The Flower Kings「Retropolis」: 北欧のシンフォニック賢者、初期の大名盤をレビュー!これを聴かずしてネオプログレは語れない。

こんにちは、ギタリストの関口です。

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本日はThe Flower Kingsの96年リリース「Retropolis」をご紹介します。

Retropolis / The Flower Kings


Retropolis

The Flower Kings(ザ・フラワー・キングス)はスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド。

TFKの人気を決定づけた傑作


スウェーデンで1970年代から活躍をするプログレッシブ・グループKaipaのギタリストとして、若干17歳でデビューを果たしたギタリストRoine Stolt

1994年にソロアルバム『The Flower King』をリリースしたロイネは、このアルバムについて当初ドラムの打ち込みなどを行い一人で制作をしていました。ところがいざ、レコーディングで生ドラムに差し替えた途端、それが彼の中でワクワクを燃え上がらせました。

アルバムは完成しプロモーションツアーを行うにはメンバーを揃えバンドを結成しなくていけない、そうして彼の元に集まったのが後のネオプログレッシブ・ロックバンドThe Flower Kingsです。

当時のメンバーはキーボーディストTomas Bodin、ドラマーJaime Salazar、ロイネの弟にしてベーシストのMichael Stoltを加えた4人。

喜ばしくも90年代に入るとそれまで廃れていたプログレ業界は復興の兆しが見え、かつての名盤が再評価されたり、音楽ジャンルの細分化が進んだことで再び息を吹き返します。

1995年に今度はバンド名義で『Back in the World of Adventures』をリリース。ここでは4人に加えパーカッション奏者のHans Bruniussonとサックス奏者のUlf Wallanderも合流します。

古き良きスタイルを少なからず継承しつつも、80年代のネオプログレバンドで揶揄された言わば「クローン」とは異なるオリジナリティ溢れるバンドとして人気を勝ち取ることとなります。

本日ご紹介する『Retropolis』はバンド名義では2nd、ロイネのソロから通算すると3rdアルバムに当たる作品。1927年に公開されたSF映画のパイオニア「メトロポリス」からインスピレーションを受けたこのアルバムを機に、ロイネは「TFKが90年代プログレ・シーンの先駆者になっている」こと、「ゆっくりとビジネスに向かい始めた」ことを振り返っています。

なお本作から、現在までセカンドボーカルとギターを務めるHasse Fröbergが加入しています。

アルバム参加メンバー


  • Roine Stolt – Vocal, Guitar, Keyboard
  • Tomas Bodin – Keyboard
  • Michael Stolt – Bass
  • Jaime Salazar – Drums
  • Hans Bruniusson – Percussion
  • Hasse Fröberg – Vocal
  • Ulf Wallander – Saxophone

楽曲紹介


  1. Rhythm of Time
  2. Retropolis
  3. Rhythm of the Sea
  4. There Is More to This World
  5. Romancing the City
  6. The Melting Pot
  7. Silent Sorrow
  8. The Judas Kiss
  9.  Retropolis By Night
  10. Flora Majora
  11. The Road Back Home

2020年に来日公園を行なった際、MCでも言っていましたがこのアルバムの冒頭は#1「Rhythm of Time」での卓球のラリーから始まります。

そのピンポン球が明らかにグラスか何かを破壊したことでタイトルトラックとなる#2「Retropolis」へ。メロトロンから始まるまさに「レトロ」なオープニングで、叙情的なリードギターのサウンドTFK特有のミステリアスでドラマティックな仕立てになっています。

ゆったりと揺れるような導入の#3「Rhythm of the Sea」。12弦ギターによる煌びやかなアルペジオと憂鬱なメロトロンとのギャップがたまりません。ロイネのボーカルも憂鬱寄りで重たいドラムを先導しながらアダルトに仕上げたバラードとなっています。

#4「There Is More to This World」は#2同様本作を印象付ける10分の大作。Yesのような晴れ晴れとした空気感に、ロイネとハッセによるツインボーカルが光ります。シンプルなリズムが軽い足取りを思わせ、2:38〜のインストパートでもいい塩梅に力を抜きながらコミカルにおどける展開がむしろかっこいい。中盤をすぎた5分以降はシンセ、ストリングス成分を増し一種のバラードとして折り返します。

クラシカルなピアノソロ#5「Romancing the City」のインターバルを挟み、曲間を繋ぐような形で導入する#6「The Melting Pot」。ダークトーンなGenesisと民族テイスト溢れる雰囲気が特徴で、ウルフの奏でるサックスがアダルトでオリエンタルな空気をもたらします。4分以降のパイプオルガンはバロック調に、#5との関連も匂わせがら叙情的なインストの幕を引いています。

メランコリックながらロカビリーの雰囲気もある#7「Silent Sorrow」。前奏から聴けるエレキピアノはスローなトレモロエフェクトをかけることで奥行きを持たせています。若干粗く加工したボーカルに珍しくコード進行を聴かせてくれる一曲です。3:07〜はシャッフルビートでギターソロ〜シンセソロと回し、マリンバ風の音色と遊び心たっぷりのSEを挟んだコミカルな演出。しかしながらリズムは7拍子だったりと浮かれながらもタイトという奥の深さを感じます。

#8「The Judas Kiss」は壮麗なチャーチオルガンからエモーショナルなギターで幕を開けます。後々リリースされるアルバム『Banks of Eden』へと繋がっていきそうなTFKサウンドです。付点8分を使ったリズミックなサビとこれまで以上にタイトなインストパートが非常に魅力的です。

シンセサイザーによるデジタルなFXとSEの小曲#9「Retropolis By Night」を抜け、浮遊感漂うインスト#10「Flora Majora」へと続いていきます。

こちらは5拍子の上でシンセサイザーが踊り、どことなくSteve Vaiっぽさもあるファンタジックなイントロが特徴的なナンバーで、7分弱の中でプログレからフュージョンまでを行ったり来たり。ラストは伸びやかでシンフォニックなギターのメロディで美しく完結させています。

ラストナンバーとなる#11「The Road Back Home」。序盤はアコースティックギターに穏やかなボーカルが入る、トラッド・フォークな仕様。ふわっと情景を彩るオルガンに柔らかなギターと歌が絡む1分すぎも、このバンドが音楽的に美しいと感じる所以だと思います。ウルフによるサックスソロを経て、中盤以降は#2を思い起こすGenesisライクなインストパートへ。

ツインボーカル編成を可能にしながら、インスト楽曲も多く、しかし嫌味なほど長尺にならない初期の洗練さが現れている名盤です。70年代を彷彿とさせる躍動感やメロディながら決して古くならない姿勢に、このバンド最大のヒット作という説明にも納得です。

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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