Kotebel「Structures」: 北太平洋を渡りスペインで展開するスペイン産プログレ!「今あるプログレ」の本質的な発想に着手したニューエイジ作品!
by 関口竜太 · 2020-06-21
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日は2000年に発表されたKotebelの1stアルバムをご紹介します。
Structures / Kotebel
Kotebel(コテベル)は、スペインのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1999年、スペインのマドリードでベネズエラ人のキーボーディストCarlos Plaza(カルロス・プラザ)が、自らのソロプロジェクトとして立ち上げたのが始まり。
Kotebel自体は現在はプログレッシブ・ロックの体で活動を続けるバンドですが、カルロスに関しては後期ロマン派やモダンクラシックからの影響が強いとされ、バンドサウンドながらその旋律やアレンジにはラフマニノフ、ラヴェル、ドビュッシーなどからの特徴が大いに見受けられます。
本作『Structures』はそんなKotebel名義でのデビュー作であり、カルロスプロデュースの船出。
ゲストにはフルート奏者Omar Acosta(オマール・アコスタ)とドラマーCarlos Franco(カルロス・フランコ)、そしてタンバリン奏者にAdriana Plazaを(アドリアーナ・プラザ)を迎え制作されました。
アルバム参加メンバー
- Carlos Plaza – Keyboard, Bass, Percussion, Drums, Programming
その他参加ミュージシャン
- Omar Acosta – Flute
- Adriana Plaza – Tambourine
- Carlos Franco – Ethnic percussion
楽曲紹介
- Structure 1
- Structure 2
- Structure 3
- Structure 4
- Structure 5
- Structure 6
- Structure 7
2017年に最新作『Cosmology』をリリースしたKotebelですが、その記念すべき一作目となる本作はカルロスが影響を受けたクラシック音楽に、変拍子や煌びやかなシンセサイザーも取り入れたVangelisに近いニューエイジな作風。
「Structure」という「構造」を意味する同タイトル7曲を収録。クラシック畑で育った経緯からこれらが組曲でないとは言い切れないものの、そもそも各曲が近しい音楽性の基構築されており、かつオールインスト作品でもある(歌詞がない)ので、明確に一曲50分としていいものかは悩みどころです。
#1では現在のKotebelでも見られる宇宙的なシンセリードとピアノのハーモニーで作られたイントロからスタート。Rick WakemanやKeith Emersonといったプログレッシブ・ロックの大物キーボーディストに倣った音作りのセオリーと、自らを取り巻くクラシックとの融合が軽快で心地よいサウンドの真髄を生み出します。
#2ではアコースティック・ギターも披露。切ないピアノとストリングスで織りなす雰囲気は映画音楽の壮大さも感じさせます。
#3はフュージョン系ドラムにピアノのリフ、そしてゲストであるOmar Acostaのフルートがリードを奏でるまさにスペインの牧歌的雰囲気な楽曲。このパートは8分という長尺ながらかなりアンビエントに機能してくれ、それでいて転調やテンション満載の美しいコード進行など音楽的な完成度も高い一曲。
#4はある意味でニューエイジな、構築よりもその雰囲気を取り入れるといった具合の曲。クラシックや名キーボーディストの他にMike Oldfieldなど実験音楽家からの影響もあるそうなのでそこに対するアンサーかもしれません。
そして#5では11分に及ぶ大作パートへと発展。3/4が基調となっていて、これはラテンアメリカの有名な民俗学から得たヒントだとか。非常に美しいピアノのアンサンブルをベースにプログレッシブなドラムやフルートをアクセントに用いており、テンポチェンジや転調による場面転換もお手の物。ロマン派クラシックのメロディや雰囲気からも#3の発展型とも言える楽曲です。
7分に構成された#6。序盤はプログレ・フュージョンらしいタイトなリフからテクニカルに展開していきます。荒ぶるドラムとダブルシンセによるユニゾンで終始スリリングな雰囲気をまとい疾走するナンバー。5分以降はラストパートの裏のイントロとしても機能。
そしてラストとなる#7は#6からバトンを渡されたようなスリリングで緊張感溢れるモチーフが特徴的。Carlos Francoのパーカッションや、物語性を感じさせる急なリタルダンドからのテンポチェンジ。ファンタジックな世界観が万華鏡のように切り替わる魅惑のキーボード・ミュージカルです。そして唐突なブレイクから5:24〜より冒頭のテーマに戻って終幕となります。
プロダクションの甘さは元より、ロックという名目でありながら、その実打ち込みのリズムセクションにひたすらピアノ+シンセリード、そしてゲストのフルートとパーカッションをフィーチャー。ジャズやクラシックを融合した本質的なプログレであるがために、もっと典型的なエレキギターなどのそれを期待してはいけません。
しかしながら「プログレとはなんぞや」という永遠のテーマに立ち返った時、最初はこういう発想からヒントを得てそれぞれの味を加えていったんだなという原始的な側面をそのまま作品にしたのが本アルバムという解釈に至りました。
要はこれが骨組みであり世の中にあるプログレの本質的な「Structure」なのです。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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関口竜太
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