Jethro Tull「Thick As A Brick」: ロック史に残るコンセプトアルバムの代表格!天才Ian Andersonの皮肉と前衛の43分間。

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はイギリスのバンドJethro Tullの1971年5th作をご紹介します。

Thick As A Brick / Jethro Tull


ジェラルドの汚れなき世界

Jethro Tull(ジェスロ・タル)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。

来歴


Jethro Tullの結成は1967年。John Evan’s Smashというブルースバンドで活動していたギターボーカルIan AndersonとベースGlenn Cornickによって結成され、当時はそこにギターMick Abrahams、ドラムClive Bunkerを追加した4人編成でした。

元はブルースでしたが、1968年にリリースされたデビューアルバム『This Was (邦題:日曜日の印象)』ではオリジナル曲の他、1930年代から活躍していた盲目のジャズミュージシャンRoland Kirkのカバーやトラッドなフォーク・ミュージックも演奏しており、今でいうコンテンポラリーな姿勢が人気となりました。

当時ギタリストのミックより目立ちたい一心でフルートの演奏もしたイアンでしたが、アルバムリリース後に当のミックが脱退。Black SabbathのTony Iommiが臨時加入する過程を経て、その後Martin Barreが正式加入しています。

1970年12月、結成から在籍していた初代ベーシストのコーニックが脱退、新たにイアンの幼馴染であったJeffrey Hammondが加入します。

1971年、4thアルバム『Aqualung』をリリース。宗教をテーマにした文学的な歌詞に高い演奏技術、さらに新加入のJohn EvanDavid Palmerのオーケストラアレンジによってフルートだけではなくストリングスやメロトロンも追加し、プログレッシブ・ロックバンドの草分け的存在としてさらに地位を盤石にしていきます。

しかしながら、この『Aqualung』、批評家の間では当時コンセプトアルバムとして紹介されていたのですがこれをイアンが真っ向から否定。それならばと本格的なコンセプトアルバムを作る意向を固め制作されたのが本作『Thick As A Brick』となります。

アルバム参加メンバー


  • Ian Anderson – Vocal, Guitar, Flute, Violin, Trumpet, Saxophone
  • Martin Barre – Guitar, Lute
  • John Evan – Piano, Organ, Harpsichord
  • Jeffrey Hammond – Bass, Spoken word
  • Barriemore Barlow – Drums, Percussion, Timpani

楽曲紹介


  1. Thick As A Brick Pt.1
  2. Thick As A Brick Pt.2

本作に収録されているのはタイトルナンバーである#1,2「Thick As A Brick」のみ。

レコードのパッケージング事情によりA面とB面の2トラックに分かれてはいますが、パート1がフェードアウトで終わり、パート2がフェードインで始まっていることから本曲が43分50秒の1曲であるという事実は揺るぎません。

またこれ1曲で同時にコンセプトアルバムという特性も持っているので、本来ストーリーを考えるのであればこれを数曲に分けても良さそうなものですが、そこはイアンの負けず嫌いで皮肉屋な性格を考えるとこれ1曲で勝負!と受け取れなくもないです。

邦題は「ジェラルドの汚れなき世界」で、これは本編の主人公であり架空の天才詩人少年、ジェラルド・ボストックから引用。

タイトルは直訳すれば「レンガのごとく愚鈍である」と言った意味ですが、歌詞の流れから天才が感じる凡なる人々への「物足りなさ」こそが真のテーマとなっています。またこの思考は、メディアから半ば煽られる形でコンセプトアルバムを作ったイアンの意地と皮肉のメッセージが込められています。

そのジェラルドが書いたと設定される詩を基にイアンが作曲した「Thick As A Brick」は冒頭、アコースティックギターとフルート、そしてプロローグ的なボーカルから穏やかに幕を開けます。

ブラスとユニゾンするボーカルパートに手数の多いBarriemore Barlowのドラム、新加入のJohn Evanが鼓舞するテクニカルなオルガン、そしてMartin Barreのギターソロが曲を盛り上げていきます。

実際にイアンも言及していたことですが、この曲のプログレッシブなアプローチに関してはEmerson, Lake & PalmerやYesから得たヒントが多く使用されていて、実際曲を聴いていても、彼らや他にProcol Harumと言ったバンドのエッセンスがそこはかとなくにじみ出てきます。

もっとも、1972年当時のプログレッシブ・ロックは悪く言ってしまえば似たようなものが溢れその後すぐにシーンは飽和状態となってしまうため、それらの典型的なアレンジやライティングが類似しているという点で責められるものではありません。

そして何よりこれはJethro Tullと天才Ian Andersonならではのプログレロックだと胸を張るべき案件なのです。

楽曲はオルガンとギターをメインに据えたアンサンブルを中心に、絶妙な表現の幅とダイナミクスで展開。途中フォークサウンドで聴かせる静寂なパートもあれど43分間中だるみ一切なしで駆け抜けるプログレならずともロック史に残る名曲としてこれからも語り継がれていくことでしょう!

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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