Asia: ベテランが揃えば強いに決まってる。プログレの衰退と共に決断を迫られた実力者たちによる英スーパーグループの1st。
by 関口竜太 · 2020-05-06
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はイギリスのスーパーグループAsiaの1stアルバムをご紹介していきます。
Asia / Asia
Asia(エイジア)はイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1960年代後半から1970年代にかけて音楽文化を大きく変えたプログレッシブ・ロックというジャンル。
パンク、グランジ、ニューウェーブが台頭してきたことで1975年あたりをピークに徐々に技巧的な嗜好を持つプログレは衰退の陰りを見せていきます。その結果1970年代末から1980年代初頭にかけては数多くのプログレバンドが解散、もしくは方向転換の岐路に立たされていました。
そんな中1980年にイギリスの五大プログレバンドYesからボーカルのTrevor Hornが脱退、続いてベーシストのChris SquireとドラマーAlan Whiteもバンドを離れてしまったため事実上の解散となってしまいます。残されたギタリストSteve HoweとキーボーディストGeoff Downesは同時期にYesのマネージャーだったBrian LaneによってKing Crimsonで有名なJohn Wettonと引き合わされ新バンド結成に向け動き出します。
ドラムは当初TOTOやM.S.Gで知られるSimon Phillipsが務めていましたが、後にEmerson, Lake & PalmerのCarl Palmerに交代され、レーンが提案したバンド名でAsiaは結成されます。
このようにAsiaはプログレッシブ・ロックの大御所ミュージシャン達が集った言わばスーパーグループの代表的バンドではありますが、キーボードを活かしたりプログレの名残はあるものの楽曲は非常にポップかつコンパクト、先述のTOTOやBoston、Jurneyのような80年代的なサウンドでロックファンからの批判も多かったとされます。
本作『Asia(邦題:詠時感〜時へのロマン)』はバンドを代表する彼らの1stアルバム。一部批判はあれどキャッチーなメロディとコンパクトな楽曲は時代の流れもあり全世界で大ヒットを記録します。
アルバム参加メンバー
- John Wetton – Lead vocal, Bass, Keyboard
- Steve Howe – Guitar, Vocal
- Geoff Downes – Keyboard, Vocal
- Carl Palmer – Drums, Percussion
楽曲紹介
- Heat Of The Moment
- Only Time Will Tell
- Sole Survivor
- One Step Closer
- Time Again
- Wildest Dreams
- Without You
- Cutting It Fine
- Here Comes The Feeling
ソング・ライティングは、ウェットンとダウンズのチームで行われメロディメーカーでウェットンとサウンドスケープのダウンズのコンビが時代にうまくリンクできた作品です。
#1「Heat Of The Moment」は全米シングルチャートで4位でランクインするヒット曲。イギリスながらアメリカン・プログレ・ハードの典型的なサウンドメイクとウェットンのキャッチーなボーカルから今聴いても納得の名曲です。ハウのギターは当時にしては少し古臭くも感じますがそこまでギターソロが注視された時代でもないのでSteve Howeという名前の安定感が買われているでしょう。
続いて邦題「時へのロマン」が日本盤のタイトルにも採用された#2「Only Time Will Tell」。モーグやブラス系シンセを使ったイントロが強烈で、高揚感を誘うヴァースからサビで波のように押し寄せるコーラス〜インターバルでのギターソロまで全てが素晴らしい一曲。
#3「Sole Survivor」はキーボードにおいてはプログレサウンドの名残があります。邦題は「孤独のサヴァイヴァー」。ハードロックな雰囲気の楽曲でツーバスやインターバルでの変拍子などテクニカル面もちらほら。
#4「One Step Closer」はイントロからシンセリードの柔らかな音色とスケールアップするタイトなキメとのコントラストが印象的。豊かなコーラスはアルバム開始から変わっていませんがボーカルのメロディラインにブリティッシュ・フォークの香りを感じずにはいられません。ラストはハウのギターソロからイントロのスケールでキメています。
続いては#5「Time Again」。オープニングで8分→16分→4分とテンポをコントロールしながら最終的にはTOTO系のシャッフルビートで本編へ入っていきます。ウェットンの力強いボーカルはKansasも彷彿とさせる一方、ジャズ的なアプローチも見られるプログレッシブな一曲。
#6「Wildest Dreams」はプログレバンドである彼らの実力の高さが生かされた楽曲。邦題は「この夢の果てまで」。スタジアムのライブを想像させるカウンターコーラスや8分で刻み続けるタイトなバッキング、その上で繰り広げられるハウの速弾きソロなど#5からの流れを殺さない一曲です。
#7「Without You」はKansasの「Magnum Opus」の前半にも思わせるバラードナンバー。インターバルではプログレバンドらしいキメもあり5分ながら様々な展開を見せてくれます。
「流れのままに」という邦題がついた#8「Cutting It Fine」。イントロではYesを想起させるアコースティックギターが印象的。バンドイン後もボーカルのオブリでギターが入ってきたりと軽快なロックサウンドを披露。歌えるナチュラルマイナーのリフ〜ギターソロが終わるとピアノ+ストリングスのオーケストレーションに変わりドラマティックに曲を締めています。
ラストとなる#9「Here Comes The Feeling」、邦題は「ときめきの面影」。#1の流れを汲むイントロは他の商業ロックバンドと肩を並べる一級品でシンセサイザーのコードワークはVan Halenの面影も感じます。ヴァースではシーケンスピアノの上で叙情的なボーカルがなぞり、ドラムのキメとリンクしながらコーラスという構成。SAW系シンセのリードサウンドもたっぷりと堪能でき、やはりプログレバンドの気高いサウンドはアメリカのそれとは一線を画しているなと思わせてくれる一枚です!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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