Liquid Tension Experiment「1」: 米英スーパーインストグループの1st。求められたものだけに固執せず液体のような柔軟性に溢れる実験作。
by 関口竜太 · 2020-04-24
こんにちは、ギタリストの関口です。
先日4月18日は現Dream TheaterのドラマーMike Manginiの誕生日でしたが、その2日ずれて4月20日は前職のMike Portnoyも誕生日だったということで今日はLiquid Tension Experimentの1stアルバムをご紹介していきます!
1 / Liquid Tension Experiment
Liquid Tension Experiment(リキッド・テンション・エクスペリメント)はアメリカのスーパーグループでありプログレッシブ・メタルバンド。
来歴
速弾きを主体にしたヘヴィメタル専門レーベル、Shrapnel Recordsの創設者Mike Varneyがプログレッシブ・ロックを専門とすべく立ち上げたMagna Carta Recordsからのリリース作。
そのMagna Carta Recordsよりプログレッシブ・メタルのインストゥルメンタル、スーパーグループという案を打診された元Dream TheaterのドラマーMike Portnoyは、兼ねてより共演を希望しDream Theaterにも誘いながら一度は断られたJordan Rudessを今一度スカウトし1997年にLiquid Tension Experimentという企画が立ち上がりました。
ベーシスト、チョップマン・スティック奏者にはKing Crimson、Peter Gabrielバンドなど大御所バンドやプロジェクトで活躍するTony Levinが参加。
最後のギタリスト枠として当初はDimebag Darrell(Pantera, Damage Plan)やSteve Morse(Deep Purple)、Jim Matheos(Fates Warning)などが候補に上がりましたがいずれもスケジュールが合わなかったため、同じくDream Theaterの盟友であるJohn Petrucciが選出。
アルバムは1998年に本作の『1』、翌99年には『2』、そして3rdアルバムとして『Spontaneous Combustion』がリリースされますが、最後のこれはジョンが家庭の事情で参加不可だったため(奥さんの早産)Liquid Trio Experimentという名義でのリリース。楽曲も『2』のころにセッションされたものを中心に構成されました。
アルバム参加メンバー
- John Petrucci – Guitar
- Mike Portnoy – Drums
- Tony Levin – Bass, Chopmanstick
- Jordan Rudess – Keyboard
楽曲紹介
- Paradigm Shift
- Osmosis
- Kindred Spirits
- The Stretch
- Freedom Of Speech
- Chris And Kevin’s Excellent Adventure
- State Of Grace
- Universal Mind
- Three Minute Warning (part 1)
- Three Minute Warning (part 2)
- Three Minute Warning (part 3)
- Three Minute Warning (part 4)
- Three Minute Warning (part 5)
後天的に3/4がDream Theaterとなった本プロジェクトの1stアルバムは4人のバンドケミストリーを試すかのようなジャムセッション色が強い一枚。
#1「Paradigm Shift」は#8「Universal Mind」や次回作収録の「Acid Rain」と並んでこのバンドを代表する楽曲の一つ。Dream Theaterのライブでも演奏された機会があり、2004年の武道館公演を収めたライブ盤『Live at Budokan』の「Instrumedley」にて聴くことができます。
極めて明快に「超絶」を提示した導入とメインテーマ、ジョンのギターとジョーダンのパッドシンセによるユニゾンはここから彼らの音楽には欠かせない存在となります。中盤からのジャムタイムはKing Crimson感もありTony Levinの意向を汲んだものに思えます。怪しげなテンションにシタールサウンドを模したオリエンタルなフレージングも特徴的です。
ジョーダンが得意とするシンセパーカッションソング#2「Osmosis」。幻想的なアンビエントに皆が沿う形で丁寧に作り込まれた一曲。
続く#3「Kindred Spirits」はメジャーペンタのリフとサビとなるメロディの構築にDream Theaterらしさを垣間見られるアメリカン・メロハード。インターバルのコミカルながら超絶な演出など遊び心たっぷりで心地よい曲です。
トニーのファンキーなベースをモチーフにしたフュージョンライクな#4「The Stretch」に続き、#5「Freedom Of Speech」は9分に及ぶ長尺のバラード。ジョーダンのアップライトなピアノやジョンのギターソロなど、センシティブな美しさと後半に向かうに連れ激しさを増していくハードな構築は『Falling Into Infinity』と『Metropolis Pt.2』の中間のような雰囲気を醸しています。
続く#6「Chris And Kevin’s Excellent Adventure」。ポートノイのドラムソロを導入にトニーのチョップマン・スティックとの絡みを収録したインターバル的楽曲。タイトルはアルバムの宣材写真撮影の際、カメラマンが二人の名前をそれぞれ「クリス」と「ケヴィン」に言い間違えたことが元ネタとなっています。
賛美歌モチーフの#7「State Of Grace」。#6に代わって今度はジョンとジョーダンによるユニットです。二人による演奏はその後行われたライブ盤『An Evening With John Petrucci & Jordan Rudess』を思わせますね。
そして先述したもう一つの代表曲#8「Universal Mind」。メインテーマとなるギターの高速フレージングはスウィープとオルタネイトを混ぜたハイブリッドなピッキングでメジャーキーの明るい響きもあり本作でもハイライトに位置付けられます。楽曲の構成は#1同様、テーマやリフを回したあとでソロ回しのセッションに移り、最後にもう一度テーマへ戻ってくるというもの。非常に高難易度ですがセッション型プログレメタルのスタンダードですね。
公式においても本編は#8までなのですが、#9〜#13は「Three Minute Warning」 という全5パート28分半に渡るジャムセッション曲。「バンドは曲を作る」という固執した概念に意義を唱えるトニーのアイディアで、フュージョンでもありメタルでもありとひたすらにライブ感を求める人のための楽曲となっています。なおアルバムの裏表紙には以下のような注意書きも。
Caution: “Three Minute Warning” is not for the musically faint-hearted, impatient, or critics of extreme self-indulgence. If you fall into any of the above categories, please hit the stop button on your CD player after track #8.
注意:「Three Minute Warning」は音楽的に気が弱かったり、せっかちだったり、極端に自己耽溺の強い評論家のための曲ではありません。これらに該当する人はCDをトラック8で停止してください。
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タグ: プログレッシブ・メタル米プログレDream TheaterJohn PetrucciJordan RudessKing CrimsonLiquid Tension ExperimentMike Portnoy
関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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