M-Opus「Origins」: 「ザ・ウォール」の再来!古きプログレッシブ・ロックの再現をコンセプトに持つアイルランド産最新ロックオペラ!
by 関口竜太 · 2020-05-19
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はアイルランド出身、M-Opusの最新作をご紹介します。
Origins / M-Opus
M-Opus(エム・オーパス)はアイルランドのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
2014年に、アイルランドの首都ダブリン出身のマルチプレイヤーJonathan Caseyと、ギタリストColin Sullivianによって結成されたプログレッシブ・ロックバンド。
リーダーのジョナサンは元々、King CrimsonのヴァイオリニストDavid CROSSのリーダーズバンドthe David CROSS Bandに参加する実力者。コリンはシンガーソングライターとしての一面を持ちながら、YouTube黎明期より映像作品を展開するクリエイティビティの持ち主です。
2015年にリリースされた彼らのデビュー作『1975 Triptych』は、1975年当時のプログレッシブ・ロックを再現するというコンセプトの下制作。アルバムを「1975年リリース」と架空づけることで現実世界をファンタジーに置き換える発想に注目が集まりました。
その後、ドラムのMark Gristが新加入。2020年のニューアルバムとなる本作『Origins』は、以前から公式HPにて発表がされていた「次は1978年になる」という発言が実行された形となります。
1978年はパンクとニューウェーブの登場でプログレにとってより厳しい環境でしたが、五大プログレバンドのうちEmerson, Lake & PalmerやGenesis、そしてYesもアルバムを出すなどまだその栄光の音楽にしがみ付いていた時期です。
その中でもロックオペラ仕様となる本作との関連性を照らし合わせると、特にPink Floydの1979年作『The Wall』に行き着きます。
本作はメンバーやゲストミュージシャンの他に、9人のキャストが登場。声優の中には岡本智子さんという日本人のクレジットもあり2枚組28曲、トータル2時間17分に及ぶ超大作のロックオペラ作品となっています!
アルバム参加メンバー
- Jonathan Casey – Vocal, Keyboard, Bass, Guitar
- Mark Grist – Vocal, Drums
- Colin Sullivan – Guitar, Voice of narration
ゲストミュージシャン
- Anto Drennan – Guitar on #18
- Conor McGouran – Guitar on #11
- Michael Buckley – Flute on #23
キャスト
- Jonah
Vocal – Danny McCormack
Actor – Danny Kehoe - Violet
Vocal – Sandi Jane Hyland
Actor – Sharon Mannion - Krown
Vocal, Actor – Eoghan McLaughlin - Minister Fiennes – Stella Bass
- Vincent – Charlie Kranz
- Henchman – Graeme Singleton
- Beach Android – 岡本智子
- Professor – Ron Garner
- White Rose Voice – Tamara Markus
楽曲紹介
- Overture
- Accidents Will Happen
- Please Don’t Let Me Go
- Can’t Blame Me
- A Perfect Day For Flight
- Mr. McKee
- Find My Way Back Home
- Krown On The Coastline
- Welcome To White Rose
- Mystery At The Ministry
- Midnight On The White Rose
- Complete The Machine
- Waiting To Be
- Labyrinth
- Armed Gods
- At The Lab
- Never Giving Up On Your Love
- 2048 Numbers
- Emergency Exit
- Troubled Minds
- Hide And Seek
- Holy War
- Empty Shells
- Fireworks
- The Big Swindle
- Violet Alone
- Don’t You Want To Feel My Heart
- Infinite Within
曲数が非常に多いのでピックアップしながら曲を紹介していこうと思います。各楽曲は収録時間に対し残りの数十秒〜一、二分程度を登場人物の会話に当てていてそこでストーリーを展開、次の曲へ繋ぐ手法が取られています。
まず幽玄なシンセサウンドのアンビエントと通信による音声から始まる#1「Overture」。美しいピアノに導かれたこの曲から続くリードナンバー#2「Accidents Will Happen」はYes風のアップテンポな楽曲で、ジョナサンのボーカルは元より新加入したマークのパワフルなドラミングが非常に印象的です。
#3「Please Don’t Let Me Go」はデジタルなシーケンスを加えた重たいビートのオルタナと後半のメロディックなリードギターパートとに分かれる二面的な一曲。続く4「Can’t Blame Me」では控えめながら繊細なアルペジオの上で歌われるプレーンなボーカルがすっと染み入ります。曲間のインターバルでは岡本さんによる日本語も登場。
#5「A Perfect Day For Flight」はYesやRushといったライトな70年代のプログレを展開。#6「Mr. McKee」では女性ボーカルのゲストSandi Jane Hylandが登場。『I’m Not Dead』時代のPinkのようなストレートなアコースティックロックを歌い上げています。
再び会話によるインターバルを経由し#7「Find My Way Back Home 」はPink Floyd『The Wall』の目玉である「Another Brick In The Wall」からの影響がもろに現れた一曲。続く#8「Krown On The Coastline」もフロイド風のアンビエントとKing Crimsonの実験的な部分が同居したナンバー。2:24〜の生々しいプログレッションはここに特筆しておきます。
シンセのシーケンスやメロトロンが印象的な#10「Mystery At The Ministry」。ジョナサンのボーカルはdことなくRoine Stoltのような匂いが漂い、そこに気づくと全体的にThe Flower Kingsっぽくもあります。
#11「Midnight On The White Rose」は古き良きブルースロックの香りにオルガンを加えたご機嫌な一曲。2:07からのコリンのギターソロはいい意味でそれに似合わず、非常に現代的な超絶ソロ。アウトフレーズから高難易度のスウィープ&タッピングまでバシバシ決めています。
#14「Labyrinth」は70年代の様式をポップに切り取った楽曲で、キラキラとしたギターとシンセのシーケンスからメロウなギターソロへ流れていきます。Genesis風のバッキングリフにも注目。
#16「At The Lab」や#17「Never Giving Up On Your Love」ではアメリカンな聴こえるロックンロールを展開。リズムカルなボーカルと安定したタムワーク、そして終始キラキラとしたシンセサイザーが印象的です。
CD盤ではDisc1のラストとなる#18「2048 Numbers」。8分近い長尺のこの曲は第一部の締めとも言うべき序盤で聴かれた雰囲気の構築とサイケデリックに飛び交う多重のコーラスなど、美しく儚げでありながらプログレッシブです。
Disc2に入りましてデジタルサウンドをフィーチャーした#19「Emergency Exit」。再び「Another Brick〜」的なパワーを持つこの曲からビートルズやフォークサウンドを思わすバラード#20「Troubled Minds」へ。曲ごとのサウンド構築も見事なものですが、メロディの至る所に既存の曲のメロディを感じさせるのでより再現度に拍車がかかっています。
#21「Hide And Seek」はアメリカンで、マークのドラムが暴れまわるハードロック、#22「Holy War」はピアノ、グロッケン、マーチングドラムとオーケストレーションに、ナレーションや登場人物の思惑が反映されたドラマティックなインターバルとなっています。
フルートがムーディーに香るパーカッシズムな#23「Empty Shells」、ゴシックなオルタナ系ロック#24「Fireworks」など、70年代の再現としながらそのカヴァー範囲は極めて広いことを感じさせてくれます。
#25「The Big Swindle」はイントロからネオクラシカルに展開するオルガン、そしてQueenのようなシアトリカルなボーカルと変拍子が実に面白いナンバー。
物語も佳境を迎え、#27「Don’t You Want To Feel My Heart」はサンディの力強いボーカルと分厚いコーラス、そしてアルバム全体を総括して引っ張っていけるパワーを持ったメロディの名曲です。
そして大変長丁場となる本作のラストに用意された#28「Infinite Within」は23分を超える大作。これまでの軸をブレさせないPink Floydの様式を守りながら5:30ごろまではアコースティックなバラードを披露。6:40ごろにシタールも登場する怪しげな雰囲気のループから徐々に色んな楽器が加わりカタルシスへ持っていく「Starless」手法も。
アルバムを盛大に締める超大作ですがこの曲だけボーナストラック感が強いかなというのは感じます。#27までを聴き切った体力で残り23分のこの曲に挑めるか、生粋のプログレ好きでもなかなかに堪えると思います。
しかし、5年の歳月をかけ組み上げられた巨大なコンセプトアルバムとなる本作。一度聴いた程度ではその真髄が見えないボリューム感たっぷりの内容もさながら、70年代後期の音楽に対し知見が広いほどそこに隠されたギミックに気づくというマニアックな要素もニクいです。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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