Lazuli「Saison 8」: プログレと根強い8という数字。メランコリックな感情が爆発するフレンチ・フォーク・プログレ2018年作!
by 関口竜太 · 2020-05-01
こんにちは、ギタリストの関口です。
本日はLazuliの2018年作をご紹介していきます!
Saison 8 / Lazuli
Lazuli(ラズリ)はフランスのプログレッシブ・ロックバンド。
来歴
1986年、南フランスのガルに住んでいたClaude Leonettiは悲運にもバイク事故により左手を故障、当時まで弾いていたギターが一切弾けなくなります。クロードは自身の音楽人生を見直しDTMやシンセサイザーの世界を探索することとなります。
1998年、そんなクロードは兄弟であるDominique Leonetti(Gt/Vo)を誘い、ここにLazuliは結成されます。
バンドにはレオネッティ兄弟の他マリンバとパーカッションを担当するFrédéric Juan、ベーシストSylvain Bayol、サイドギタリストにMarc Almeras、そしてドラマーYohan Simeonらが結集。マルクが脱退してしまう事態もありましたが5人は1999年にバンド名を冠したアルバム『Lazuli』によってデビューを飾ります。
プログレの持つ時にアンニュイ、時にメランコリックな雰囲気やエレクトロなアレンジ要素や打ち込みを加えた音楽は彼らの持つ叙情的な側面を大きく打ち出します。全編フランス語で歌われる歌詞には詩的な内容もあれば社会批判や哲学も含み憂鬱な雰囲気もありながらメッセージ性の強さで人気を博します。
2007年、3rdアルバム『En Avant Doute…』リリース前に新ギタリストGédéric Byarが加入。2009年のアルバム『Réponse Incongrue À L’Inéluctable』までこの体制が続きますが、このアルバムを最後にオリジナルメンバーのフレッド、シルヴェイン、ヨハンが脱退。新たにドラムのVincent BarnavolとキーボードのRomain Thorelが加入し2011年以降、すでに5枚のアルバムをリリースしています。
本作『Saison 8』は2018年リリースの8枚目スタジオアルバムとなります。
アルバム参加メンバー
- Claude Leonetti – Lead Vocal
- Gédéric Byar – Guitar
- Dominique Leonetti – Vocal, Guitar, Mandline
- Romain Thorel – Keyboard, Vocal
- Vincent Barnavol – Drums, Percussion, Vocal
楽曲紹介
- J’attends un Printemps
- Un Linceul de Brume
- Mes Amis, Mes Frères
- Les Côtes
- Chronique Canine
- Mes Semblables
- De deux Choses Lune
- Les 4 Mortes Saisons
アルバムの「Saison」は英訳では「Season」となり、すなわち8つの季節を表現していく内容だと察することができます。実際は彼らの音楽性を考えると複雑なのですが、バンドの持つアンニュイさとクロードの繊細な歌唱力は本作でも遺憾無く発揮されています。
美しいピアノとヴァイオリンのピッツィカートから静かに幕を開ける#1「J’attends un Printemps」。例によってタイトルも全てフランス語となりますがこの曲はオープニングらしく「春を待つ」ような内容になっています。イントロの雰囲気のまま丁寧に曲を紡いでいきますが、後半に向かうにつれ徐々にクレシェンドしていく構成はフランスのクラシック曲「ボレロ」を想起させますね。
続いて#2「Un Linceul de Brume」。霧や靄(もや)を意味するデジタルな雰囲気のイントロとヴァースが印象的なナンバー。YesのJohn Anderson並に繊細なボーカルでウェットに進行する反面、クロージングでは激しいツーバスのビートとノイジーでトリッキーなギターの暴走を聴くことができます。
友人や兄弟のことを歌った#3「Mes Amis, Mes Frères」。12弦ギターを使ったフォークの典型で、詩的かつハモンドオルガンを使ったプログレさを持ちながら頭二発のビートがロックな一曲。ジェデリックのギターソロも素晴らしいです。
南フランスのガルは海岸線沿いも存在する地域なのですが「The Coasts」を意味する#4「Les Côtes」は、怪しげで緊張感のあるシンセサイザーやピアノと一緒に紡ぐボーカルのヴァースが暗く奇妙な雰囲気を醸し出しています。
不思議なタイトルの#5「Chronique Canine」。「Canine」とは「dog」のことで、犬の年史について歌ったものなのか「クロニクルの犬」というものが存在するのか、その真意は不明ですが#4の流れを汲んでいるダークな一曲。暗い雰囲気はあるものの芯のあるビートで、バックコーラスも怪しさ満点。ある意味でSteve Vai的に聴こえるかもしれないです。
#6「Mes Semblables」は#3との関連があるのか再び仲間について歌うシーンです。オリエンタルなムード漂うイントロからメロディックなヴァースへと続いていき、サビのリフレインも絶妙に癖になる良曲。テーマは緩やかながらワウを効かせサスティンたっぷりのギターソロとヘヴィなビートが異世界への扉を開いてくれます。
直訳で「Two Moon Things」の意味を持つ#7「De deux Choses Lune」。クリーンアルペジオとパワフルなタムのイントロから、#5や#6のような芯のある演奏でいてかつ、ボーカルは撫でるように優しく繊細。2:45〜は幽霊のようなモジュレーションのシンセサイザーをリードに没入感のあるクロージングとなっていて、演奏をぶった切るラストは「Pull Me Under」を思い出しました。
ラストとなる#8「Les 4 Mortes Saisons」。平和な季節のアルバムかと思いきや英訳「The 4 dead seasons」から察するダークな世界観が浮き彫りに。曲はアコースティックギターとPink Floydぽさもあるソフトなサイケ感。そして今作も最後まで丁寧なボーカルがとにかく印象に残る素晴らしい一枚でした!
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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