誘、ゲストミュージシャンの参加協力も得て1970年に2ndアルバムとなる『In the Wake of Poseidon (邦題:ポセイドンのめざめ)』をリリースします。
しかしアルバムのリリースを控えた局面で、ボーカルのグレッグがEmerson, Lake & Palmer結成に流れてしまいそのまま脱退というさらなる憂き目に遭います。
アルバムを出したのにライブツアーも行えない現状に業を煮やしながら、同年さらなる新譜『Lizard』をリリース。このときのボーカルはイングランドのシンガーGordon Haskellを迎え制作されました。
『Lizard』の後、アルバムでピアノ担当していたKeith Tippettの依頼でフリップは60名を超える大型ジャズバンドCentipedeに参加。ここで知り合ったボーカルBoz Burrellと、EL&PのKeith Emersonの紹介でオーディションをしたドラマーIan Wallaceがバンドに新加入します。
そして作詞家シンフィールドが影響を受けたギリシャ神話の「オデュッセイア」を元ネタに、その世界観を描いた4thアルバム『Islands』が完成しました。なお、ジャケットもピートデザインによるものですが、このアルバムを最後にシンフィールドはフリップより解雇を言い渡されており、これは制作の合間のライブ活動による険悪化が原因と言われています。
アルバム参加メンバー
- Robert Fripp – Guitar, Mellotron, Organ, Synthesizer
- Peter Sinfield – Lyrics, Synthesizer
- Mel Collins – Saxophone, Flute, Vocal
- Ian Wallace – Drums, Percussion, Vocal
- Boz Burrell – Bass, Vocal
-
その他参加ミュージシャン
- Paulina Lucas – Soprano vocal on #1
- Keith Tippett – Piano
- Robin Miller – Oboe
- Mark Charig – Cornet
- Harry Miller – Double bass on #1,6
- Uncredited musicians – Strings on #5,6
楽曲紹介
- Formentera Lady
- Sailor’s Tale
- The Letters
- Ladies of the Road
- Prelude: Song of Gulls
- Islands
このアルバム特有のエピソードとしては、ライブの合間を縫ってレコーディングを繰り返したため反動で思いつくがままに制作状況が変わっていったというものがあります。
厳格で、全てをコントロールしたがるフリップとパートナーであったシンフィールドとの文字通りコントロール作である『Lizard』とは対照的に音楽的側面がガラッと変わった印象がありますね。
#1「Formentera Lady」は1曲目から10分を数えるナンバーで、ソプラノ歌手のPaulina Lucasが前回に引き続き参加しています。冒頭は前作同様存在感を見せつけるティペットのピアノと、コリンズのフルート、そしてチェロなど低音のストリングスが独特の雰囲気を作り出します。
ボズのこれまた儚げなボーカルとアコースティック・ギター、そして点在的に散らばるパーカッションから成るアンビエントは自由な演奏形態をさらに押し進めた生々しさを感じます。
#1のクロージング、ライドから繋がっていく#2「Sailor’s Tale」。こちらはインスト曲ではありますがテクニカルなベースリフにKing Crimsonらしいブラスのテーマが描かれます。メルのサックスソロや荒れ狂うフリップのギターソロに釣られるようにウォレスのドラムも激化していく様子が実に情熱的です。
4分程度の歌モノとなる#3「The Letters」。今にも消えてなくなりそうなほど儚いボーカルの導入から、ブラスとエレキギターによる攻撃的なリフ。トーンダウンさせてからのサックスソロの合間もドラムやギターが好き勝手演奏していてジャズやそれに準じたジャムフリーな嗜好を察します。
#4「Ladies of the Road」はフリップのフリーなギターにボズがボーカルを乗せる導入。この辺はほとんどアカペラですね。1分以降から突き上げるようなブラスが入り奇妙にも楽曲を支配して行きます。
3:15〜は大胆なピアノのクリシェにメロディックなコーラスを加えたいい意味での裏切りがあったり終始不穏な空気の中でも情報量が極めて高い一曲となっています。
#5「Prelude: Song of Gulls」は#6のイントロの役割を持つ4分ほどのインスト。古き良きメロトロンサウンドと、豪華で上品なストリングスとのアンサンブルが美しい一曲です。
そして繋がるラストナンバー#6「Islands」。ピアノとメロトロンが奏でる哀愁のバッキングにボズの繊細なボーカルが憂いげに響きます。個人的にはこのまま『Red』に繋がって行きそうな暗黒さもありながら、オーボエやコルネットなどのシンフォニー要素と何よりピアノが本当に名演。
プログレッシブ・ロックが「暗い」と言われるのはKing Crimson所以のものですがそのたまらなく切ない空気感を本作の最後、10分に渡って堪能できます。
バンド自体インプロ感の強い特性を持っているKing Crimsonですが、『Lizard』きっかけとし、本作は特にジャズバンドCentipedeへの影響も強かったと言えるでしょう。
フリップはこの翌年に解散を決意し、新たなメンバーと「本当の暗黒」である全盛の第3期クリムゾンへと進んでいきます。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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