Porcupine Tree「In Absentia」: 人との出会いで音楽性はどのくらい変わるのか。ヘヴィロックへ転じた英プログレバンドの後期を印象付ける傑作!
by 関口竜太 · 2020-05-11
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はPorcupine Treeによる2002年の7thアルバムをご紹介します。
In Absentia / Porcupine Tree
Porcupine Tree(ポーキュパイン・ツリー)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
イギリスのポスト・ロック/ドリームポップユニットNo-Manや音楽プロデューサーとしてカリスマ的敏腕さを発揮する現代音楽の重鎮、Steven Wilsonが牽引していたプログレロックバンド。
1987年にNo-Manからソロ活動へ派生する形で生まれ、1991年にデビュー。練り込まれた設定とスティーブンの活動理念が凝縮された本プロジェクトは、2つのデモテープ発表を経て枚数限定の1stアルバム『On The Sunday Of Life…』をリリースします。
1993年、アルバムの評価に手応えを感じたスティーブンはイギリスのニューウェーブ・ロックバンドJapanのキーボーディストRichard Barbieriの加入をきっかけにPorcupine Treeをバンド名義として昇華。ポストPink Floydと言われる独自性の強い音楽とアンビエントで人気を獲得していきます。
そんなバンド初期のPorcupine Treeはサイケデリック・ロックやスペース・ロックに関連づけられる長尺で抽象的な性質のロックバンドでしたが、90年代後半はより楽曲をコンパクトにし構築的なプログレッシブ・ロックを展開していきます。
特にサウンド面ではToolやRadioheadに倣いプログレッシブ・メタルとも呼べるヘヴィ路線へと徐々にシフトしていきます。
本作『In Absentia』がリリースされた2002年というのはスティーブンがMeshuggahやOpethのMikael Åkerfeldtらと交流を持ち出した時期で、彼らの音楽プロデュースを通じてPorcupine Treeにも少なからず影響を与えています。
アルバム参加メンバー
- Steven Wilson – Vocal, Guitar, Keyboard, Banjo
- Richard Barbieri – Synthesizer, Mellotron, Organ, Keyboard
- Colin Edwin – Bass
- Gavin Harrison – Drums, Percussion
その他参加ミュージシャン
- Aviv Geffen – Backing vocal on #4,7
- John Wesley – Backing vocal on #1,4,7, Guitar on #1
楽曲紹介
- Blackest Eyes
- Trains
- Lips of Ashes
- The Sound of Muzak
- Gravity Eyelids
- Wedding Nails
- Prodigal
- .3
- The Creator Has a Mastertape
- Heartattack In a Layby
- Strip the Soul
- Collapse the Light Into Earth
バンド初期で見られたようなサイケデリックで長尺曲をメインにした音楽性から、曲を比較的コンパクトにまとめ少しエレクトロな要素も見せるスティーブンのルーツが垣間見える作品。なおスティーブンは自身の嗜好についてヘヴィメタルはさほど好んではいません。
#1「Blackest Eyes」から攻撃的なメタルサウンドが炸裂。リフでは変拍子も混ぜゴシックに聴かせていますがボーカルパートはさすがのウィルソン節で非常に耳当たりよくポップに作られています。この曲はイギリスの主要なロックラジオ局で放送されましたが、シングル曲ではないためチャートでの成績は残していません。
KatatoniaやRiversideのようなしっとりとしたゴシックさは感じる#2「Trains」は、その上でアコースティックにまとめた紳士的なボーカルソング。最終的にはバンドインしてエネルギッシュに収束していきますがその間にスティーブンのアコギソロもあったりして感傷的な一曲です。
続く#3「Lips of Ashes」も基本はアコースティックギターがメインとなったバラード。薄めの演奏によって厚いコーラスを強調し本来のアンビエントを活かした楽曲で、『Wish You Were Here』辺りのPink Floydを思わせます。ヴァイオリン奏法やクロージングでの繊細なギターソロにも注目。
本作における音楽性の変化でもう一つ重要な人物がいます。それがイスラエルのシンガーAviv Geffen。スティーブンとゲッフェンは後にBlackfieldというバンドを組んでいますが、ゲッフェンの嗜好が主にポップスだったためBlackfieldでもそのような音楽を展開。結果Porcupine Treeがヘヴィ路線へ変更してもスティーブン自身が自らの音楽性を見失うことはありませんでした。
そんなゲッフェンがボーカル参加した#4「The Sound of Muzak」と#7「Prodigal」。#4は変拍子を交えながら中期以降のRed Hot Chili Peppersも感じさせるオルタナなヴァースと英国らしいコーラスが魅力。#7はアンニュイな雰囲気とスライドギターが印象的で、高い品格は保ちながらも非常に聴きやすいポップバラードとなっています。
#5「Gravity Eyelids」はプログレッシブ・ロックの伝家の宝刀メロトロンとエレクトロドラムを使った前衛的ナンバー。浮遊感のあるアンビエントはフロイドライクでありつつも、4:02〜は本作のテーマであるゴシックメタルを踏襲ししっかりとコシのあるロックを展開しています。後半から入ってくるピアノも美しくエモーショナル。
#6「Wedding Nails」は歯切れのいいリフとカッティングが特徴のロックインスト。スティーブンの曲ではなかなかに珍しい部類の楽曲だと思いますがテクニカルなテーマに導かれ中盤でのヘヴィ&インタラクティブなソロパートはKing Crimsonの様。ゆっくりと沈むシンセサイザーの余韻で#7へ続いていきます。
#7から繋ぐ形で入る#8「.3」。イントロでは盟友Colin Edwinのベースがシンセをバックにリードを取っているのが印象的。#5と同じく儚げな浮遊感を演じたサイケデリックなナンバー。
#9「The Creator Has a Mastertape」は#8が持つファンクのテイストを残しつつスティーブンのエモ風なギターサウンドも気を引くナンバー。リリースされた2002頃はメタルサウンドが見直されつつある時代でありDream Theaterの「The Great Debate」のような実験さも感じられます。
#10「Heartattack In a Layby」は再び陰鬱なアルペジオとそれにリードされたボーカル、そしてピアノがメインとなったゴシック系バラード。#11「Strip the Soul」は7分の大作ですが、メインリフではポリリズムも使って変則的に聴かせたり、エドウィンのベースが先導しながら徐々にボリュームを増していくTool的なエクスペリメント感を持っています。
ラストとなる#12「Collapse the Light Into Earth」。スティーブンお得意のポスト系ピアノポップ楽曲。自身のNo-Manは元よりElton JohnやQueenなどイギリスの大御所より引き継ぐピアノソングスタイルはバンドの方向性のシフトと同時にそれでも自らの意思は曲げてないとするスティーブンの信念が感じ取れます。
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タグ: プログレッシブ・メタル英プログレPorcupine TreeSteven Wilson
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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