Dream Theaterが音楽以外でも魅力的な4つの理由
by 関口竜太 · 2020-06-17
こんにちは、ギタリストの関口です。
このブログでもお馴染み、アメリカのプログレッシブ・メタルバンドDream Theater。
70年代の伝統的なプログレッシブ・ロックの形と80年代のへヴィメタルのスタイル両方を受け継いだ彼らの音楽性は、「プログレメタル」というジャンルの確立だけでなく、その後の音楽にも多大な影響を与えています。
一方でその類稀なる音楽以外に、良識に溢れ穏やかでユーモラスなメンバーの人間性にも度々注目が集まります。
未来からやってきたサイボーグギタリストと女性ボーカルのユニットIRONBUNNYのYouTubeチャンネルにてつい先日上がったこちらの動画。
「へヴィメタル」の持つステレオタイプなイメージを崩すDream Theaterの人間性を「紳士な叔父様でした」とメンバーの一人であるKotonoさんが語られています。
というわけで、今日はそんなDream Theaterの音楽性以外での魅力についてお話したいと思います!
①ファミリー・ツリーが存在しない
「ファミリー・ツリー」というのは言わば家系図のことですが、プログレッシブ・ロック/メタル界隈では、メインとなるバンドを中心にそこのメンバーが別のミュージシャンを誘い本流とは少し反れた新たな音楽を追求していくことにあります。
CASE 1 – Fates Warning
有名なところだとアメリカのプログレッシブ・メタルバンドFates Warning。
ここのギタリストJim Matheosと80年代に共に活動したボーカルJohn Archは2010年以降Arch / Matheosとしてバンドを結成。レコーディングには同じFWの新旧問わないメンバーが多数参加しています。
また現FWのボーカルRay Alder率いるRedemptionや、ベースのJoey Veraが在籍しているメタルバンドArmored Saintなどもファミリー・ツリーの一端です。
CASE 2 – The Flower Kings
スウェーデンのネオプログレッシブ・ロックバンドThe Flower Kingsでもこの動きは顕著。
リーダーであるRoine Stoltが結成したのは、同じTFKのベースJonas ReingoldとSteve HackettバンドのボーカルNad Sylvanを招集したAgents Of Marcy。他にもPain Of SalvationのDaniel Glidenlowをボーカルに据えたThe Sea Withinや、YesのJohn AndersonとのユニットAnderson / Stoltを結成したりとその枝は多岐に渡ります。
一方ベースのヨナスは、Animals As LeadersのドラマーNavane Koperneweisを迎えたインストバンドAn Endless Sporadicや、元TFKのキーボーディストTomas Bodin、Yngwie Malmsteenなでボーカルを務めたGöran Edmanと組んだKarmakanicが有名。
CASE 3 – Dream Theater
……と、このように挙げていけばキリがないのですが、ではDream Theaterはどうか。
各自ソロでの活動やゲストでの参加は積極的に行なっているものの、本腰を入れ活動するファミリー・バンドはLiquid Tension Experimentが筆頭。他にはJohn MyungがKings XのギタリストTy Tabor、Dixie DregsのドラマーRod Morgensteinと結成したThe Jelly Jam(前身にPlatypus)程度はあります。
ですがそれ以外に似たようなスタイルのバンドが組まれることはなく、これだけ人気と実力共に地位を築いているにも関わらず手をあまり広げない姿勢が見て取れます。
まさに「Dream Theaterを聴くならDream Theaterしかない」状況に持ち込めているのです。
ちなみに元ドラマーのMike Portnoyはファミリー・ツリーとは別にワーカーホリックで知られていますので、毎年様々なプロジェクトやバンド、レコーディングに参加していますね。
②「プログレ」と書くよりも反応がいい
プログレッシブ・ロックというのは一つ歴史を作った音楽ではありますが、現代の日本では比較的マニアックな部類に属すると思います。
プロのミュージシャンであっても、好きなアルバムこそあれどジャンルとしては必須科目ではないのが現状です。
そのためTwitterを始めとするSNSではこれがたまにネタとして扱われる側面もあります。King Crimsonの名盤『クリムゾン・キングの宮殿』のジャケットや、Yesの「Roundabout」を使った動画などがそれですね。
そしてこの大雑把な「プログレ」という言葉と同じかそれ以上に「Dream Theater」という名前も、ユーザーの興味を誘うに匹敵するということです。
YouTubeでDream Theaterのライブ映像なんて見つけた日には、やつら平気な顔で人の10分を奪っていく。
— せっちん@プログレの竜義 (@KinpatsuKomeya) May 20, 2020
YouTubeでDream Theaterのライブ映像なんて見つけた日には、やつら平気な顔で人の10分を奪っていく。
これは先日僕が呟いたツイートなのですが…ツイート内の「Dream Theater」はそのまま「プログレ」に置き換えても成立する話です。
しかしこれは予想ですが、おそらく「Dream Theater」とした方が反応がいいはずなんです。それは「Dream Theater」が「プログレ」よりも音楽的なイメージをしやすくなっているからだと思います。
←Dream Theaterの記事を書いてるときの俺
→師匠に「Dream Theaterの何がいいの?」と聞かれたときの俺 pic.twitter.com/MymZUn6ojs— せっちん@プログレの竜義 (@KinpatsuKomeya) June 15, 2020
あと最近流行っているこのネタにも適用。反応良しです!
③プログレとメタル両方にアンチがいる
Dream Theaterはプログレバンドなのでしょうか、それともメタルバンドなのでしょうか。
答えは後者、メタルバンドです。
そもそも音楽的な「プログレッシブ」という言葉は、日本ではロックやメタルに適用しその上でロックのイメージが強いためメタルもその延長線上と考えることがほとんどです。
しかし英語圏ではあくまでProgressiveは形容詞であり、この後に続くジャンルを「先進的に」したサブジャンルという意図しか持ちません。実際プログレッシブ・ハウスやプログレッシブ・トランス、プログレッシブ・カントリーなど頻繁に使われます。
その理論で行くと、プログレッシブ・メタルもあくまで「前衛的なメタル」に過ぎないんですよね。SpotifyやApple MusicでDream Theaterの関連アーティストを見ると、MetallicaやIron Maidenが並んでいたのはこのためです。最近では少し改善したようでSons Of ApolloやHakenも顔を見せるようになりました。
そうした上で、未だ両方の特性を持つこのバンドは当然その両方にアンチを持ちます。
往年のプログレファンからは「RushやGenesisのパクリ」と揶揄され、生粋のメタルファンからは「長ったらしい」「ガツンと来ない」と言われ、あえて批判に目を向ければ板挟み状態です。
それでも姿勢を崩さない彼らだからこそ支持が集まるし愛されていくのでしょうね。
④プログレメタルというジャンルで大成功を収めている
そしてそんな実力と人気ゆえ、彼らは世界的に見てもニッチなジャンルにも関わらず大成功を収めています。
こちらはスペインのテレビ番組に出演した際の映像。
言語はちょっと不明ですがこの番組の趣旨はゲストの預金口座を聞くという、日本だったら外タレになんてこと聞くんだと荒れそうな番組。
ですがJames LaBrieとJohn Petrucci共に、戸惑いはにかみながら受け答えしているところに人の良さが滲み出てますね。
噂によるとニューヨークの一等地にプール付きの家くらいは持ってるレベルらしく、まさに名前の通りプログレメタルドリームです。
最新作である『Distance Over Time』も、Yonderbarn Studioという坂本龍一さんが前所有者ということで知られるスタジオで製作され、ここを買い取ったかレンタルしたかは不明ですが…ニューヨークでありながら山が近くにある自然豊かな土地で、BBQなどもしながらかなり余裕のある音楽人生を満喫できているみたいです。
最後に
初めて買った洋楽のアルバムはVan Halenのベストで、これのライナーノーツにはVan Halenが如何に世界的ヒットを果たしたバンドかが記されていました。
日本で有名な海外のバンドは売れ方もスケールが違うんだ!なんて思いながら次に買ったMr. Bigのライナーノーツには『「To Be With You」しかヒットがない』と書かれていてちょっとガッカリした思い出があります。
もちろん音楽は世代を超えて好きですが、想像の中で理想を膨らませすぎると、その実情を知ってせっかく飛べそうなまで張った風船が萎んでしまう瞬間もあるでしょう。
しかしながら過去にDream Theaterの音楽に魅了され、そこから音楽以外の面を探ったときに肩透かしを食ったということが一度もないのです。
メンバーが脱退しちゃったとかギターソロが少なかったとか、そういうことはなくもないですが…それでもまだまだ好きでいようと思わせてくれるバンドは人生でもそう多く出会えないと思います。
延期となったライブ公演まであと数ヶ月まで迫っていますが、「やっぱりこのバンドを応援していて間違いはなかった」とまた思わせてくれることを期待しています!
Dream Theater: Studio Albums 1992-2011
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タグ: Dream Theater
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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