King Crimson「Lizard」: これぞカオスの極み!バンドを渦巻く複雑な事情を前衛的かつジャジーにかき混ぜた「危険な」3rdアルバム!
by 関口竜太 · 2020-06-19
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はKing Crimsonの1970年作『Lizard』をご紹介します。
Lizard / King Crimson
Lizard: 40th Anniversary Series (Wdva)
King Crimson(キング・クリムゾン)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1968年にイングランドで始まったKing CrimsonはドラマーMichael Giles、ベースボーカルPeter Gilesのジャイルズ兄弟とギタリストのRobert Frippを中心に結成。
そこへマルチプレイヤーのIan MacDonald、ボーカル兼ベーシストのGreg Lake(その後ピーターが脱退)、そして作詞やライブでの照明を担当したPete Sinfiedにて正式に陣営が固まります。
幾度にも及ぶメンバー変遷と崩壊、数度の解散を繰り返しながら、結成から53年が経とうという現在までその活動が続いている、UKおよびプログレッシブ・ロックにおけるレジェンドバンドです。
1969年に1stアルバム『In the Court of the Crimson King (邦題:クリムゾン・キングの宮殿)』でデビューしたバンドは、それまでのポピュラーミュージックの常識を覆す長尺な楽曲や複雑な曲展開、哲学的歌詞にてプログレッシブ・ロックという「恐竜時代」の幕開けを知らせました。
しかしながら1stアルバム発表後、イアンとジャイルズが脱退。世界に衝撃を与えた第一期クリムゾンは早々にそのラインナップを崩壊させました。
それでもレーベルとの契約消化のためバンド活動は継続しなくてはならなかったKing Crimsonは、新たにサックス奏者Mel Collinsの勧誘に成功。他、ゲストミュージシャンの参加協力も得て、1970年に2ndアルバムとなる『In the Wake of Poseidon (邦題:ポセイドンのめざめ)』をリリースします。
アルバムはその年の3月にシングル『Cat Food / Groon』をリリースし話題を呼びますが、5月のリリースを控えたところでボーカルのグレッグがスタジオに姿を現さなくなり以降、彼はEmerson, Lake & Palmer結成に向け動き出しそのまま脱退。
このゴタゴタのためライブツアーは行われず、同年『ポセイドンのめざめ』と同様の形式によって製作されたのが本作『Lizard』。この第二期クリムゾンはその後1972年ごろまで続いていきます。
アルバム参加メンバー
- Robert Fripp – Guitar, Mellotron, Hammond Organ, Synthesizer
- Peter Sinfield – Lyrics, Synthesizer
- Mel Collins – Saxophone, Flute
- Gordon Haskell – Bass, Vocal
- Andy McCulloch – Drums
-
その他参加ミュージシャン
- Keith Tippett – Piano
- Robin Miller – Oboe, English horn
- Mark Charig – Cornet
- Nick Evans – Trombone
- Jon Anderson – Vocal on #5 (a. Prince Rupert Awakes)
楽曲紹介
- Cirkus (Including Entry of the Chameleons)
- Indoor Games
- Happy Family
- Lady of the Dancing Water
- Lizard
a. Prince Rupert Awakes
b. Bolero – The Peacock’s Tale
c. The Battle of Glass Tears
I. Dawn Song
II. Last Skirmish
III. Prince Rupert’s Lament
d. Big Top
先述した通り、非常に複雑な事情を抱え制作されたためその内容もカオスの極み。
#1「Cirkus (Including Entry of the Chameleons)」はゲストで参加したKeith Tippetのピアノから、クリムゾンらしい粘っこいブラスのイントロ。Gordon Haskellのボーカルの裏で鳴るアコースティックギターによるソロとリズムギターの中間のようなフリージャムに加え、2:25〜のメロトロンやサックスソロなど1st以上の前衛さを持った曲となっています。
続いて#2「Indoor Games」。こちらはよりブラスサウンドに重点を置いた曲で、#1に比べかなりメロディックに感じますが、その本質はジャズに近いかも。2:15〜のメロトロンとゴードンのボーカルパートはクリムゾンぽさを残しながらYesのようなニュアンスもありますね。
重たいリズムセクションとトレモロエフェクトのキーボードが印象的な#3「Happy Family」はクリムゾンのダークな側面を打ち出したイントロ。バッキングのピアノはよりフリージャム感を増し、ギターも負けじと応戦。その途中で聴かれる尺八のようなオリエンタルな音色がジャケットに描かれたようなこのアルバムのカオスさを物語っています。
#4「Lady of the Dancing Water」は1stアルバム収録曲の雰囲気を纏うバラード曲。アコースティックギター、フルート、オーボエをメインに据えメロディメーカーであったグレッグ脱退後でも変わらぬ名バラードを作り上げています。
そしてラストは4パート23分にも及ぶバンド屈指の大作#5「Lizard」。
第一パート「a. Prince Rupert Awakes」にはゲストにYesのJohn Andersonが参加しています。これはKing Crimsonがバンド崩壊にあった頃、ちょうどYesからも当時のギタリストPeter Banksが脱退しており新ギターを探していた時期と被ります。
ジョンがフリップにYesへの加入を促すとフリップはこれを拒否。逆に脱退したグレッグを引き合いに出して、ジョンへボーカルの参加を打診します。両者の温度差は測れませんがこのやり取りはジョンがゲスト参加する形で楽曲に残る結果となりました。
曲を聴いてみるとジョンの参加したパートaはクリムゾンとは思えないほどポップの度合いが違います。繊細なピアノと儚げなメロトロン、そしてジョンのボーカルによるテーマは本作でも混沌の中に咲く花のようです。
「b. Bolero – The Peacock’s Tale」ではサックスを始めブラスセクションとピアノによるジャズパートを展開。コリンズの奏でるムーディなサックスソロに軽快なタッチを加えるキースのピアノが美しい楽園のような時間。
流れるようなテーマのあとはKing Crimsonが得意とする陰鬱の象徴「c. The Battle of Glass Tears」。混沌たる世界観にぶわっと広がるメロトロン、その中で一際存在感を出すトロンボーンが邪悪に響きます。パートの最後はベースが数えるように鳴らす低音のパルスにサスティンの長い攻撃的なギターソロが迫ってきます。
大作のラストパートとなる「d. Big Top」は#1を断片的に繋いだリプライズ。一見ファンタジーに聴かせるのかと思いきやネジの切れたおもちゃのようにただただそこに不安を残してフェードアウトしていきます。
ここからKing Crimsonはさらにインプロヴィゼーション(即興演奏)を主軸に置いた音楽性の追求を行なっていきますが、キースのフリージャズなピアノがそのきっかけを与えたことは間違いないでしょう。そしてロックバンドでありながらこの掴み所のない音楽を支えたAndy McCullochのドラムも驚異的なほど素晴らしいです。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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